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第八十話『素直じゃない二人』

「……という訳で、アンタのとこの設備を借りたいんだけど」


「いきなり訪ねてきたと思ったら、相変わらずの話の速さですね……」


――『まずは体を動かしてみる』。ネリンのその宣言は、ベレさんの意図をガン無視しているといってもよいものに思えた。不用意に危険に突っ込まないための宿題なのに、それを実践で解決するのでは本末転倒……なんて、初めは思っていたのだが。


「……なるほど、これは確かに賢いかもしれねえな……」

 

 ネリンが訪れたのは、クレンさんが会長を務める武器鍛冶連合の斡旋所だった。俺たちが二日前にお世話になった場所で、ここには武器の適性を見るための修練場も併設されている。


「そこを使って、あたしたちのパーティとしての力を見るの。名案でしょ?」


「ええ、名案ですね。……私の負担を度外視すれば、ですが」


 胸を張って見せるネリンとは対照的に、クレンさんはげんなりとした表情でため息をついている。完全に巻き込まれた形だし、そうなるのも無理はない話なのだが。


「なんでそんなに渋るのよ……なに、先客でもいる感じなの?」


「いや、たまたまこの時間は空いていますが……」


「じゃあいいじゃない。使用料がいるなら払うわよ?」


「そういう問題じゃ……ネリン様、ますます人の話を聞かなくなってませんか?」


 ものすごい勢いで詰めていくネリンに、クレンさんはただただ気圧されるばかりだ。二日前は常に主導権を握っていたイメージだが、ネリンもこの二日間でたくましくなったのかも知れない。


「……まあ、ネリン様のよしみですし……修練場を持て余しているのもの事実です。いいでしょう。武器鍛冶連合は駆け出しの冒険者のお手伝いをするのが仕事ですしね」


 長い事悩んだ末、そう言いながらクレンさんは首を縦に振る。押しが強いネリンの交渉術が実った形だ。……まあ、純粋にアイツの人脈の広さがえげつないのもあるが。


「……なあヒロト、ネリンの人脈はどうなっているんだ……?」


「……多分、この街の冒険に関わる人なら全員知り合いで何なら友達だよ」


 喜んで飛び跳ねるネリンを尻目に、ミズネが俺に耳打ちしてくる。それに俺も小声でそう返してやると、かすかに息を呑む気配がした。


「ヒロト様と……そちらは初めて見るお方ですね。三人で一つのパーティだと、そういう認識でよろしいですか?」


「勿論。二人ともあたしの頼れる仲間よ」


 俺たちに視線を向けながら問うクレンさんに、ネリンは堂々とそう答えて見せる。普段素直じゃないアイツのことだけに、そう言いきられるのはなぜか少しむずがゆかった。


「頼りになる仲間を得られたのは幸運なことです。どうか、手放すことのなさいませんように」


「そんな馬鹿な事しないわよ。大丈夫、あたしだって一線はわきまえてるから」


「私に向かって強引な問いを持ちかけておいてよく言えますね……」


「え、だってクレンだし……」


 ここぞとばかりにため息をついて呆れて見せるクレンさんだったが、なんでもない事のように返ってきたネリンの一言で力なく崩れ落ちる。もともと歯に衣着せぬタイプではあるが、今日のネリンの切れ味はいつもより数割増しのように思えた。


「……まあ、それも信頼の証と受け取っておきましょう。……確認ですが、修練場に配置されている魔道人形を使って模擬戦がしたいと、そう言うことでいいですか?」


「そうよ。何が得意で何が苦手かなんて、やってみて確かめるのが一番手っ取り早いしね」


「ベレ様の提案も分かりますし、それに対するネリン様の考えも正論ではあるのですが……この場所を使って解決しようとしてくるのはベレ様も予想外でしょう」


「ま、あたし以外やろうともしないだろうしね」


「…………一応とんでもないことやってるって自覚はあったのな……」


 誇らしげに言い放つネリンに、俺は思わずそうつぶやく。基本的に二人のやり取りには横槍を入れるつもりはなかったが、こればかりは流石に反応せずにはいられないだろう。


「ほかの人がやらないようなことをやるのが、あたしの目指す冒険者の姿なのよ。誰かの後を追うだけじゃ、誰かに胸を張れる冒険者にはなれないでしょう?」


「……言ってることは、正論なんだろうけどな……」


 真剣な表情で言い放つネリンに、今度はミズネが困ったように息をつく。……なんだろう、ここまでタイミングを間違えているド正論も珍しい気がする。


「昔からネリンさんはそう言うお方ですからね……パーティを組んだということで、少しばかりはしゃいでいるようですが」


 俺たちがやれやれと息をついているところに、クレンさんが歩み寄ってきてそう小声でささやく。え、アイツそんなにはしゃいでいるのか……?


「それはもう。あんなに押しが強いネリン様は久しぶりに見ましたよ。……彼女はずっと同世代の仲間がいませんでしたし、仕方のない話ではあるのですが」


「……そういえば」


 いつだったか、ネリンにいるのは年上の知り合いばかりなのだと聞かされたことを思い出す。……そのことを考えれば、確かにこれだけはしゃぐことも仕方がないのかもしれない。


「ネリン様にとって、あなた方は大切な仲間です。……至らないところもあるとは思いますが、どうかネリン様をよろしくお願いいたします」


「……クレン、ひそひそと何話してるの?」


 俺たちが集まっているのを見てか、ネリンがこちらに歩いてくる。それに対してクレンさんは笑顔を返すと、


「いえ。……少しばかり、修練場のセットに必要な情報をお聞きしていただけですよ」


「そう?……ま、精度が高まるのはいい事ね」


 とっさのごまかしに、ネリンは疑問を抱く様子はない。今の話を正直に告白するのは、さしものクレンさんでも難しいようだった。


「……調整のための聞き取りも済みましたし、出発しましょう。皆様、こちらになります」


 これ以上話を続けさせまいといわんばかりに、クレンさんはくるりと背を向けて歩き出す。誰かに似て素直ではないその姿にミズネと苦笑を交換しながら、俺たちは修練場へと向かうのだった。

カガネの街を巻き込んで、ヒロトたちの奮闘は次回以降も加速していきます!答えを求めて奔走する三人の姿を楽しんでいただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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