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第六百七十六話『その言葉たちの一つでも』

「……ヒロトさんも大胆ですね。貴方だって実力ある冒険者でしょうに、来るかもわからない私を探すために別動隊として動いていたのですか?」


「ええ、その通りです。……というのも、私はすでに一線を退いた身でして。冒険者としての活躍は和解皆様、まだ気力に充ち溢れた皆様にお任せしようと思いましてな。そう考えて居たところに、たまたまヒロト様の思惑が一致したという寸法です」


 私からの質問に、クレンさんはあっさりと首を縦に振る。確かにその見た目は年相応と言った感じだが、気力に問題があるとは到底思えない。……というか、そんな人が一人で悠々と領域の周りを歩き回れるというのもまたおかしな話だった。


「……それと、もう一つ、ヒロト様は、貴女がここに来ることを予期していました。『アイツは絶対に放っておけない性質だ』って、それはもう堂々と断言していたものです」


「断言……。どうして、そこまで」


 クレンさんが正しいならば、ヒロトさんは私が来ると予想……いや確信して、大きな戦力になりうる存在を領域の外に常駐させておいたことになる。その思考は理解できないというわけでもないが、しかし違和感を覚えざるを得ないものだった。


 なんで私が来ることを確信していたのか。そして、私が来た時のために人を置いておいたのか。……無力な私のために、なんでここまでしてくれるのか。


「……さて、ロア様を見つけたら領域の仲間で案内しろというのがヒロト様のご指示です。……貴女は領域の中に踏み込みたいと、そう考えていると思って構いませんな?」


 そんな私の疑問をよそに、クレンさんは話をどんどんと前に進めていく。それに乗っているとなあなあのままで中に踏み込むことになってしまいそうで、私は思わず首を横に振って制止した。


「……私には、私があの中に踏み込む意味が分からない。価値が分からない。……無力な私が、落ちこぼれな私が、あそこに行って何ができるというのですか。……よもや、作戦成功の立役者にでもなれると?」


 なれないだろう、という答えを自分に返しながら、私はクレンさんに対して言葉を重ねる。意地悪いことを言っているのは分かっていたが、これが私だ。……こうやって足がすくんでしまうのが、私なんだ。


 いつもいつもみんなより一歩遅れていて、だからみんな以上に修練を積むしかなくて。……だけど、そこまでしてもまだ皆には追い付けない。……それが私、ロア・バルトライという人間の限界値だ。そんな人間が、あそこに行って何者になれるわけでもない――


「なれますよ」


 そんな私の考えを、クレンさんは一言で否定する。何の迷いもなく、脚色もなく、誇張もなく、ただただいたって普通な口調で、私の弱気を否定する。


「ヒロト様は、『ロアがいなけりゃこの戦いは確実にならない。……でも逆に、ロアさえいてくれれば絶対に俺たちが勝てる』と断言しました。そして、私もそうだと思っています。……ですから、貴女に一つ質問をしましょう。なに、簡単なことです。


 私を勇気づけるでもなく、過度に寄り添うのでもなく、ただ淡々とクレンさんは言葉を並べたてる。……そして言葉の最後に、ついに私の眼をまっすぐにとらえた。


 老いを感じさせない、輝きを帯びた目だ。たくさんの現実を見てもなお、その眼の中には夢が残っている。それが眩しくて、眼を閉じそうになって。……だけど、目が離せない。


「……先ほどから、貴女は自分を下げるようなことを多く口にいたしますが」


 私からの視線が向けられていることを知りながら、クレンさんは淡々と続ける。……そして、そこで一度言葉を切って。


「――その言葉の一つでも、周囲の人が貴女にかけたことがありましたか?」


「――ッッ‼」


――クレンさんの言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが揺れたような気がした。

 さあ、作戦は佳境に向かって様々な角度から動いていきます! おそらく次は別行動を選んだヒロトたちの視点になると思いますので、ぜひ楽しみにしていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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