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第六百七十一話『限界の先へ』

 ――勇ましい声とともに、ヒロトたちの足音が遠ざかっていく。それに混じって魔術が炸裂する音が遠くで聞こえて、この領域全体が戦場となりつつあることを私は肌で感じていた。


 分かりきっていたことだが、エルダーフェンリルの力は恐ろしいものだ。私の全力を叩きつけたつもりではあるが、それでもあの化け物が怯んだ様子は全くない。……落胆すら通り越して、いっそ笑いしか出なくなってしまうような規格外っぷりだ。


 だが、それでも絶対にあきらめることは許されない。一つでも光明を保ちつつ、生きて隙を伺い続ける。……それが、私とゼラにできる最善だと、知っている。


「……ゼラ、まだいけるな?」


「もちろん。……食らいついていくよ、アイツにも君にも」


 横を見れば、戦意をみなぎらせたゼラが首を縦に振っている。それは私にとってもありがたいことで、胸の中に燃える火がさらに勢いを増してくれたのを私は自覚していた。……前のヴァルさんにしてもそうだが、隣に誰かがいてくれるというのはとても心強いものだ。


 一人じゃないということが、私の足を動かしてくれる。一緒に抗う仲間がいるということが、私の目を鮮明にしてくれる。……まだ終われないと、私の魂が吠えている。


「……氷よ」


 深く目を瞑り、私は魔力を呼び起こす。この領域の中は魔力の濃度が高く、下手に取り込みすぎれば魔力酔いを起こしてしまいそうだ。……だからこそ、先手を取って動くことにした。


 視界を遮断し、その分だけ魔力を捉える感覚を研ぎ澄ませる。魔力の微かな流れも揺らぎも、そのすべてを手に取るように理解してやればいい。……そうすれば、眼を瞑っていようと見るべきものは見えてくる。――私たちエルフは、いつだって魔力とともにある種族なのだから。


「……咲け、大輪の花の如く‼」


 私の周りに集ってくれる魔力たちに感謝しながら、私は背後に大量の氷を花開かせる。……それと同時、ゼラのいるあたりでわずかに魔力が揺らぐような気配がした。


「ミズネ、それは……」


「ああ、いわゆる『ぞーん』というものらしい。……なかなか、悪くない感覚だぞ?」


 唯一生かしたままにしてある聴覚がとらえたゼラの問いかけに、私はそんな風に答える。普段だったら語目を瞑ってやるところだったが、両目を閉ざした今の状態じゃそれもできないのが惜しいところだ。


 だが、眼を開ければこの夢は覚めてしまう。眼を閉じているからこそ、この世界は私に限界の先を見せてくれるのだ。……だから、眼は決して開けない。エルダーフェンリルから命の気配が消え失せるまで、私は決して目を開けたりなんかしない。


「……行くぞ、ゼラ。……あの狼の敵になる準備はできているか?」


 狩る側だと思っているあの狼を、狩られる側に突き落とす。お前とて自然の摂理に組み込まれた一つの生命なのだと、思いあがった獣に教えてやろう。


「当然だよ。……あいつを叩き落とさないと、僕は行きたいところにたどり着けないんだから」


 私の質問にゼラがそう返すと、彼がまとう魔力が硬さを増していくのが伝わってくる。それはまるでゼラの決意の様で、決して砕けないのだろうというのが直感的に理解できた。


 さすがは王都最強の冒険者という名前を取るだけあって、そのポテンシャルはとんでもないものだ。ヒロト曰くゼラこそがロアを引っ張り上げるための大きなカギらしいし、少しは鼻を持たせてやるべきなのかもしれない。


「……だが、生憎この状態で手加減はできそうにもなくてな」


 氷の花をゆっくりと従えながら、私は不敵に笑う。体の全部が魔力と一緒になったような感覚の中では、全力を出すなという方が難しい注文だ。……こんな状態、堪能しなくてどうするというのか。


「……行くぞ。勝つのは、私たちだ――‼」


 思い切り地面を蹴り飛ばし、私はたくさんの氷たちとともに弾丸となってエルダーフェンリルに突っ込んでいく。……その様子に何を見たのか、狼はわずかに身じろぎをした。

 どれだけ仲間が大きくなろうとも、成長を見せようとも、それでもヒロトたちの師でありエースなのがミズネなのです。そんな彼女のかっこいいところをたくさん見せていければと思いますので、ぜひお楽しみいただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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