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第六百八十七話『見えた突破口』

「……すみません、ずいぶんと遅くなりました!」


 堂々と立つゼラの後ろから、クレンさんが慌てた様子でこちらに向かって駆けてくる。……その隣には、背筋をまっすぐ伸ばして走るロアの姿もあった。


「いえいえ、むしろ早いぐらいですよ。……相当無茶ぶりをしたはずなのに、こんなに早く成果を出してくれるなんて」


 クレンさんは頭を下げているが、クレンさんの役割としてはロアを連れてきてくれるだけでも本当に充分なのだ。それだけでこの戦場は大きく変わるし、俺の考えていた計画はさらに実現へと近づく。……本当に、この王都ではクレンさんにおんぶにだっこって感じだな……。


 あとで盛大にお礼をしなくてはと俺がぼんやり考えていると、その背中からおずおずとロアが進み出てくる。その小さな姿に目線を向けて、俺は笑みを浮かべた。


「……おう、ロア。……少しは、自分のことを信じられるようになったか?」


「……それは、まだわかりません。私は私のことを信じていいのか、弱い自分を許していいのか。……その答えを出すのは、これからのことになると思います」


 俺の問いかけに、ロアは一瞬気まずそうに視線を下へと向ける。……だが、すぐに俺の方をまっすぐ見つめ返して言葉をつづけた。


「ですが、私はクレンさんの言葉を聞きました。ゼラの決死の行動を目にしました。……そして、あなたが必死に吠えているのを聞きました。……それを受けて、私がうずくまっているわけにはいかないと――いいえ、うずくまっていたくないと、そう思いました」


「そっか。……その言葉が聞けただけで、この作戦を立案した甲斐はあったな」


 今でも弱々しい光が消えたわけではないが、ロアの視線はまっすぐ俺を、そして俺の向こうで今でもエルダーフェンリルをにらみつけている仲間たちを捉えている。ずっと締め出していた多くの他者を、これでもかと小さな瞳の中に映し出している。


「私は、バルトライ家の中でも落ちこぼれかもしれません。戦闘面でも、事務的な面でも、私はどこまで行っても未熟者です。……ですが、力になることを惜しみたくない。それが、辛辣な言葉を浴びるきっかけになったのだとしても」


 真剣な目をして、ロアは俺にそう訴えかける。……それに呼応するかのようにして、小脇に抱えていた図鑑が淡い熱を放った。


「……まったく、なんてタイミングだよ」


 ご都合主義とかタイミング良すぎとか、言いたいことは無数にある。だが、今はそれすらも愛おしい。というか、たぶんそういうのを味方につけていかなければこの戦いには勝てないのだろう。そういう相手なのだ、エルダーフェンリルというのは。


 だから、今回ばかりは何も言わずにその力を借りることにしよう。……せっかく、ハッピーエンドに至るためのピースは全部そろってくれたんだから。


「……ロア、お前に頼みたい役割がある。いや、お前にしか頼めないことがある。……手伝って、くれるよな?」


 一歩前に進み出て、俺はロアにそう問いかける。それに小さな頷きが返ってきたのは、少し間をおいてからの事だった。


 その時間こそが迷いの証で、だけど頷いたことがロアが前に進みたいと願っていることの証だ。……だから、ロアのその意志を信じよう。……大丈夫、ロアの方が俺よりもよっぽどすごいんだから。


 ロアの近くにまで歩み寄り、俺はロアに任せる役割を耳打ちする。……それを聞き届けたロアは目を見開いていたが、俺はあえて冗談めかして片目を瞑って見せた。


「これが上手くいけば、勝利はぐっと近づく。頼むぞ、ロア」


「……ええ、分かりました。皆さんと一緒に、必ず果たして見せます」


 ロアがそう答えると同時、背後から強い風が吹き荒れる。おそらくだが、三回目の大きな攻撃を受けきったのだろう。……四回目が来る前には、この作戦を実行に移さなければ。


「さあ、行こう。……詳しい説明は今からするから」


「はい。……ありがとうございます、ヒロトさん」


 ロアの背中を押しながら、俺は皆の背後に近づいていく。礼を言われたが、それを返すのはすべてが終わってからのことだ。……今は、まだ計画の途中なのだから。


 熱を放つ図鑑を手に持って、俺は久しぶりにページを開く。……そして、俺は大きく息を吸った。


「……皆、少しこっちに耳を傾けてくれ! ――今から少しの間、ロアに指揮を任せる!」


 その一ページ目に乗った『新規情報の更新』と書かれた文字を見つめながら、俺はフィクサさんが役割を果たしてくれたことを確信する。その厚意に最大限の敬意を表しながら、俺は言葉を続けた。


「……今この瞬間、俺はエルダーフェンリルの弱点を調べる方法を手に入れた! それが分かった時が、俺達の反撃開始の時だ! その時はまた俺が指揮を執るから、だから!」


 ページをせわしなくめくり、俺は魔物のページへとたどり着く。その項目には、前までにはなかった『エルダーフェンリル』の名前がはっきりと刻まれている。――フィクサさんが、公文書として持っていた情報を世に出してくれたからだ。


 何百年も秘密裏に研究されてきただけあってその情報は膨大で、明確な弱点と攻略法を見出すのには少し時間がかかる。……だから、俺は叫ぶのだ。



「――今調べるから、ちょっとだけ待っててくれ!」

 やっとこのシーンまでたどり着けましたー! タイトル回収というにはあまりにストレートすぎますが、にしても感慨深いものがありますね……。と言ってもまだまだ戦いは続きますので、ぜひみんなの戦いっぷりをご覧いただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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