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第六百九十二話『師のもとへ集え』

 ――エルダーフェンリルの頭部を狙え。膠着していた戦場の中で響いてきたヒロトの叫びは、耐えるしかない現状にだんだんと厳しさを感じてきた私たちにとって大きな光明だった。


 確かに、今まで私たちが通してきたのは足元への攻撃ばかりだ。頭部はいかんせん遠すぎるし、仕掛けることにはリスクが付いて回っていたからな。明確なリターンも見いだせないままリスクのある行動ができるほど、この戦場は安全なところではないのだ。


 だが、そこにヒロトからのヒントが来たというのならば話は別だ。……その情報を心から信じていいことを、私たちは知っているからな。


「皆、今ヒロトから聞いた通りだ! 防ぐだけの時間はここまで、反撃の始まりといこうじゃないか!」


 ヒロトの宣言に対する皆のざわめきが収まりかけたところで、追い打ちをかけるように私はそう高らかに叫ぶ。戦力的な中枢を担ううちの半分である私が声を上げたことで、ヒロトに移動していた視線が今度は私の方へと向けられた。


 ここにいる面々はヒロトへの信頼度は高いだろうが、それでもいきなり提示された突破口に戸惑いを持っている仲間もまだいるだろう。……だから、そこは私がしっかりと補強しておかないとな。


「お前たちの力があれば、エルダーフェンリルの攻撃を相殺することは問題なくできるはずだ! ……心配するな、頭部への攻撃は私が何とか策を練ろう!」


 率先して前に立ち、私を中心にして頭部強襲部隊を編成する。――と言っても、そんなに多くの人数をそちらに割くことはできないがな。守りが崩れては元も子もないし、まず優先すべきが皆の安全であることに変わりはない。


 最低でもこの均衡を保ちつつ、私ともう数人かの手で攻撃に転じるための牙を研ぐ。……それもまたそれで難しいことなのだが、今までの先が見えない感覚に比べたら幾分かマシだ。……だって、それを一緒に成し遂げたい仲間はもう決めているからな。


 皆の中にあったざわめきが少しずつ収まっていくのを確認しながら、私は小さく息を吸い込む。そして、私が最も信じる仲間たちの名前を呼ぼうとして――


「……悪い、助かった。お前の一声がなければもう少し落ち着くまでに時間がかかったかもだ」


 私の背後から、荒い息をつくヒロトの声が聞こえてくる。……それを聞いて、無意識のうちに私の頬はほころんだ。


「……なんだ、わたしが呼ばずとも来てくれるんじゃないか」


 私が呼ぼうとしていたうちの一人が呼ぶまでもなくそこにいて、私は思わずそう呟いてしまう。その意味がよく分からなかったのか、ヒロトは小さく首をかしげていた。


 その息はひどく乱れていて、あの叫びがどれだけ振り絞って出したものなのかをありありと物語っているかのようだ。……自分にしかできない役割を、ヒロトは全力で果たしきったらしい。


「……ミズネ? どうした、そんなに笑って」


「ああ、すまない。……こんな時だというのに、少しも緊張していない自分が少しおかしくてな」


 心配そうに聞いてくるヒロトに対して、私はそんな答えを返す。それは百パーセント真実でもないが、かといって嘘というわけでもない。私は今、心からリラックスしてこの場所に立っている。


「そうか。……やっぱり頼りになるな、俺たちの師匠はさ」


 ふっと笑みをこぼして、久しぶりにヒロトは私をそう呼ぶ。その呼び方をされるのはまだくすぐったいが、しかし同時に誇らしくもある。……期待された役割に相応しいふるまいをしなくてはと、私の胸の内で灯がともるのが分かる。


「ああ、これからも頼りにしてくれ。……アリシア、ネリン、ゼラ! 悪いが、私のところまで来てくれるか!」


 そんな温かい言葉に私は全力で応え、そしてほかの場所で戦っているであろう仲間の名前を呼ぶ。……最後の詰めをするにあたって、これ以上のメンバーは思いつかなかった。


 クレンさんとロアを呼べないのは申し訳ないが、あの二人には防御のかなめとしての役割があるからな。……その支えを信じられるからこそ、私は皆を呼び込むことができるのだ。


「……さあ、ここからが最終決戦だな」


 あちこちから私の方に向かって集まってくる魔力の気配を感じながら、私は少しかっこつけてそう宣言して見せる。……純粋な武力が必要になるここからが、私の本当の面目躍如だと言ってよかった。

 本当はヒロトはもう休ませるつもりだったのですが、やはり最後は全員そろってないとしまりが悪いですものね。エルダーフェンリルとの決着がつくまであと少し、皆様最後まで見届けていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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