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第六百八十六話『主人公補正は誰のもとに』

「く、あ……ッ‼」


 数の暴力で受け止めてもなお、暴風の勢いはすさまじいものだ。台風の日に外に出るほどやんちゃな子供時代は送ってこなかったが、もしそうしてたらこんな経験をすることになったのだろうか。


 ミズネがつけてくれた氷の盾がなければ、直撃を食らった俺は間違いなく後ろにひっくり返っていたことだろう。その先見の明に感謝しつつ、俺は氷の盾の後ろにかがみこんでいた。


「……ミズネ、これならいけるか⁉」


 その風に飲まれないように声を張り上げて、俺はミズネにそう問いかける。それを受け取ったミズネはちらりとこちらを振り返ると、確かに首を縦に振った。


 それ以上の言葉はないが、十分すぎるぐらいの情報がそのリアクションにはある。……これによって、俺の想定しているプランが通る確率はさらに上がったと言ってもよかった。


「皆さん、今は相殺することだけを意識してください! 今はまだ、とどめを刺しに行くときじゃありません! もうちょっと、もうちょっとだけ耐えてくれれば十分です!」


 より強くなった確信を胸に、俺は声を張り上げる。結果的に勝ちというリザルトを得られるならばそれ以上のことはないが、事前に描いたルートをたどれるに越したことがないのもまた間違いない。――もっとも、しばらくしたらそれを放棄することも考えなくてはいけないのだが――


「……いや、それを考えるにはまだ早い」


 脳内に一瞬よぎった考えを、俺は首をぶんぶんと振って打ち消す。本当のハッピーエンドに到達するためにも、アイツは絶対に帰ってくる。……アイツが、ロアを自由にするための最後のカギなんだから。きっとアイツも、それを自覚しているだろうから。


「……帰ってきてくれるよな、一番都合のいいタイミングでさ」


 今どこで何をしているかもわからない今日の主人公――ゼラに、俺はそう呼びかける。ご都合主義なんてものがこの世界にあるのかは分からないが、あるのだとしたらゼラは絶対に戻ってきてくれるだろう。……俺が俺にしかできない役割をもらったように、ゼラにはゼラにしか果たせない仕事があるんだからな。


 ここまで頑張ってやってきたんだ、どうせなら最高のハッピーエンドが見たいじゃないか。……そのために、やれることは全部やりきって見せよう。


「……フィクサさんの方は――まだ少しかかるのかな」


 アイテムボックスではなく、小脇に抱えた図鑑を見つめて俺はそう呟く。王都についてからはほとんど役割を持てなかった図鑑だが、やはりこれは俺とは切り離せないものだ。これがあるとないとでは安心感が大違いだった。


 だが、完全に百パーセントただのお守りとしてここに持ってきたわけじゃない。これにしかできないことが、これを持った俺じゃなきゃ果たせないことが、この戦いではあるわけだが――


「……二発目、来るぞッ‼」


 どこからともなく聞こえてきた警告に、俺は思考を一時中断して身構える。俺の力では微々たる足しにしかならないが、それでもないよりはマシだ。耐えきるためにやれることはやると決めた以上、ここで手を抜くなんて発想があってたまるか。


「……岩よ、力を貸してくれ!」


 目を瞑ってそう叫び、俺は空中に岩の板を作り出す。少しでも防げる面積を増やすための工夫がそこにはあったが、しかしその効果があるかどうかは定かではない。……もっとも、俺にできるのはうまくいっていると信じてこれを放つことだけなんだけどさ。


「ガ……ラアアアアーーーーーッ‼」


「……今だ皆、迎え撃て‼」


 苛立ちをすべて濃縮したような狼の咆哮にかき消されないように、ミズネが大声で叫びながら氷の武装を一斉に風へと向かわせる。それにワンテンポ遅れるような形で、俺達の魔術も正面から暴風と衝突した。


「く……っ、あれ……⁉」


「クソっ、さっきより強いか……‼ 皆、少しだけ耐えてくれ!」


 しかし、予想外の勢いを持つ風に押されて俺たちの体勢が僅かに崩れる。それを見て咄嗟にミズネが追加の氷の武装を構えるが、それが間に合うかどうかは微妙なところだ。それより先に陣形が崩れてしまえば、前線に無視できない被害が出るのは目に見えている――



「……大丈夫、その必要はないよ」



――吹き荒れる風に混じって冷静な声が聞こえてきたのは、俺の脳裏にそんな考えがよぎった直後のことだった。


 暴風に逆らって鉄の槍が飛来し、エルダーフェンリルの猛威に真正面から抵抗する。わずかに足りなかった勢いを補うその姿は、まさしくヒーローそのもので。


「……ずいぶんとカッコイイ登場だな、ゼラ?」


「ああ、最高の見せ場だね。……ただいま、ヒロト」


 戦場に帰ってきたゼラは、不遜に笑って俺に挨拶する。……勝利のために欠かせないピースが、また一つこの戦場に集結した。

 さて、残すピースはあと一つ! 果たしてヒロトたちは最高のエンディングを迎えられるのか、期待して見守っていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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