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 テーブルの上は何枚ものドレスに繊細な輝きを秘めたジュエリー、手袋や扇子といった小物が所狭しと積みあがっていた。


「まあ綺麗。まるで夜空のきらめきね」


 言葉では褒めつつ……心の中では嘆息する。

 

(どこの行商人?)


 しかし、平静を装って尋ねてみる。


「皆さまで、なにをなさっていたの?」

「冴えないレディたちへわたくしからのちょっとしたご提案をさせていただいていましたの」


 ナランが頬を上気させて得意げにテーブルの上を示した。すかさず、隣にいた女の子が合の手を入れる。


「わたくし、ナランさまに髪を結っていただきましたの。そうしたら、このようにとても華やかに」


 そういう彼女は、華やかというよりほつれ髪の目立つ緩いアップにされているだけだ。ただ、脳天に蝶をかたどった大きなダイヤの髪飾りがついていて、そこだけ華やかといえば華やかである。


「ナランさま、どうぞわたくしにも見立ててくださいませ」


 反対側の隣の子が、媚びた声を出す。その瞳はテーブルの上の真珠の飾りへ向けられていた。


(ナランのアドバイスがほしいというより、ジュエリーがほしいと言わんばかりね)


「仕方ないわねえ」


 しかし、頼られた本人はそれに気づいておらず、まなじりを下げて小鼻を膨らませる。

 育ちがいい分、根が正直すぎて、おべっかをそのまま受け取ってしまっているのだった。


(……かつてのわたくしも)


 オルテンシアも、こうやって大勢の取り巻きたちに囲まれていた。


(ここまで愚かではなかったとは思うけれど……)


 しかし、こうして他者が輪の中心でおだてられているのを客観視すると、自分もそうだったのかもしれないと感じ、なんともいえない恥ずかしさがこみ上げる。


『オルテンシアさまの髪型、とっても素敵ですわ』

『わたくしも真似させていただきたいです』


 オルテンシアの着たもの、身に着けたものが流行り、気づけば取り巻き全員が同じような格好になっていた……などということもあった。


(さぞかし外から見たら滑稽だったでしょうね)


 他人の振りを見て我が身の反省をする。

 もう二度とあのような自分には戻りたくない。


「ねえ、せっかくですから、オルテンシアさまのお姿も見栄えよくなるようにお見立てしましょうか?」


 ナランが提案してくる。

 正直興味がないが、話の流れ的に断りづらい。曖昧な笑みで答える。


「そうね……」

「まかせてくださいな。……ちょっと、そこのあなた。あちらのドレッサーを開けて。……違う違う、そちらでなく、ああもう」


 取り巻きを顎で使おうとしたものの、指令がうまく通らなかったようだ。焦れて立ち上がったナランは自ら部屋の片隅へ向かい、ドレッサーの引き出しから綺麗に畳まれたストールを数本持ってきた。

 ぞんざいにテーブルの上へそれを投げれば、さながら虹のように広がった。


「なんて素晴らしい」

「どれも極上のシルクではありませんの」

「まあ、隅々まで精緻な刺繍が」


 少女たちの褒め言葉に乗せられて、ナランはひときわ声を高くする。


「こういうのを一枚肩に掛けるだけでずいぶんと垢ぬけてよ」


 試しに……とばかり、鮮やかな山吹色のストールをオルテンシアの胸もとへ当てがってくる。


(これは……さすがに)


 鏡を見たわけではないが、全然似合っていないとわかる。

 黒々しい紫色のぼさぼさ頭に、補色にあたる黄みの強い色を合わせられたのだ。見る人に、いびつで対照的な印象しか与えない。


 しかし、よくわきまえた取り巻きたちは口々に褒めたおす。


「たったの一枚添えただけで雰囲気が変わりますね」

「お顔色が映えて見えますわ」


(そんなわけない。まだ素朴な白とか黒を持ってこられたほうが似合うでしょう?)


 しかし、オルテンシアはナランを論破したいわけではない。ぐっと我慢して無難な返答をする。


「それはよかったわ」


 すると、ナランは瞳をきらりと輝かせる。


「よろしければお譲りしますわ。わたくしたちの友情の印に」

(え……?)


 一瞬、オルテンシアは混乱した。

 代わりに、周りの子たちが羨ましそうなため息をつく。


(まさか、わたくしにこれを恵むと言ったの? ナランが?)


 信じられない思いで彼女を見つめる。


(このアクア家のオルテンシアに?)

「どうぞ、ご遠慮なさらず?」


 しかし、得意げに見返されて、ますますもって困惑の沼に陥った。


(わたくしのほうが実家の各が上だから、これまで下手に出ていたわけではないのね)


 ナランがオルテンシア見下すようになったのは、美しくないから。

 自分のほうが女として勝っているから――、そういうことか。


(わたくしのほうが格下、と判断したのね。ふうん……なるほど。人って、いろんな側面を持つものね)


 一度目の人生でオルテンシアがふれ合い、『こういう人間だ』と思い込んだ別の人々も、二度目では違う性格が見えてくる。つくづく、国王の一の妃選びに介入するのは慎重さが求められるようだった。


(主観に囚われず、客観的に見てその人となりを判断していかないと)


 心のメモにしっかりと留め置いた。


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『後宮恋恋』

『愛され天女はもと社畜』

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『聖女のわたくしと婚約破棄して妹と結婚する? かまいませんが、国の命運が尽きませんか?』

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