表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/714

第九十六話『カガネは眠らない』

「ネリン、何をそんなに渋っているんだい?そんなに心配しなくたって下手なことは言わないとも」


「その言葉を素直に信じられたらどんなに幸せでしょうね……」


 アリシアおすすめの食事処へと向かう間、ネリンはげっそりとした表情でため息をつき続けていた。それを案じてかアリシアがちょくちょく声をかけてはいるが、最早嫌味を返す気力すら残っていないようだ。


 俺たちからしたら意外なアリシアの提案に、当然強く反発したのはネリンだった。実を言うとコンビニの前でしばらく議論を交わしていたのだが、最終的には「当然ボクが代金は持つとも。社会人としてね」という言葉が決め手だった。そんなこんなでルンルンのアリシアの後について、俺たちはすっかり夜になったカガネの街を歩いているというわけだ。しかし俺たちが浮いているとかそう言うことは一切なく、あたりを見渡せば買い物をする人々の姿があふれていた。


「夜でも賑わいがあるんだな……やっぱり冒険者の街だからか?」


「そう言う側面はあるだろうね。ボクの店も二十四時間人が来るし」


 活気に満ち溢れていていい事だよ、とアリシアは付け加えた。というか、やっぱりあの店も二十四時間営業なんだな……どこまでもコンビニそっくりだ。


「こんなに人がいるとはな……バロメルとは違った賑わいだ」


 ミズネにとってもこの人だかりは新鮮なのか、あちこちを見渡しながら興味深そうに唸っている。普段は大人っぽいが、やっぱりこうやって知らないものを見てる時は子供みたいだな……


「この辺りは商店街だからね。宿に泊まる冒険者が今夜の食事を求めて集まってるってのもあるだろうし、なおさら人だかりは大きいのさ」


 アリシアは弾んだ足取りのまま、俺たちにそう解説してくれる。誰かと食事をするのは久々だと言っていたし、よほど楽しみなんだろうな。そこまでうきうきとしてくれてるのを見ると、俺としても話を受けた甲斐があるってもんだ。


「カガネはいつだってこんなもんよ……。生活リズムが人によってバラバラだしね……」


 隣でそう付け足してくれるネリンはゲッソリとしているが、まぁそれは必要経費ということで容認しておこう。


「さて、見えてきたね。あれがボクのおすすめレストランさ」


 そう言ってアリシアが指さしたのは、そこそこ大きな二階建ての建物だった。ギルドに併設されているのをカフェや酒場だとするのなら、こっちはファミレスといった感じだ。かなり賑わっている雰囲気だが、どうやら満席ではないらしかった。


「うんうん、やはりいい感じの混み具合だ。ここは人気の店なんだけど、ちょうどボクの仕事が終わるくらいの時間が狙い目なんだよ」


 そこまで含めて予想通りだったらしく、アリシアはうんうんと満足げに頷いて店へと一直線に進んでいく。その背中に引き離されないようにしつつ、俺たちは人波をかき分けながらアリシアを追った。


「やぁ、今日も来たよ」


 店内に入るなり、アリシアは慣れた様子でそう受付の人に声をかけていた。しかしそれはもはや恒例のことらしく、なんら驚かれることなく店員さんは応対している。


「今日はお一人ではないんですね……」


と、アリシアの背後に俺たちがいることを見つけた時の方がなんなら驚いていた。それはそれで失礼な気もするけどな。


「ああ、今日は古い友人とその仲間が一緒なんだ」


 ……まぁ、言われた当人はまんざらでもなさそうに胸を張って答えているからよしとしておこう。


 それにしても、アリシアのメンタルはある意味無敵なのかもしれないな……柳に風というか、飄々としているというか。ネリンがずっと会話のペースを掴めずにいるのも、なんとなく納得できる話だった。


「そうなんですか……では、テーブル席の方にご案内しますね」


 受付さんの案内に従って、俺たちは割と広めの店内を進んでいく。ぱっと見はファミレスだったが、その店内にはカウンター席も少なからずあった。それを俺が不思議そうに見ていると、


「カガネにはソロの冒険者も少なからずいるのよ……このお店はターゲットが広いし、一人でも気後れしないで済むようにって配慮でしょうね」


と、ネリンがげっそりしながらもそう説明してくれた。宿屋の娘だけあって、やはり商売のことには詳しいようだ。


そんな事を話していると、あっという間に空いている席へとたどり着いた。少し奥まった場所ではあるが、それはそれで静かな雰囲気が心地よかった。


「では、ごゆっくり」


そう言って、受け付けの人は下がっていった。それを待ちきれなかったと言わんばかりに、俺とネリンの向かいに座ったアリシアは身を乗り出して、


「さぁ、沢山話そうじゃないか。……ネリンが来てくれなくなってから、ボクは話し相手に飢えていてね」


そう告げるアリシアの目は、まるで夢を見ているかのようにキラキラと輝いている。……でもどこか、狩りをする肉食獣の目にも思えるような……


「……あ、始まったわね……」


俺の隣でボソッと呟くネリンの言葉が、俺の予感を裏付けようとしていた。

ということで、少し波乱の予感を含みながら次回へと続きます!ネリンがアリシアとの食事を過剰に警戒していたその訳とは一体なんなのか!どんどん書いていきますので、次回以降も楽しみにしていただけると幸いです!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ