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第六百八十四話『この戦いは最初から』

――状況は動いた。……しかし、私たちにとって不都合な形で、ではあるが。


 巻き起こった暴風がゼラを直撃し、ゼラは私の感覚が追いつかないぐらいのところまで吹き飛ばされていた。死んでいなければいいのだが、そうでなくてもすぐに復帰してくるのは難しいだろう。……つまり、しばらくは私一人で耐える必要がある。


「ガ……オオオオオーーンッ‼」


――蓄積した痛みによって怒りを募らせている、エルダーフェンリルを相手にして、だ。


「……前回と今回では目標が違う。前にうまくいったからという言い訳が通用するのは、ここまでみたいだな」


 私の周りを巡る魔力にそう呟いて、私は氷の盾を準備する。別にエルダーフェンリルは攻撃態勢に入っていないのだが、どこから致命の一打が飛んでくるかなんてわかったものではない。不測の事態なんてもうたくさん起きているのだから、それに備えて少し守勢に回る必要があった。


 だがしかし、それを繰り返しているだけで勝てるかと言われたら答えは否だ。……どこかで、そう何処かで攻勢に打って出る必要がある。そのタイミングがいつになるかは、私はおろかヒロトにも分からないことなのだろうが――


「……今は待つ。そして耐える。……私はお前を信じるぞ、ヒロト」


 作戦前にヒロトが私に伝えた『秘策』を信じて、私は堅牢な氷の鎧をも身に着ける。……その私の姿を見て何を思ったのか、エルダーフェンリルは派手な咆哮を放った。


 それに突き動かされるようにして、暴風が私の体に思い切り打ちつけられる。だがしかし、氷の鎧で減衰した風たちは私の体勢を崩すには至らなかった。


 もちろん衝撃は感じるが、その程度のものに弱音を吐くようなことはしない。前のめりに向かっていったゼラの思いを無駄にしないためにも、ここで戦端を終わらせるわけにはいかないのだ。


「……さあ、反撃の時間だ!」


 私を守って砕けた鎧たちに銘じて、それらをつぎはぎの氷の槍へと成形する。隙をさらさないように同時並行で氷の鎧を再建しつつ、私は攻撃態勢を完成させた。


 耐えるのが一番の目的ではあれ、しかし攻め手がないのでは味気ない。……油断を解いてもらわないためにも、傷を傷のため保ってやるためにも。……攻めの手を止めることは、今この場において一番の悪手だ。


「突き刺され、氷の刃たちよ‼」


 大きな槍を一本、それに付随して飛来する小さな氷の刃たちを数十本。完全な防御を指せないことを目的に、作り上げた武装たちを一点に集中して打ち放つ。狙いはもちろん、先ほどゼラの刃が突き刺さった前足だ。


 治癒などさせない。なかったことになどさせない。小さな生命のあがきとしか認識していないのだとしても、それを無に帰すことは許さない。……覚えていろ、その痛みを。


「は……ああああッ‼」


 裂帛の気合を込め、私は氷の槍たちをさらに加速させる。私に忠実な氷たちはその意志を受け取り、一路狼の傷口へと向かって行って――


「……ガグ、オオオオッ⁉」


 悲鳴のような鳴き声と同時、強大な魔力の塊が大きくのけぞる。その表情がどんなものかは目を瞑っているからわかりようがなかったが、それが効いていることだけははっきりと理解できた。


 だが、エルダーフェンリルから感じる魔力の反応はまだまだ減衰する様子がない。……あともう一押し、決定的な物がなければとどめを刺すことは難しいだろう。


 そしてそれは、今の私では実現するのが難しいものだ。私一人では、この怪物を死まで追い込むことができない。……それに関しては、私の力不足と言わざるを得ないところだろう。エルフとして私もそこそこ研鑽を積んできた方ではあるが、しかしまだまだ未熟な点も多いという事だ。


――まあ、もっとも――


「……今です皆さん、できる限りの追撃を‼」


「私一人でお前に挑んだつもりなど、欠片ほどもないのだがな」


 私の背後から近づいてきていた数多くの魔力の気配に笑みをこぼしながら、私は狼にそう断言してやる。……それがきっかけであったかのように、私の背後から無数の魔術が倒すべき相手に向かって真っすぐに放たれた。

 さて、戦いはついに最終局面へと続いていきます! ゼラとロアの邂逅、ミズネたちの時間稼ぎ、そしてフィクサの『とある行動』などなど必要なパーツはすべて集結した今、ヒロトたちはどのように戦っていくのか! 王都編、ひいてはこの物語の集大成となる戦いの結末、ぜひお楽しみにしていただければ嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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