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第七十話『思考の盲点』

 ミズネの結論を聞いたとき、俺たちはただ拍手を送るしかなかった。今までの疑問点を見事に線で結んで見せたのは鮮やかであり、少し行き詰ってきた俺たちにとってはまさに希望だ。滅んだ理由などはまだ謎に包まれているとはいえ、それも隠し部屋が見つかれば自然に紐解けるだろう。


 新たな目標が定まった以上、いつまでも立ち止まって考えているわけにもいかない。謎だらけの遺跡の真実を見つけ出してやろうじゃないかと、俺たちは意気込んで出発したわけだが――


「隠し部屋がある、ったってなあ……」


「その手掛かりがないんじゃ、そりゃこうなるわよねえ……」


「……まあ、全てはあくまで机上の空論だからな……」


 すっかりと疲れ果てて、遺跡の壁にもたれかかってうなだれていた。


「確かになあ……あるって仮定だけで動くにしても、少しばかりの目星はいるだろ……」


 張り切っていた分の反動が来たかのように、俺たちは力なくそう言葉を発するばかりだ。……なんというか、見通しがどうしようもなく甘かった。


「手掛かりのための手掛かり……あたしたちが見つけたのは、そういうものだもんね……」


 よくよく考えれば、俺たちはあのゴーレムとの激闘からノータイムで探索に入っているわけだ。そりゃ疲れもするわ……と、俺は図鑑を開いた。膝の上に乗る微かな重さが心地いい。


「……こう見ると、結構な広さを回ってきてはいるはずなんだけどな……」


 マッピングとまではいかないが、ここまで通ってきた区画と似た地形をした地図にはバツ印を打ってきていた。それをふと見れば半分以上にバツが付いているので、確率的な問題で言うならもうそろそろ手掛かりの一つくらい見つかっていいものだとは思うのだが……


「出てくるのは区画名と軽い連絡事項ばかり、バックヤードのバの字もありやしねえ……もしかしたら何も手掛かりを残してない可能性まであるんじゃねえか?」


『この先重点整備区画』やら『居住区建設予定地』やら、見つかるのはこの遺跡の区画に対する計画の殴り書きのようなものばかりだ。それでも大きな発見だとミズネは胸を躍らせていたが、その気力も長くは続かないようだった。


「もしや、私はまだ何かを見落としているのか……?もっと重大で、もっと単純な問題を……」


「それがあったとして、答え合わせする手段が直接確認する以外にないのがね……」


 かなり信憑性の高い理屈は構築できたが、それでも証拠がないことに変わりはない。ミステリーとかで犯人が言うセリフ第一位みたいなもんだが、実際にこうして突き付けられると中々に苦しい問いかけだった。


「まあ、順調に探索は進んでるわけだし、このまま続ければいずれ何かを見つけられるかもしれないけれど……」


「どうしても行き当たりばったりになってしまうのは否めない。……もう一度、腰を落ち着けて考える必要があるかもしれないな」


 俺が図鑑を見つめてうんうんとうなっていると、いつの間にか二人がそんなことを言いながらこちらに集まって図鑑をのぞき込んでいた。どうもこの遺跡が望んでいるのは冒険者ではなく探偵だったようだ。敗北感を感じないでもないが、こればっかは相性の問題だからな……


「……ま、やみくもに歩き回るよりマシか。残りの区画の中で、疑わしい場所はあるのか?」


「とりあえず、テナントは省いていいだろうな。いつ使われるかもわからない場所に手掛かりを残すとは思えない」


「それと同じ理由なら、種族ごとの居住地も外してよさそうね。……まあ、その二つ除くとほとんど選択肢がなくなっちゃうのが問題なわけだけど」


 テナントと思われる酷似した地形と、すでに見つかったドワーフの居住区に似た構造の区画にバツ印を付けると、図鑑の中のほぼすべてにバツが付く。もちろん候補が残っていないでもないが、それを見つけ出すのがどれだけ至難の業なのかはこの約一時間で痛いほどわかっていた。


「結局振り出しか……この遺跡の構造は不便極まりないな」


「そうね……。というか、うっかり居住区が入り口とつながっちゃったらどうするつもりなのかしらね、これ」


 あたしだったら絶対びっくりしちゃうんだけど、とネリンは少し苦い顔で言う。俺も試しに想像してみたが、朝起きて軽く部屋を出たらすぐに外があるというのは中々に驚きそうだった。立地的に仕方ないならそれはそれで心の準備が付くというものだが、朝起きていきなりは流石にきつい。せめてエントランスの様なものがあれば、そのリスクもなくなるだろうに――


「……ん、エントランス?」


 その言葉が、俺の脳にあるひらめきを与えた。天啓と、そう呼んでもいいかもしれない。気が付いてしまえばなんてことないし、むしろなんで今まで気が付かなかったのかというレベルの発想だが、とりあえず聞いてみるしかないだろう。


「……なあ、ミズネ。この遺跡は、本当にすべての区画がランダムで入れ替わるのか?」


「……どういうことが聞きたいんだ?この遺跡は一日二回のペースで組み変わっている。その前提は揺らがないぞ」


「本当にそうか?この遺跡のすべてがランダムに組み変わる大迷宮だって、そう言い切れるか?」


「それは、分からないが……。仮にそうでなかったとして、それが何につながるんだ?」


 俺の問いかけに、今度はミズネが戸惑った顔をする。俺はミズネへ意趣返しをするかのように、一本指をゆっくりとたてた。


「簡単だよ。……隠し部屋の場所が、大体絞り込める」


「……は、はあっ⁉」


 俺の宣言に、ネリンが驚いたような声を上げる。それを心地よく感じながら、俺は続けた。


「……似たような区画が多いからこそ、俺たちは気が付かなかったんだ。外につながる階段、そこに接続されている区画だけはずっと変わらない可能性があるってな。ネリン、お前が言ったんだろ?居住区が入り口の近くにくっついたら大変なことになりそうだって」


「確かに言ったけど……まさか本当にそうだって言うの?」


「分かんないけどな。あくまで仮説だし、間違ってる可能性だってある。……だけど、俺はこの仮説が一番確率が高いと思う」


 まだ半信半疑と言った様子のネリンに、力強く俺はうなずいて見せる。その時俺の脳裏に浮かんでいたのは、ある一つの言葉だった。


 日本のことわざは身に染みて実感することが多いが、その中でも特にこれは痛感することが多い。まさかカレスに来てまでそれを思い出すとは思わなかったが、これが俺の考えうる一番高い可能性だ。


「……過去の英雄は、遺跡の入口と接続した移動しない区画に隠し部屋を作っていた。……なんてったって、毎日毎日自分の隠し部屋を探しに歩くのはめんどくさいだろうからな」


――『灯台下暗し』。この遺跡の難解さを、俺はそう結論付けたのだった。

ということで、遺跡探索はもついに終盤戦です!少しづつ実態も見えてきた古代の遺跡、その先にヒロトたちが何を見るのか、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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