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第六百八十話『たとえ応えられずとも』

――どうして前に進もうと思えたのか、それをはっきりと説明することは難しい。ただ、クレンさんの言葉は私の中の何かを確実にほどいた。……体が、軽いような気がする。


 私の弱さを一番知っているのは私だし、強くなったなんて言うつもりもない。私はまだ、自分を信じるという事がどういうことなのかよくわかっていないのだから。何をどうすれば自分を信じたことになるのか、弱い自分を許せるのか。……その答えにたどり着けるのは、まだまだ先の話だろう。


 だけど――


「くれぐれも私の傍を離れないように。……ここは、いつ危険が顔を出すか分からない場所なのですから」


「はい、分かっています。……安心してください、勇み足はしませんから」


 クレンさんの警告に応えながら、私は青白い領域の中を歩く。そこかしこから魔獣の気配がして、それと真っ向から戦っている冒険者の声が聞こえてくる。そうして開かれたかろうじて安全なルートを、私たちは歩いていた。


 だがしかし、特に目的があるというわけではない。かろうじて方針としてヒロトに合流するという算段があるだけで、合流した後何ができるかとか、そういう疑問は全部領域の外に置いて行ってしまった。


 それでいいと思っているし、その疑問を捨てない限り私は絶対に前に進めないと思う。疑問なんて考える暇もないぐらいに引っ張って行ってくれている方が、たぶん今の私にはあっているのだ。


 だって私は、皆の生の声を聴かなければならないから。私の中で聞こえた気がする声たちが本物なのか偽物なのか、はっきりしなくてはいけないのだから。


 たとえ本物でもそれに怒る気はない、皆にとってそれが事実なのだから。だけど、もし万が一、万が一それが私の勘違いで、私のことを信じてくれるなら。背中を押してくれる人が、ここにいてくれるのなら――


「私は、それに応えたい」


 自分の中に生まれた感情を、改めて私は噛み締める。それを取り落としてしまうことがないように、見失ってしまうことがないように、目の前に飾っておく。そうしたいと、私が思えたから。


 誰かから向けられた答えに何の応答もできない、情けない人間ではいたくないのだ。たとえ力不足であったとしても、結果的に応えられないことがあるのだとしても。……それでも、動ける自分ではいたいんだ。


 魔物たちの横を通り抜けながら、私たちはゆっくりと領域の奥へ奥へと踏み込んでいく。クレンさんによれば、ヒロトは今小型の魔物たちを狩る一団に混じっているとのことだ。つまり、このまま進んでいけばいずれは合流できる。まずはそうして、次の動きを考えないとーー


 私がそんなことを思った、その矢先のことだった。


「な……ッ⁉︎」


 突然横殴りの風が吹いてきて、私の体がぐらりと傾ぐ。転ばないようになんとか体勢を整える私の隣で、クレンさんもまた突然の強風に驚いているようだった。


「クレンさん、これは……⁉︎」


「この風を起こしている張本人こそがエルダーフェンリル、間違いなく強敵です! ……くれぐれも、転ばないようにお気をつけて!」


 二本の足を力強く地面につけながら、クレンさんは私にそう説明する。……その最中、私の視界に宙を舞う鉄の塊らしきものが映った。


 それが誰の魔術によるものか、私は嫌と言うほど知っている。焦がれて、ずっと見つめ続けてきた人の魔術を、私が見間違えるわけがない。……そして同時に、あんな風に吹き飛ばされるのが普通じゃないことも知っている。


 おそらくだが、先の暴風はゼラに向かって放たれたものなのだろう。それが直撃し、ゼラは大きく吹き飛ばされた。……ちょうど、冒険者たちもほとんどいないところに。


 いくら鉄で体を覆っていても、あんな高さから着地しては無事でいられるはずもない。……そんなところまで考えが及んだその瞬間、私の足は無意識に地面を蹴り飛ばしていた。


「ゼラ、今助けに行きます‼︎」


「ちょっと、ロア様⁉︎」


 落ちゆく鉄の星を見つめて、私は夢中で駆けていく。勇み足をしないと言ったその直後に、危険も顧みず私は駆けていく。そこに複雑な理屈なんてない。ただ一つの感情があるだけだ。


「お願い、どうか間に合って……‼︎」


ーーゼラがいなくなるのは嫌だと言う、その感情だけだ。

 役者はどんどんと戦場に揃い、あと一人の合流を残すのみとなっています。果たしてその一人が誰なのか、そしてそれが何をもたらすのか! 王都編のクライマックスをぜひお楽しみいただければ嬉しいです!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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