44 作戦準備
豊かで華やかな赤い髪をふわっと巻いて背へ流し、頭にはリボンの形をした金のバレッタをとめ、揃いの首飾りをつけた胸もとを大胆に開いたドレスをまとった彼女。
女性らしい体型が強調されて、女であるオルテンシアでさえも、一瞬どきっとしてしまった。
「キャメリアさま、ようこそ来てくれたわね」
そう。オルテンシアの独断と偏見により、招待客の筆頭にはキャメリア=フエゴがいた。
「なにがようこそ、よ。陛下を誘惑する作戦を開きます……だなんて、陛下に不敬にもほどがあるわ」
キャメリアは着た早々批判を口にしているが、ばっちり決まったドレスに化粧に髪型を見れば、結構やる気が垣間見える。嫌々来たわけではなさそうだ。
機嫌を損ねない程度に、軽くおだてておく。
「それでも来てくれて嬉しいわ。あなたがいれば百人力。きっと陛下のお心をこれまで以上にぐっと摑めると信じているわ」
しかし、ナランは納得していないようで震える声を割り込ませてきた。
「な、なぜこの人がここへ!? オルテンシアさま、作戦はわたくしたちだけで行うのではありませんの? だいたい、場違いですわよ。庶民が」
とたん、すっと場の空気が冷える。
キャメリアは、ふふふ……と低い笑い声をこぼした。豊かな赤髪を自慢するように右手でかきあげ背へ流す。
「これはこれは。仲間をぞろぞろと引きつれないと廊下も歩けないご令嬢さまらしいお言葉ですわねえ」
「なんですって!?」
「ご実家が立派でたいへん羨ましいですわ~。その権勢を笠に着て、陛下のご寵愛を勝ち取ればよろしいのよ。さぞ簡単でしょうね」
「な……な……」
すっかり言い負かされているナランだが、代わりに取り巻きの女子たちが応戦する。
「陛下のご寵愛とご実家の権勢は関係ございませんわ。それは陛下への侮辱でしてよ。大概になさいませ」
「ああ、見苦しいこと。この人は、恵まれた境遇のナランさまをひがんでいるのだわ」
多勢から嫌味を言われて、さすがのキャメリアもかっと頬を赤く染める。だが、なまじ美人は怒り顔も美しく、様になっていた。
(そろそろ止めないと……)
放っておけば、せっかくの計画が台無しになりそうだ。オルテンシアは少々うんざりしながら声を割り込ませた。
「双方お待ちなさい。目的を見誤ってはならないわ」
キャメリアもナランも取り巻きたちもはっと顔を上げる。オルテンシアは彼女ら一人一人と目を合わせながら嚙み含めるように伝えた。
「今回の『国王誘惑作戦』の目的はひとつ。打倒リーリエ=ティエラよ」
一同の表情がすっと引き締まる。
それぞれ、リーリエには思うところがあるらしかった。
「あの白の聖女……、自分は目立つのは苦手ですう、みたいな顔をしながら連日陛下を独り占めしているなんて」
「素晴らしい人格者だなんて言う子もいるけれど、きっと表面だけよ」
「陛下の一の妃はわたしのものよ。あんな子供に負けるわけにはいかないわ」
意見が一致したところで、改めてオルテンシアは告げる。
「いい? 今、わたくしたちは言うなれば運命共同体よ。敵の敵は味方。個々の寵愛の競い合いは後回しにしてまずは共同戦線を張り、リーリエ=ティエラから陛下を取り戻しましょう」
皆で国王をもてなし、最高に楽しい思いをさせてこちらへ目を向けさせるのだ。
きっと、本来であれば最も好みの女性であるキャメリアがいれば、うまくいくに違いない。
ナランはそのほかの女子には悪いが、彼女らは賑やかし要因として活躍してもらう。
「――すみません、遅くなりました」
最後に、もう一人参加者が到着する。
「どうぞ、待っていたわ」
現れたのは、レオーネ=ルーチェだった。
気配り上手で、宴会の進行役としても活躍できそうな彼女を外すわけにはいかない。
「みんな初対面かしら? 彼女は……」
紹介しようと思ったのだが、レオーネ自身が首を横に振って話し出す。
「ナランさま、こんにちは。先日はありがとうございました。まあ、キャメリアさまもいらっしゃったのですね。その節は――」
(さすが『敵を作らない妃』……!)
すでに彼女はそれぞれと交流を深めていたようだった。
「もしかして、レオーネさまはリーリエ妃とも交流があったりするの?」
戦々恐々としながら尋ねてみる。
しかし、レオーネはあっさりと答えた。
「いいえ、挨拶程度なんです。リーリエさまは、なかなかわたしとは話が合わなそうな印象でして」
常に金儲けのことを考えているレオーネと、持てる財産をすべて奉仕に投げ打つリーリエ。
たしかに、対極的な二人なのだった。




