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43 寵愛阻止

「え、リーリエ妃の部屋へ……!?」

「そう、あの薄倖そうな幼い女ですわ。その日だけではありませんの。あれからもう三日、毎晩後宮へ渡っては、あの女と一緒に過ごしているのです」


 憎々しげに吐き捨てるナランは、華やかなキャメリアが注目されるより悔しそうだ。周りの女の子たちも一緒になって加勢する。


「リーリエ=ティエラは宴の際、なにを披露するでもなく静かに座っていたのですわ」

「一度だけ皆で順番に陛下にお酌をしましたが、そのときはお声もかからなかったのに」

「まったくもって納得できません」

「きっと卑怯な手を使ったのですわ」


 嫉妬もあるのだろうが、彼女らの言い分にはオルテンシアもうなずくしかない。


(変だわ)


 オーキデ王の好みの女性は、自分で言うのもなんだがかつてのオルテンシアのような派手で強い女性だ。

 キャメリアも彼の好みだし、甘えたい彼にとって大人びたレオーネも寵愛の対象となるのはわかる。


 しかしながらリーリエは万人受けするとびきりの美少女だが、儚げで物静かなところが彼の好みとは正反対なのだ。

 彼女が暫定的な序列で上位に選ばれたのは、国王の意向ではなく周囲の家臣たちの好みでそうなっているだけだと思っていたのだが。


(現に、ナランたちの話が本当なら、宴の席でも目立っていなかったとか)


 なのに、急にその晩から親しくなるのはおかしい。


(わたしが生まれ変わったように、陛下の好みも以前とちょっと変わっていたりするのかしら?」


 しかし、それならもっと早くからリーリエを目に掛けた行動を起こしていたはずだ。キャメリアは既に何度か夕餉を共にしているのだから。


(やっぱり、リーリエには裏がありそう)


 早くソール=ヴェントに相談したい。彼の持ち帰る調査結果が待ち遠しい。


(ううん、待っているだけではだめだわ。自ら動かなくては)


 仮にリーリエが怪しいとしたら、彼女はグラキス国滅亡のために動いていることになる。そんな子が国王の寵愛を受けるなど、滅びの道まっしぐらだ。


「阻止すべきね」


 重く言う。とたん、ナランたちが湧きたった。


「さすがオルテンシアさま、その言葉を待っていましたわ」

「絶対にこのままではいられません」

「力を合わせて、あの子を追い落としましょう」

(追い落とすって……、完全に勢力争いね)


 しかし、ここにいるのは皆、それなりの貴族の令嬢たち。こういうときの団結力は頼りになりそうだった。


(そうね、一人で頑張らなくてもいいのだわ)


 この際、利害が一致する相手は全員丸め込もう。天敵だったソールとだって、手を組めたのだから。

 オルテンシアは立ち上がり、ナランをまっすぐに見つめる。彼女は崇拝するような目つきで見つめ返してきた。


「わたくしに考えがあるわ」

「お聞かせくださいませ」

「人を集めて陛下が喜ぶ遊びをするの。我を忘れるほど楽しませて、虜にする……言うなれば『国王誘惑作戦』よ」


 ナランの目がいっそう輝く。


「やりましょう!」


 内容を詳しく話すまでもなく、その場の全員とも雰囲気にのまれて頬を紅潮させたのだった。





 作戦の準備には、どんなに急いでも五日かかった。

 まずは兄ラヴァンドの助力を仰いだ。

 現在、虹の絵を描くことに熱中してほとんど画家になってしまった兄だが、一応腐っても国王の近習でもある。その立場から、後宮にいる妹が愉快な仲間たちと共に主催する『楽しい遊戯会』に是非とも参加してやってほしいとお願いしてもらった。


(病み上がりの妹たってのお願いとあらば、お兄さまもさすがに動いてくれるわ)


 それから、宴会場をおさえた。

 ここは、実家の金に物を言わせた。

 後宮の南東に位置するオルテンシアの部屋から最も近い離宮、ロータス・ガーデンだ。

 ここは、北西のミュゲ・ガーデンや南西のローズ・ガーデンとだいたい同じ造りをしている。

 だが、罪人の隔離施設であるミュゲ・ガーデンや、客人応対用のローズ・ガーデンと違って、ロータス・ガーデンは国王がお気に入りの妃と共に過ごす場所だった。そのため、四季折々の花が植えられた観賞用の美しい庭がある。


(懐かしいわ)


 かつてのオルテンシアは、部屋から一番近いのもあって、国王とよくここで時を過ごしたものだ。一番のお気に入りは、星をかたどった形をした緑色の池で、真夏の太陽が照りつけると光を弾いてエメラルドのごとくきらめくところだった。


(とはいえ、今は感傷に浸っている場合ではないわ)


 宴の計画は着々と進む。

 キッチンメイドたちを買収し、かつての記憶を頼りにオーキデ国王が好むごちそうをふんだんに用意してもらった。

 甘い味付けの肉料理、魚料理をたっぷりと。嫌いな野菜類はすべて排除だ。

 そして、肝心の仲間たちの顔ぶれは――。


「どういう風の吹き回し? わたし、あなたと友達になった覚えはないのだけれど」


 ずん、と立ちふさがったのは、居丈高な態度の()()だった。


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『後宮恋恋』

『愛され天女はもと社畜』

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『聖女のわたくしと婚約破棄して妹と結婚する? かまいませんが、国の命運が尽きませんか?』

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