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第七十一話『英雄へのメタ推理』

「入口だけが組み代わりに関与していない可能性…か。確かにそれは思いつきもしなかったな」


「ま、粗がある仮説なのは確かだけどね……それでも、一番確率が高いってのはホントかも」


 俺の言葉に、二人が戸惑いながらも感嘆の声を上げる。閃いたままに立てた仮説は、どうも二人にとっては考えもしなかった可能性らしかった。


「仮に違ったとしても確認が簡単なのも良いとこだと思うぞ?なんせ入り口に戻れば良いだけだからな」


 当然、俺の仮説が百パーセント正しいなんて微塵も思っちゃいない。メタ気味な推理が多分に入っているし、俺ならこうするって思ったことを口にしただけだからな。それでも、闇雲に歩き回るしか策がない現状からは脱却できる気がしたのだ。


「確かに、何もなければそのまま引き上げれば良いだけだしな……手がかりが何もない以上、原点回帰は一つの手ではあるかもしれない」


「それ以外に打てる手もないしね……これで本当にそうだったらとんだ笑い話だけど、やってみるしかないかも」


「……それじゃ、決まりだな」


 予想していたよりはるかにすんなりと方針が決まり、俺たちは再び腰を上げて出発の準備を始める。探索も長引いて相当な距離を移動してきた俺たちだが、目的地が決まればそこまで頑張れるくらいの気力はかろうじて残されていた。


「これまでどう移動してきたかはメモに残してある。これを辿ればすんなり入り口に戻れるはずだ」


「いつの間にそんなのを……いや、今は聞かないでおくわ」


「こんなこともあろうかと」的なノリで、ミズネが一枚のメモを取り出した。そんな精巧なメモいつ残してたんだと言いたいのは俺も同じだが、今はそれの出どころなんて関係ない。疲弊している俺たちからすると、迷う可能性を打ち消せるのはとてもありがたかった。


 メモの通りに右へ左へ、くねくねと曲がりながら俺たちは今まで来た道をひたすらに逆走する。『この先ドワーフ居住区』というメモ書きも、もう一度目にした時には随分と懐かしく感じた。


 なんの躊躇いもなく歩いていけば、意外にも目的地まで時間はかからない。程なくして、俺たちは数時間前に下ってきた階段ともう一度対面していた。


「ヒロトの仮説が正しければ、このあたりに英雄の私室へ続く道があるはずなのだが……」


「ま、目に見えた証拠があるわけもなし、ね」


 目的地に到着するなり壁を観察し出す俺たちだったが、ネリンの言う通り簡単な場所にあるならとっくに見つけられているだろう。手掛かりがあったところで当然俺以外は読めないわけだが、それでも少しは噂になっているはずだ。そうじゃないということは、少し考え方を変えなければ答えには辿り着けないわけで……


「英雄、ねぇ……」


 ふと俺は立ち止まり、頭の中で俺なりの英雄像を思い起こしてみる。カレスにおいては数百年前の人物のようだが、どうも俺からすると同年代を生きたことがあるような気がしてならない。テナントという文化を理解している以上、四百年前の日本ーーすなわち江戸時代から来た人物とかではないのは確かだ。……それなら、俺でも少しは思考をトレースできるんじゃないか?


 あの神曰く、何か見所のある人間でなければ異世界への転生は行わせないらしい。それでいて異世界でここまで名を挙げられる人物となると、どうしても俺は同年代の男子を想像せざるを得ないのだ。


 俺と同年代の男子が思いつくような、それでいてこのスペースに置いてできる隠し部屋の作り方……まず一つ、真っ先に思いつく隠し場所があった。古今東西のゲームにおいて宝箱が配置され、新たなマップに出るたびに期待を込めて覗き込んだ(……と、ゲームの歴史図鑑で読んだことがある)場所。


「そう、階段の裏側……は、普通に壁か……」


 期待を込めて階段の裏側を覗き込んだ俺だったが、そこには周りとなんら変わらない壁があるだけだった。ゲーム界の王道に期待したは良いが、見事に空振った形だ。


「せめて手がかりの一つでもないもんかね……って、うおおおっ⁉︎」


 何かのメモ書きだけでもあってくれないかと、俺は壁についた土煙を払おうとーーした手が、するりと壁を突き抜ける。そんなこと当然予想していない俺はそのままつんのめり、壁の中へと盛大に頭から滑り込んだ。


「なんだ、そんなに大きな声を出して……って、ヒロト⁉︎」


「そうよ、ゴーレムが来たらどうす……って、なんでアンタ埋まってるわけ⁉︎」


 そんな俺の情けない悲鳴を聞きつけて二人が駆け寄ってくるが、どうも二人からすると俺が足だけ突き出して埋まっているように見えたらしい。驚きを隠しきれていない様子の二人に、俺は一度顔を出して、


「……なんてことはねぇよ。この壁がハリボテだったってだけだ」


「生首ー⁉︎」


「ヒロト、なんでそんな姿に……いやそうか、幻影魔法という可能性があったな」


 弾かれるようにして距離をとったネリンとは対称的に、ミズネは冷静にそう頷く。その様子を見て、おずおずとネリンもこちらに戻ってきた。


「……ったく、紛らわしいことしないでよね……。それで、そこには何かあるの?」


「そうだな、壁に何か出っ張りがあるくらいだけど……これ、ボタンか?」


 立って手を広げれば壁にぶつかるくらいの小さなスペースの中で、一箇所だけ不自然に出っ張っている場所がある。隠し部屋だけあって光は入っていないが、それが意味深なものであることは確かだった。


「正体不明のボタンを押すのは気がひけるが……まあ、押すしかないだろうな」


「現状唯一の手がかり候補だもんな……ポチッとな、と」


 ミズネのゴーサインを待ち、俺は出っ張りを強く押し込む。……それに伴う変化は、すぐに訪れた。


「……なにこれ、地鳴り⁉︎」


 それに真っ先に気がついたのはネリンだ。まるで地の底から響いてくるかのような振動に、俺たちは咄嗟に地面に伏せる。……程なくして、揺れはおさまったようだった。


「ふう、いきなりびっくりした……って、二人ともどうした?」


揺れが完全におさまったのを確認した後、俺はのそのそと隠しスペースから脱出する。そして目に入ったのは、同じ方向をじーっと見つめる二人の姿だった。


「……どうしたもこうしたもないさ」


 俺の問いに、ミズネがそう答える。その声は、いつもより弾んでいるようだった。そして、スッと二人が一歩横にズレるとーー


「大当たりだよ、ヒロト」


 その先に見えたのは、さらに地下へと続く古びた階段だった。

次回、ついに探索もクライマックスに突入です!ようやく見つけた隠し部屋の先には何が待っているのか!そして遺跡の謎は解き明かすことができるのか!この先もまだまだ盛り上げていくつもりですので、是非楽しんでいただければと思います!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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