42 妹分
カエルの折り紙に奮闘していると、複数の軽い足音が近づいてきた。
顔を上げたところで、部屋の外から女性の声がする。
「オルテンシアさま、たいへんです」
「……ナラン?」
思いがけない人物の来訪に、目をしばたたく。
躊躇いがちに戸を開けると、勢い余った調子でナランとその取り巻きの女の子三人ばかりが部屋へなだれ込んできた。
「な、なに?」
「オルテンシアさま! 臥せっていらっしゃると伺いましたが、お加減はいかがですの?」
ナランの勢いに押されつつ、なんとか返答する。
「すっかり元通りよ、ご心配ありがとう」
「それはよかったです! お知らせしたいことがありますの」
言うなり、ずいっと身を寄せてくる。
「待って。なにごと? わたくしたちそんなに親しかったかしら」
あからさまにこちらを見下した態度を取った彼女はどこへ行ったのだろう。
つい嫌味を言ってしまうと、ナランは動きを止める。そして、ぐっと唇を嚙みしめた。
「……その、先日はご無礼をいたしましたわ。反省しておりますの」
震え声で、素直な謝罪を告げてくる。
後ろに控えている取り巻きたちも、遠慮がちにそれを見守っていた。
「わたくし、間違っておりました。お美しく自信に満ち輝いていらっしゃったオルテンシアさまが本当は醜女だと知って、上に立てると思ったのです」
(ずいぶんな言いようね……)
呆れるものの、対するナランは至って真面目だ。拳を握りしめて続ける。
「ですが、オルテンシアさまはやはり気高きオルテンシアさまでした。先日は庇っていただきありがとうございました。悪魔のように恐ろしい男に向かって、物怖じしない態度、その……かっこよかったです」
言って、頬を髪と同じオレンジ色に染める。
「つきましては、今後は是非ともオルテンシアさまの妹分にしていただきたく、こうして参りました」
示し合わせたように、背後の女の子たちが進み出る。皆、手に花や果物、菓子などを持参していた。
「賄賂?」
「滅相もございません! お詫びとお礼の印ですっ。どうか、今後とも仲よくしてくださいませ!?」
優雅な令嬢が目を剥き、必死の形相で頼み込んでくる。
一度目の人生でも、ナランはオルテンシアの取り巻きをしていたが、ここまで一生懸命な姿を見たことがない。
以前のごとく陰でいたずらの薬を盛られたり、ねたまれたりするのはごめんだ。だが、違う関係を築けるのなら。
(協力者は多い方がいいし)
傍にいることくらい、許してあげてもいい。
「勝手にすればいいわ」
「ありがとうございます!」
ぞんざいに告げたのに、ナランは涙を流さんばかりに喜びを爆発させる。周囲の女の子たちも、一様にほっとしたふうに肩をなでおろしていた。
「せっかくだからお菓子はみんなでいただきましょう。今からここでお茶会でもしましょうか?」
「はい! ぜひご一緒させてくださいませ!!」
流れでお茶の支度をしているところで、はっと我に返る。
「そういえば、『たいへん』というのはなんだったの?」
「ああっ、そうでしたわ!」
ナランもまた我に返ったふうに目を見開く。取り巻きの令嬢たちはナランに注目し、彼女の発言を息をひそめて待った。
「一大事、なのです。これは後宮勢力を覆す、一大事ですわ」
緊張みなぎる声に、オルテンシアも手に汗握る。
「オルテンシアさまが臥せっていらっしゃるとき、とうとう公に陛下が後宮へお渡りになりました。わたくしたちを集めて盛大な宴が催されたのです」
これまで個人的に気になる妃と茶や食事の席を共にすることはあったが、なかなかどうして意気地なしの国王は、進んで妃候補たちとの交流をしてこなかったのだ。
それが、とうとう重い腰を上げた。本格的な一の妃選びに取り掛かったといえる。
オルテンシアはごくりと唾をのみこんだ。
「もしかして、それぞれが得意の芸を披露したりしたの?」
「ええ。そうなのです。わたくしはフルートを少々お吹きしましたわ」
ナランのことは訊いていない。
「キャメリアは? 陛下は彼女を一番に気に入ったのではない?」
すると、ナランは頬を引きつらせる。かねてより、キャメリアのことを目の敵にしていたので、悔しげだ。しかし、振り切るように首を横に振る。
「いいえ。たしかに宴ではあの赤髪の女が一番目立っておりました。それから、落ち着いた振る舞いで飲み物や食べ物のサーブをうまくさばいていた商人風情のレオーネ=ルーチェにも心惹かれたご様子でした。ですが、腑に落ちないのはその後なのです」
興奮で赤らんだ顔をずいっと寄せてくる。
「なぜか宴の後、陛下はリーリエ=ティエラの部屋へお下がりあそばしたのですわ」




