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第七百七十四話『まだ立っていなければ』

「――ヴァルさん、これを!」


「おうさ、任せとけ!」


 とっさに作り上げた岩の剣を放り投げ、ヴァルさんが器用にそれをキャッチする。ひそかに特訓を積み重ねたことによって大剣ぐらいなら作れるようになった俺の岩魔術は、使い捨ての武具を作り上げるすべとしては十分すぎるぐらいの強度を実現することができていた。


「ヒロトがいてくれて助かったぜ。なんせ、こういう奴を切ると俺の愛剣が鈍っちまうかもしれないからな」


 決して軽くないはずのそれを軽々と構え直しつつ、ヴァルさんは眼前に迫る魔物を見やる。カエルのような、しかし両生類というよりは爬虫類に近いような見た目をしたそれらの体表は、てらてらとした粘液のようなもので覆われていた。


 それに対しての生理的嫌悪感とかは湧いてこないが、いかにも斬撃を無効化しそうなその見た目は少しばかり厄介だ。だからこそ、ヴァルさんは自分の相棒を抜き放たないわけで――


「……吹っ飛べ、ヌメヌメども‼」


 炎を纏った岩塊をふるい、ヴァルさんは勢い良く地面へと叩きつける。それを起点として地面が派手に爆発し、それに巻き込まれた魔物たちが大きく吹き飛ばされた。


 その威力に耐えられるほど頑丈にはできていないのか、魔物たちはごろごろと地面を転がる。それを見届けるヴァルさんの右手の中で、俺が作り上げた即席の大剣はばらばらと崩れた。


 もとからそうなる覚悟で作り上げてはいるのだが、その光景を見るとやはり俺の魔術はまだまだ未熟なのだと思わざるを得ない。一回の衝撃で壊れる物しか作れない限りは、この魔術で誰かを守ることも難しいだろうからな。


 だが、それに挑むのはまだ先の話だ。……今は、次の得物を作ることに集中しよう。


「ヴァルさん、あと何本ぐらいあれば足りますか?」


「そうだな、ヌメヌメどもはまだまだいるし、五本ぐらいは頼む。……そんだけあれば、俺の魔術で全部吹っ飛ばしてやるよ」


「微力ですけど、俺もアイツらには強く出られますからね。……何となく嫌な予感もするし、先輩にはできる限り余力を残しといてもらうっすよ」


 風を纏わせた短剣を携えつつ、地面に着地したムルジさんが俺たちの会話に割って入る。その腰には何本もの短剣が吊り下げられていて、相手によってそれを切り替えながら戦っているようだった。


「おう、そりゃここで燃え尽きるような真似はしねえよ。……あの二人が全部済ませるなら乱入する余地もねえが、俺だってあの犬っころにはやり返したくてしゃーねえんだからよ」


「ええ、その意気ですよ先輩。……いつも通り、露払いの事ならオレを頼ってください」


 ヴァルさんが頷いたのを見て満足したのか、ムルジさんはそう言い残してまた突進していく。風を纏った剣戟が魔物を打ち上げ、空中で風の追撃を食らって撃破されているのが見えた。


「……弟分だと思ってたはずなんだが、いつの間にかいっぱしの戦士になりやがって。……こりゃ、兄弟子として負けてらんねえな」


「そうですね。……というわけで、こちらをどうぞ」


 その姿に触発されたヴァルさんに、俺は二本目の即席剣を贈る。一発で砕け散ってしまうことには変わらないだろうが、それでもより重さを強化した逸品だ。多分、さっきの一本でもヴァルさんにとっては軽すぎるだろうしな。


「おう、助かる。……ただ、魔力は大丈夫か?」


「はい、これくらいなら。……俺も、まだここで倒れるわけにはいきませんからね」


 自分の中で何かが削れて言っているような感覚はあるが、まだ限界には程遠い。……俺の想像通りに作戦が進むのなら、まだ俺はしっかり立っていなければいけなかった。


 その時がいつになるか、そこまでは俺には分からないが。……だけど、アイツのためにも俺は意識を保ってなくてはいけないのだ。……そうじゃなきゃ、俺に言葉をかけてあげられない。


「だから、限界が来たら早めに言います。……申し訳ないですけど、その時は……」


「俺の愛剣を使え、ってこったろ? 大丈夫さ、そこでケチったりはしねえよ」


 少しおずおずと頼み込んだ俺に対して、ヴァルさんは豪快な笑顔とともに答える。……そして、炎を纏わせた大剣を今度は低めに構えると――


「……せっかくの大作戦だ、景気よく行くとしようぜ‼」


 重たい剣が空気を切り裂いたと同時、炎の波が地面を迸って魔物たちを飲み込む。やはりその威力はすさまじいのか剣はぼろぼろとあちこちが崩れていたが、しかし原型自体は保ってくれているようだった。

 戦場で自らの役割を探しながら、ヒロトはずっとあの子の到着を待っています。果たしてそれがいつのことになるのか、楽しみにしつつ戦況を見守っていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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