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第九十七話『しゃべり好き、歓喜する』

「ここはメニューの幅も広いんだ。ボクはもう決まっているから、皆はじっくりと決めておくれよ」


 上機嫌な様子で、アリシアは俺たちにメニューを差し出してくる。ご飯ものからパン、シチューやパスタまで、確かに幅広いメニューが取り揃えられていた。さすがにドリンクバーはなかったが、ここが異世界だということを忘れかけるくらいには豊富な品揃えだ。


「そうだな……じゃあこれにしよう」


 そう言ってミズネが指さしたのは、様々な野菜が取り揃えられている大皿のサラダと小さめのグラタンだった。エルフは菜食主義とかいうが、この世界でもそこは正しいのだろうか……? あれだけ大食いなのを思うと、最早菜食なんて関係ない気もするんだけどな……。


「あたしはこれで。基本的に外れはないし、ヒロトも気軽に選んでいいわよ」


「……悪いな、こういうところに来ると目移りするタイプなんだ」


 ネリンがハンバーグのような肉料理を選択し、まだメニューを決めていないのは俺だけになった。ネリンが隣からそうアドバイスしてくれるが、むしろどれもおいしそうだから迷っているのが実情なんだよな……


「……じゃあ、これにしようかな」


 迷った末に選んだのは、とにかく様々なメニューが用意された定食のようなものだった。どれを食べるか決めきれなかった俺からするとまさに渡りに船のようなメニューだ。


「よし、これでみんな決まりだね。……おーい、注文を頼むー!」


 アリシアが満足げに頷くと、ウェイターさんを呼んで手際よく注文を済ませていく。そのメニュー名は聞きなれない物ばかりだったが、少なくともカガネではポピュラーな料理に当たるのか、誰も不思議そうな顔をしてはいなかった。


「……さあ、これで注文も終わったね。……それじゃあ、ご飯が来るまでたくさんお話ししようじゃあないか」


「……アンタ、本当にしゃべり好きよね……」


 ようやくだといわんばかりに目を輝かせるアリシアに対して、気力を取り戻したネリンが呆れたような表情を見せる。しかしそれに気づいてか気づかずか、


「ああ、ボクは生粋のしゃべり好きだとも!どういう訳かボクと長話をしてくれる人は希少でね、ネリンが来なくなってからはついにゼロに等しくなってしまったんだ……寂しかったんだよ、ボクは」


「話し相手が減るのはまんまアンタの自業自得な気もするけどね……」


 当然だ、と言わんばかりにネリンはジトっとした視線を向けてため息を一つ。しかし、アリシアの高揚は微塵も収まらないようだった。


「そう言いながら一番ボクと話してくれていたのは君だからね、ネリン……久々の話し相手が君とその仲間たちだなんて、なんて幸せなことじゃないか!」


「ほんとにアンタポジティブね⁉」


「お褒めに預かり光栄だよ!前向きに生きるのはボクのポリシーだからね!」


「絶っっっ対に褒めてない!」


 呆れてみても皮肉を投げかけてみても、ネリン側のアクションは全てアリシアには聞いていない様子だ。……てか、それに対するネリンの反応を楽しんでいるようにすら見えるな……


「相変わらずはねっかえりだね、君は。……えっと、ヒロト君といったか。一つ聞きたいんだけど、ネリンはいつもこんな感じなのかい?」


「……ああ、まあいつもこんな感じっちゃこんな感じだな」


「アンタ勝手に何言ってんの⁉」


 突然話を振られたので答えると、隣から焦ったようなネリンの声が聞こえてくる。しかし、それにくすくすと笑って付け加えたのはミズネだった。


「ああ、普段からこれくらい元気さ。アリシア、君といるともっと元気になるらしいがね」


「ミズネまで⁉」


「そうかいそうかい、君が元気なのは何よりだ!昔から考えると飛躍的な成長だろうからね……古くからの友人としては嬉しい限りだよ」


 ネリンもミズネに対しては強く出られないのか、顔を赤くしてまごまごとしている。その様子を見て、アリシアは心底嬉しそうに笑っていた。


「君は年上の友人は多かったけど、同世代では浮き気味なきらいがあったからね……こうしてなじめる場所ができてくれて本当によかった」


「……急にしおらしくなられると、あたしとしても反応に困るんだけど」


「仕方ないじゃないか、これはボクの紛れもない本心なんだから」


「またアンタはそういうことを恥ずかしげもなく……」


 ストレートに投げかけられる感情に照れが隠せないのか、ネリンは視線を下に向けてそう投げ返す。……やっぱり、この二人のやり取りは特別なものに思えた。


「……二人の縁は、いつからくらいなんだ?」


「……おや、昔話をご所望かい?」


「話さないでいい!ヒロト、アンタもよりにもよってそんなところをチョイスしなくても……‼」


「いや、私も気になるな。アリシア、良ければ聞かせてはもらえないだろうか」


「なんでミズネまでノリノリなの⁉」


 ネリンを除く全員が興味を示す流れに、ネリンはワタワタとするばかりだ。そんなネリンに、アリシアが笑って頷いた。


「大丈夫さ、君にとって恥になるような話は流石にしないとも」


「アンタとの記憶を掘り返される時点で割とあたしにとっては恥ずかしいんだけどね⁉」


 ネリンはなおも顔を赤らめているが、当のアリシアはもう話す気満々の様だ。……それを見て観念したのか、ネリンはため息をついて椅子に座りなおした。


「……そうだな、どこから話そうか。やはり、ボクとネリンの初対面から行こうか――」


 言葉を少し選びながら、アリシアがそう話を切り出す。……昔話が、幕を上げようとしていた。


ということで、レストランでの一幕はもう少しだけ続きます!今までなんだかんだ掘り下げきれなかったネリンの幼少期はどんな風だったのか、楽しみにお待ちいただけると幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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