表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/714

第八十九話『いい年の取り方』

「……ネリンのとこの、お得意さんか……。言われてみればそうって感じだ」


「……いい店なのだろうな。外見に趣がある」


 周りの店とは少し違った雰囲気を放つその店の姿に、俺とミズネは思わずそう声を上げる。そのまま立ち止まる俺たちを、横でネリンが不思議そうに見ていた。


「……行かないの?」


「……すまない、少しばかり外装に見とれていてな……そろそろ行くとしようか」


 ネリンの声に急かされるようにして、俺たちは歩き出す。これまでの人生で入ったことのないような荘厳なつくりの店に、俺は少しばかり緊張していたのだが――


「おばちゃーん、来たわよ―!」


 その緊張は、すぐに驚きで塗り替えられた。


 店の敷居をくぐると同時、ネリンが気さくに声をかける。そんな手軽でいいものなのかと、俺とミズネは少し身構えたが――


「あらネリンちゃん、久しぶりねえ!二か月ぶりくらいかしら?」


「そうね、いろいろと忙しくって……おばちゃんこそ元気?」


 暖簾をくぐって出てきたのは、優しそうな小柄のおばあさんだった。ネリンの問いかけに嬉しそうに目を細めるその光景は、なんだか孫とおばあちゃんのやり取りを見ているかのようだ。


「まだまだ元気よ!あと十年は弟子に負けない自信があるわ」


 軽く力こぶを作るそぶりを見せながら、おばあさんはにっこりと笑って見せる。それに対して、ネリンもうれしそうにふわりと笑った。


「あら、そちらの二人は初めて見る顔ね。ネリンちゃんのお友達?」


「そうよ。二人ともあたしの友達で、頼れるパーティメンバーなの」


 俺たちを見つけたおばあさんが首をかしげると、ネリンは胸を張ってそう紹介する。俺たちが軽く頭を下げると、おばあさんは一歩こちらに進み出た。


「初めまして、あたしはエリュー。ネリンちゃんと仲良くしてくれてありがとうねえ」


「花谷大翔です。ネリンには色々助けてもらってます」


「ミズネと言います。ネリンに紹介されてきたのですが……いい雰囲気ですね、ここは」


「ありがとうね。ここはお母さんから引き継いできた場所だからね、そう言われると嬉しいよ」


 エリューさんの自己紹介に応じると、エリューさんは目を細めて俺たちを歓迎してくれた。弟子という言葉も出てきているあたり、ここはカガネにある店の中でもなかなかの老舗なのだろう。


「ミズネもヒロトもこの街に慣れてなくてね、あたしがこの街を案内しようってなったの。それでどこ行きたい?って聞いてみたら、このお店がきれいで見てみたいって言ってたから連れてきちゃった」


「そう言うことなの。小物しかないところだけど、ゆっくり見ていってくれると嬉しいわ」


「ありがと!いいのあったらまた買わせてもらうわね!」


 急な来訪にもかかわらず、エリューさんはネリンの申し出を快諾してくれる。寛大な対応に俺たちが感謝の意を示すと、エリューさんもまたこちらに頭を下げてくれた。


「……古い付き合いなんだな」


「そうね……小さいころからよく面倒を見てもらってたわ。パパとママのお得意様だったからってのもあるみたいだけど、あたしもすぐになついちゃって。お裁縫とかお料理とか、生活に必要なものは大体おばちゃんの影響で覚え始めたのよね」


 最終的にはママに伝授してもらったんだけど、とネリンは懐かしそうに笑う。孫とおばあちゃん、という見立てはあながち間違いでもなかったようだ。


「本当、暖かいおばあちゃんって感じよ。こうやっていきなり突撃しても許してくれるしね」


 そんなことを言いながら、ネリンに連れられて俺たちは店の奥へと進んでいく。コーヒーカップや小皿など、白い机に乗せられたそれらは見る限り全て手作りの様だった。


「これらすべてが、エリューさんの手で作られているのか……?」


「ここにあるのは多分そうね。お弟子さんとかも商品は作ってるんだけど、奥に置かれてるやつは全部手作りーって聞いたことがあるわ」


 さらっとネリンはそう言うが、それがとんでもない事なのは素人の俺にだってわかった。なにせ、十はあるであろう長机の上に所せましと並べられた小物類は、見る限りでも百個は軽く超えているのだから。


「町一番の小物屋さんは伊達じゃないってことよ。『どれだけお客さんが増えても期待されるからには応えたいんだ』って、おばちゃんずっと前から言ってたしね」


「……立派な、人物なのだな」


「そうよ。もちろん一番尊敬してるのはパパとママだけど、その次に尊敬してるのは間違いなくおばちゃんだもの」


 普段は意地っ張りなネリンが、おばあさんのことになると素直に尊敬の意を示す。それがどれだけすごい事のなのかは、これまでの付き合いでうすうす分かってきたことだった。


「その言葉通りお客さんは今でもたくさんいるし、宿に届く小物もレベルアップを続けてる。十年は現役って言葉も、冗談とは思えないくらいだもの」


「……すっげえ、若々しかったもんな」


 と言っても若作りしているとかそう言うことではなく、気力に満ち溢れてるといった印象だ。いい年の取り方っていうのは、きっとエリューさんみたいになることを言うんだろうな。


「思わず見入ってしまうな……どれもこれも魅力にあふれている」


 目を輝かせながら、ミズネはあちこちに視線を飛ばしている。それを見たネリンは、何かを思いついたように手を打った。


「このお店ね、食器とかだけじゃなくて身に着けるアクセサリーも作ったりしてるの。……だからね、あたしたち三人でお揃いのアクセサリー、探してみない?」

思えば、パーティの中で行動力があるのはネリンな気がします。元から活発なキャラを想像していたのはあるのですが、ここまで話を動かしてくれる人物になってくれるとは思わなかったのでうれしい限りですね。パーティ三人のことをそれぞれ好きになってもらえるようにこれからも頑張って書いていくので、これからもついてきていただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ