第七十五話『見つけられたもの』
「……ほら、ゴーレムの素材だ。今日は大量だぞ?」
「ほわあああああ……期待以上です!さすがは町一番の冒険者!お礼の意も込めて、報酬には箔を付けさせていただきますね!支払いにおいてのあれやこれや済ませてきますので、ここで少々お待ちをー!」
……朝方にギルドへと帰還した俺たちは、おそらく徹夜で待ってくれていたのであろうメルジュさんにゴーレムから得られた素材を売却した。手続きに戸惑うくらいに大量の素材が持ち込まれたことに少し戸惑い気味ではあったが、その目はきらきらと輝いていたのできっと大丈夫だろう。
「…………はい、お待たせしました!こちらが今回の報酬になります!」
「ああ、ありがとう……って」
暫くして戻ってきたメルジュさんが、カウンターに袋を置く。どさっという重々しいしたその袋は、俺たちが最初の依頼をこなした時の報酬の十倍はありそうなくらいの量が入っているようだった。
「……多すぎや、しないか?」
「いえいえ、これは感謝量も入っていますので!犬型ゴーレムだけでなく、冒険者にとっての障害になりやすい巨大ゴーレムまで倒していただけたので、これからの調査も効率化しそうですし!」
「……しっかりとした理由があるなら、ありがたく受け取っておこう。……だが、これから先も大型ゴーレムはわいてくるんだぞ?」
「再出現の間まででも、胸を張ってパーティを送り出せるのは大きいですから!聞いた話お三方は新たな拠点を構えるって話ですので、それの応援って意味合いも多分にありますね!」
「やっぱり私情が挟まってるじゃないか……」
えへんと胸を張るメルジュさんに、ミズネは呆れたようにため息をつく。どうも依頼を受ける前に私情での優遇はしないようにくぎを刺していたようだが、どうも聞き入れられなかったようだ。
「私のことをそんなに甘く見てもらっては困りますよぉ!……これは、ギルド職員の総意でもあるんですから!」
「総意……?」
その発言に、ミズネの目が驚いたかのように見開かれる。メルジュさんはそれに大きく大きく頷いて見せると、
「ええ、紛うことなき総意です!……なんたって、街一番の実力派冒険者の新しい門出ですからね!長い間貢献してくださったあなたに、皆恩返しがしたいと思ってたんですよ?」
そう告げるメルジュさんの目は真剣で、そして敬意にあふれていた。
「恩返し……そうか。それは、ありがたい話だな」
「ええ、ありがたく受け取っちゃってください!あなたはここまで信じられないくらいの貢献をしてきたんですから、『もっとくれ』とか言ってくれてもいいんですよ?」
「そんなこと、言えるわけないだろう?」
片目を瞑って茶目っ気たっぷりなメルジュさんに、ミズネは呆れたように苦笑する。その返答を聞き届けて、メルジュさんの目が信じられないくらいに優しく変化した。
「……ですよね。そんな謙虚なあなただから、私たちも応援しようってなるんですよ」
「……そうか。…………ありがとうと、皆にそう伝えておいてくれ。私はこれから引っ越しの準備をしなくてはいけないからな」
「ええ、確かに伝えておきますね!……それでは、私は仮眠をとってきます!……あなた方の未来に、幸多からんことを‼」
ミズネの感謝に最大限の笑顔で返して、メルジュさんはカウンターの奥に引っ込んでいく。その姿を見届けてから、俺はふっと苦笑した。
「完全に一本取られたな、ミズネ」
「……ああ、完璧に言いくるめられてしまったよ」
俺につられるようにして、ミズネも苦笑する。そんな俺の肩を、ネリンがツンとつついた。
「……どうしたよ」
「……本当に、あの遺跡のことは何も伝えなくてよかったのね?」
不安げな目で、ネリンはそう問いかけてきた。
――あの秘密の部屋で、俺たちが下した結論は『現状を維持すること』だった。あの部屋の存在も公にせず、あくまで俺たちだけの秘密にとどめる。警備ゴーレムについては少し出現ペースをいじらせてもらったが、それも言われなければ絶対に気づけないくらいのわずかな変化にとどめている。秘密の部屋は、これからも秘密のままであるのだ。
「それに関してはもう話しあったろ?あれを見せると色々ややこしいことになりかねないって」
「そうだけど……隠し事してるのにこんなにたくさんもらっちゃって、なんか申し訳ないというか」
「……まあ、気持ちは分からないでもないが……感謝の気持ちというなら、受け取らないわけにもいかないからな」
綺麗にハメられたよ、とミズネは笑って見せる。
「それでも心苦しいなら、この資金は私が管理しよう。当然必要な分のお金は私が出すし、自分の目的のために使えるお金は渡す。……それなら、ネリンも少しは気が楽になるんじゃないか?」
「……そうね。ミズネが主体で管理してくれるなら、ちょっと気が楽かも」
「それじゃあ決まりだな。この報酬は新生活の準備にありがたく使わせてもらおう」
「そうだな。これくらいあれば、そこそこ広い拠点が借りられそうだ」
麻袋をアイテムボックスに収納しながら、ミズネは展望を口にする。この世界の相場はまだつかみ切れていないが、借り家とは言え定住地を作れるのは順調な滑り出しと言えそうだった。
「……それじゃあ、残りの準備と行こうか。今日の午後にはカガネに戻れると思うぞ」
そんなことを言いながら、ミズネがおもむろに立ち上がる。少し名残惜しそうにゆっくりとギルドの出口に向かって歩いていくその姿を、俺たちも急かすことなく追いかけた。
――新生活の始まりは、もうすぐそこだ。
ということで、バロメルの街とも次回でいったんお別れです!予想よりも長い寄り道となってしまいましたが、そのドタバタ感含め楽しんでいただけていれば何よりです!おそらくカガネに戻ってからはコメディ色もさらに強くなっていくと思いますのでそちらもお楽しみに!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!