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第七十四話『託されたから』

「……ヒロト、どうだった?」


 パタリとノートを閉じると同時、ミズネが俺のもとに歩み寄ってきた。俺がうなずいて返すと、ミズネは穏やかに微笑んでくれた。


「英雄の手記……直接読めるアンタが羨ましいわ」


「ああ……これを読めて、本当によかったと思うよ」


「……そう。なら、見つけたのがアンタでよかったんじゃない?」


 肩を竦めて見せるネリンに、俺は大まじめにそう返す。それに少し面食らったようにネリンは頭を掻いてから、いつになく優しい眼をしてそう言ってきた。


「……とりあえず、ここにまつわる真相を得ることはできたみたいだな」


「ああ。この遺跡は、英雄が作り上げた理想の跡地で間違いなかったよ」


 無限に発生するゴーレムも、彼の魔力を使って作り上げられたものだろう。出てくるところをだれも目撃しなかったのも、ここからテレポートで転送されていたとしたら納得のいく話だ。


「英雄が人知れず作った、秘密の部屋……仮説として立ててはいたが、いざ実際にこうやって目にすると感慨深いな……」


「そうね……まだ奥に続いてるみたいだし」


 二つのドアにそれぞれ手をかけながら、ミズネとネリンはしみじみとつぶやく。どこの世界でも、秘密基地というものへのあこがれは少なからずあるようだった。だって俺もテンション上がってるし。


「こっちは……制御室か?」


 ミズネが開いたドアの先をのぞき込むと、そこにはホログラムのような半透明のスクリーンが浮かんでいる。遺跡の全体図が映し出されているその画面を見るに、ここの設備を使えば遺跡の配置を任意で入れ替えることができるようだ。


「英雄の才能とは言え、凄まじい術式だな……維持も大変だろうに」


「それを一人で死後も継続させられるだけのシステムを作ったからこそ、英雄は英雄足りえるんだろうな……」


 ふと手元を見てみれば、『配置自動化』と漢字で但し書きが付いたスイッチが目に入る。今下にあるそのスイッチを上げれば、どうやら遺跡の組み変わりは収まりそうだ。


「……ねえ二人とも、こっちもすごいわよ!」


 どうするべきかと考えていると、一人でもう一つの部屋を調べていたネリンが俺たちを呼ぶ声が聞こえてきた。俺たちは二人でそっちに移動すると、そこにはドラム缶くらいのサイズのカプセルと、半透明の容器が二セットおかれている。カプセルに入っていたのは、この遺跡で何度も出会ってきた犬型のゴーレムと、衝撃の変形を見せた警備ゴーレムだった。


「ここでゴーレムを生成してたみたいね……そりゃ道理で倒しても倒しても数が尽きないわけよ」


「生成と放出のペース調節まで自動で……とんでもない技術だぞ、これは」


 透明な液体に満たされたカプセルをまじまじと眺めながら、ミズネは感嘆の唸り声を上げた。


 おそらく、この三人の中で英雄のすごさを一番はっきりと認識できるのはミズネだろう。俺の知識では英雄が作り上げて見せた魔力システムのすごさは分からないし、それはきっとネリンも同じだ。魔術と真剣に向き合っているミズネがそのすごさを認めるからこそ、英雄の実力にも箔が付くというものだった。


「ここのスイッチをいじれば、そのペースも変わるんでしょうけど……ヒロト、これ読める?」


「もちろん。何ならある程度の調節もできると思うぞ」


 エルフも驚くような魔術の粋が詰まったシステムだが、その操作方法はダイヤルやらスイッチ式やらの簡単なものだ。普通ならどれがどのスイッチか分からずに行き詰るところだが、俺に関してはその心配も無用だった。


「それは一つ朗報だな。……問題は、これをどうするかなわけだが」


 俺の発言にミズネは満足げに頷いて見せるが、すぐに表情を曇らせる。……それは、俺たちだけにとどまらない問題だった。


「たしか、今の状況だとこうやって昼夜問わず冒険者が駆り出されるんだよな。……警備の役割を持たされたゴーレムが遺跡を出ることはないだろうけど」


「それを知らない以上、ギルドとしてはゴーレムの暴走を警戒しなくてはいけないだろうがな……おおかた、遺跡の中のゴーレムの数と人の数に応じて定期的に放出数を調節するシステムでも組んでいるのだろうさ」


 遺跡に人があふれたタイミングがあって、それで行き過ぎた放出がされているんだろう、とミズネは結論付ける。ふと操作盤を見てみれば、『放出量自動調節』のスイッチが下ろされているのが見えた。


「……よくわかったな。日本語は読めないはずだろ?」


「長いこと、ここの冒険者として遺跡に潜ってきたからな。一定のスパンで出現量が増減するくらいは察していたさ」


 俺の称賛に、ミズネはそうでもないさ、とでも言いたげに首を振る。どうもミズネは謙遜しているようだったが、知識を駆使しなければ理解できないところを直感だけで見抜いているのは、俺からしたらすさまじい所業だった。


「なんにせよ、ゼロにしちゃえば絶対安全……だけど、それだと冒険者たちの仕事も激減しちゃうのよねえ……」


 難しい現実を前にして、俺たちはため息をつく。この遺跡を絶対安全にしたらどうなるかなんて、あっけないくらい簡単に想像がついた。


「かと言って今の状況が続くのは良くないようにも思えるが……どうしたものか」


 ミズネも、まだはっきりとした有効打を思いついていない様子だった。それを見て、俺は一歩前に踏み出す。……今思いついた考えは、俺が言い出さなければいけないことのような気がした。


「……なあ。この遺跡のシステムは、触らないでそのままにしておかないか?」


――だって、俺は直接この遺跡を任されたんだからな。

遺跡にまつわるあれこれもついに終息が見えてきました。この先の新展開も近くに待ち受けていますので、ぜひぜひお楽しみに待っていただければと思います。

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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