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25 部屋割り

 外へ出ると、空には薄雲の切れ間から太陽が顔を出していた。


(まぶしい……)


 冬眠から覚めた熊の心地で目をしばたたかせる。赤くちらつくランプの残像が緑に光るのを何度も瞬きして追い出し、建物を離れて楡の木陰に身を寄せた。


「それで、なんだ。もったいをつけずに早く言え」


 楡の葉よりも濃い緑色の頭をしたソールが焦れた声で問いかけてくる。オルテンシアは屈みこみ、手ごろな木の枝を拾った。

 地面に大きな長四角を描いてみせる。そしてその左上に、小さな四角をつけ足した。


「これが後宮で、小さいのがここミュゲ・ガーデンよ」


 ざっくりとした地図のつもりだ。ソールは膝に手を当て、覗き込んでくる。


「ミュゲ・ガーデンは離れているから、来るには女の子たちは外へ出ないといけないわ。でも、犯行は夜間。基本的に外出は無理なのよ」


 後宮は国王の寝所でもある。安全面から、簡単に妃が外へ出られる造りなわけがない。


「基本的にというならば、例外があるのだな」


 的確な指摘に、オルテンシアはうなずく。


「ええ。庭つきの部屋を持つ子なら、人目を忍んで外へ出るのは可能ね」


 そう言って、後宮の図の四方の角、そして北と南の中央部分に丸をつける。


「庭つきの部屋は六個。四隅と南北の中央よ。まず、あなたも知っている通りわたくしの部屋がここで、ナランがここ」


 南東と南西の印をそれぞれ差しながら説明する。


「その中央、南の一番大きな部屋の住人がキャメリア=フエゴ。おそらく現状で陛下が一番気に入っている女性ね」

「キャメリア・フエゴ……」


 嚙みしめるふうにソールが復唱する。おそらく地図と人名を頭に叩き込んでいるのだろう。


「その正反対側の北の中央部屋がリーリエ・ティエラ。『白い聖女』と呼ばれる人格者よ」

「リーリエ・ティエラ」

「残る角部屋だけれど、ミュゲ・ガーデンに一番近い北西の部屋はレオーネ=ルーチェ。そして北東の角部屋は、一人部屋ではないの。広い部屋を四人の女の子たちが分け合って住んでいるわ」


 だから、四人が利害の一致した仲間ではない限り、夜中にこっそり抜け出すのは不可能と思われた。


「つまり、商人の殺害が可能な女共は、お前とナラン=ソンブラ、キャメリア=フエゴ、リーリエ=ティエラ、レオーネ=ルーチェの五人に絞られるということだな」

「そのほかの妃候補であれば、目撃情報が必ずあるはずよ。なにせ、お互いの足を引っ張りたい女の子たちが百人もひしめいているのだから」

「なるほどな」


 深くうなずいてからソールは、オルテンシアの描いた後宮の図を足で踏んだ。ぐりぐりと消し去り、息をつく。


「参考にさせてもらう。だが、この話は他の者にはするな。情報が洩れれば相手に警戒をさせる」

「わかったわ。ただ、こちらはこちらで動かせてもらう」


 胸を張って宣言すると、ソールが眉根をぎゅっと寄せる。


「なにをするつもりだ」

「怪しい子にそれとなく近づいて情報を得るのよ」

「余計なことはするな」

「いいえ、余計なことではない。わたくしが成すべきことなの」


 反論は聞かないとばかり宣言する。ソールは不可解そうに右眉を上げた。


「さっきも似たような発言があった。お前の目的はなんなんだ?」

「女に興味なんかないでしょう。ほうっておいて」

「はぐらかすな!」


 いらつきを隠そうともせず、彼は声を荒らげる。


(なにも言わないで納得してくれる相手ではないか)


 仕方がないから、ほんの少しだけ教えてあげよう。


「しいて言うなら『この国の明るい未来』よ」

「なんだって」

「わたくしの目的はグラキス王国の平穏」

「……」


 ひどく意外そうなまなざしがオルテンシアを貫く。「お前のような女が言うか?」とばかりの目線だ。


「正直に話したわよ」

「あ、ああ」

「これでいいわね。では、解散しましょう」


 オルテンシアは背を向ける。ソールはそれ以上突っ込んでくることはしなかった。


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↓こちらもどうぞ。完結小説です↓
『後宮恋恋』

『愛され天女はもと社畜』

↓短編小説はこちら↓
『聖女のわたくしと婚約破棄して妹と結婚する? かまいませんが、国の命運が尽きませんか?』

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