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01.




 これは、大学に入って初めての夏に、私の身に起きた話。


 丁度今と同じ時期。肌を刺すような日射しが降り注ぐ八月。

 私は高校からの付き合いである友人三人と一緒に、都心から少し離れた場所にある、大型の遊園地に遊びに行った。


 前の年は受験生で遊んでいる暇もなかったし、合格後も自動車免許を取りに教習所に通ったりと、何かと忙しい生活を送っていたため、中々遊ぶ暇が取れなかった。

 そんな私たちは、この夏休みという長い休みを使って遊び尽くすために、泊まりがけで遊園地に行こう、と予定を立てて、意気揚々と赴いた。

 今から私が話すのは、その遊園地で起きた話しだ。


『一度来て見たかったんだ~!』と、友人の中で一番テンションの高かったのが、絶叫系マシンが好きな子……名をセイラとしよう。セイラが飛び跳ねる勢いで喜んでいた。

 というのも、その遊園地以外にも行く候補はあった。でもセイラが何が何でも此処がいいと譲らず、終いにはこの遊園地の良い所というプレゼンテーションまで行うものだから、皆折れた経緯があった。力で勝ち取った事も嬉しかったのだと思う。私たちは苦笑ものだったけれど。


『まぁ、連休でもないと来られないのは確かだしね』

『それにうちら、着ぐるみと一緒に踊ったりするタイプじゃないもんね』


 仕方が無いな、という風に笑いながらそう云っていたのは、マドカとメグミ。


 セイラにマドカにメグミ、そして私含む四人で、夏を楽しもうとしていた。まぁ、酷い思い出になってしまったのだけれど。


 それでその遊園地というのは、割とレベルの高い絶叫マシンが中心のもので、幼い子どもが居るような家族には向かないところだった。

 私たち四人は絶叫マシンは好きだし、墓所のような子ども向けのものでは物足りなさを感じるくらいだったので、丁度良かった。久し振りに喉が痛くなるほど叫ぶ事が出来た。遊園地自体は選んで良かったと思う。


 そしてそこは、お化け屋敷も絶叫するほど怖い作りになっているらしい、という評判もあったそう。今となっては、その情報源の発信者が発信者だったこともあり、嘘だったのかもしれないけれど。

 お化け屋敷って、一つの遊園地に一つか二つほどだと思っていたけれど、その遊園地には四つもあった。

 出てくるまで最長で四○分かかるものから、最短では一○分と、規模は四つとも違ったけれど、見た目はどれも怖そうだったのを覚えている。

 一通り絶叫マシンを乗ってしまった私たちは、その四つのお化け屋敷の一つに入る事になった。それもセイラの提案、というか、強張りから始まって決まったのだけれど。


 私たちの心霊系に関しての耐性度はまちまちだった。私は強くもなければ弱くもない、といったところ。メグミも同じくらいだと思う。マドカは全然ダメで、セイラは強かった。なんなら心霊スポットに行くほどセイラはその手のものが大好きだった。


 苦手なマドカのために、私たちは最短コース一○分のお化け屋敷に入る事にした。

 いや止めてやれよ、とやんわりと誘導してみたものの、セイラの強張りの前では太刀打ち出来なかった。流石にちょっと腹が立ったけれど、セイラの機嫌を損ねるのを懸念してマドカが折れたので、それ以上何も言わなかった。


 ここでもっと強気になって止めていれば、最悪な状態にはならなかったのかもしれない。


『何か、大分凝った設定だね』


 入る前に、お化け屋敷の看板に書かれたテーマを読みながら、メグミが呟いた。

 お化け屋敷にはテーマがある。廃病院だったり、廃校だったり、色んなテーマに沿ってお化け屋敷は作られる。私たちが入ったお化け屋敷のテーマは、田舎の風習を元にしたテーマだった。


 簡単に説明すると、その村の山神様のお気に入りの娘……後に山神様の伴侶となったその村娘に酷い扱いをした事で、村全体が呪われてしまった。その呪いの元である山神様の怒りを鎮めるために、伴侶殿の拝殿に、山神様と村娘の婚姻日に白い花を捧げる――という、お祝い事に見せかけた何とも恐ろしい行事があり、村に引っ越してきた立場である入場者は、初めてその行事に参加する、といったものだった。


 白い花を捧げるって書いてあるけど、それって人身御供の代わりなんじゃ……? なんて考えながら、他の三人を見た。三者三様の表情を浮かべていたけれど、他の二人と違って、マドカは顔を青くしていた。本当に可哀想だった。


 そんなこんなで、まずメグミが入る事になった。笑顔がちょっと引きつっていたけれど、手を振って入って行くくらいには余裕が有りそうだった。

 そんなメグミを見送って、私たちは待っている間にお化け屋敷の話しをした。

 セイラ曰く、この短いお化け屋敷の怖いところは、行きではなく帰りが怖いのだという。エキストラが驚かせに来るといった演出はないけれど、何処からともなく声が聞こえて来たり、背後には誰かの気配を感じたりといった、不気味な雰囲気が売りらしい。彼女は鼻息荒く語っていた。


『私、そこで飲み物買ってくるよ。二人は順番待ちしてて』


 真夏の陽気が暑すぎるのもあるけれど、絶叫マシンを乗った後、喉がガラガラなのに水分補給しなかったのもあって、喉がはり付く感じがするほど乾いていた。興奮気味に話すセイラも時折ダミ声になっていたし、メグミはそのまま入って行ってしまった。きっと今頃喉が乾いて大変だろう。なので私が代表して買いに行く事にした。


 二人の返事を聞いてから、近くにあったドリンクワゴンに足を向けた――その時だった。


 おくりましょうか?


 不意に、声が聞こえた。

 遠い場所からのような、でも耳元で囁かれたような、何とも言えない微妙な距離から、その声は聞こえた。

 何だ? と、周囲を見回す。けれどそれらしい人物の姿は見当たらない。気のせいか? と思いたかったけれど、何の温度の感じない声音が、逃避するのを許してくれなかった。


 思い返せば、あの時の私は、気にする事で自分の身を守ろうとしていたのかもしれない。




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