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第六百六十六話『適材適所』

「……さて、そろそろかな」


「ああ、あと五分ほどだ。それを察して店もたたまれ始めているところを見るに、お前の根回しが徹底していることがよく分かるな」


 だんだんと店じまいを始めていく屋台を見つめながら、ミズネはそんな風に口に出す。俺が緊張していることもとっくに見抜かれているのか、背中を叩く手つきはとても優しかった。


 ちなみにこれは余談だが、ネリンとアリシアには一足先に参加者に混じってもらっている。今ここにミズネがいるのは、このチームのエースとして俺と一緒に士気を上げてもらうためだ。……つまり、もう一人のエースも今この場にはいるわけで――


「聞き分けのいい商売人たちで助かったね。これなら気持ちの切り替えもスムーズにいきそうだ」


「ああ、そうだな。……この騒ぎの続きは、大勝利の後にとって置かねえと」


 ぼんやりと広場を見つめるゼラがそう呟いたのに応えて、俺は拳を握り直す。……ふと横を見れば、ゼラの腕もわずかに震えていた。


 屋台に目もくれることなく、ずっとこの場所で何やら考え事をしてたみたいだしな……。こうやって旗振り役として呼んだはいいが、一番緊張しているのはゼラなのかも知れなかった。


 ま、アイツからしたらこの作戦を達成した後のことの方が本番みたいなもんだからな……。だからと言ってその前の作戦で気を抜くような奴じゃないのは分かっているが、流石にこのままだといろんなことに支障が出るかもしれない。


「……ゼラ、緊張してるか?」


「……ああ、そりゃ当然ね。今までのどんな作戦よりも、今が一番緊張してる。満足に寝られなかったし、頭の中にはいろんなことがグルグルしてる。『もし失敗したら』なんて考えが頭をよぎるのは今日が初めてだよ」


 俺の問いかけに、ゼラは思っていたよりもすんなりと首を縦に振る。賑わいの中では静かな声色ではあったが、それがいつも通りのものでないことは聞いただけで明らかだった。


「いつだって僕自身のためでしかなかった戦いに、今は僕以外の未来も載ってる。……そう考えると、どうしても震えが止まらなくてさ」


「ああ、それは自然なことだな。……ここまでいろんな人間の思いが乗る作戦はなかなか合ったものではない。というか、私の記憶にもないぐらいだ」


 ゼラの独白のようなつぶやきに応えて、ミズネもどこかしみじみとそんな言葉をこぼす。……しかし、ミズネはその直後に「だが」と付け加えた。


「これほどまでに思いが一つになった作戦というのもまた初めてだ。……何もかも、お前ひとりで背負わなくてはいけないわけではないからな」


「そうだぞゼラ。俺たちがついてるから、お前ひとりで何もかも抱え込まなくていい。というか、俺のやりたいことに応えてお前たちが荷物を持ってくれるだけみたいなもんだからな」


 何か躓くことがあったのだとしても、すぐに支えられる位置に俺やミズネはいる。だから、ゼラのやりたいことだけを貫き通せばいいのだ。……それが、結果的に皆を引っ張る結果になるんだからな。


「まあ、そんなわけだから肩の力は抜いといてくれ。……皆が皆のやり方で全力を出せるようにサポートするのが、リーダーとして俺ができる一番の役割だからな」


 そう言う俺の肩に力が入っているのはいったん棚に上げるとして、俺はゼラの肩を叩きながら語目を瞑る。……ほどなくして、ゼラの表情が僅かにだがほころんだ。


「ああ、そうだね。……その役割を君が負ってくれるなら、僕はただ僕に求められた役割を全力で果たすだけだ」


「そういうことだ。……んでもって、それはお前とミズネにしかできない芸当だからな?」


 全力で力をふるえば、それが皆を引っ張る後ろ姿になる。俺の隣にいてくれる二人は、そんな天才的なことが自然にできてしまう二人だ。……間違いなく、俺にその役割は果たせない。


 だが、日本には適材適所って言葉がある。二人が最も輝く場所が戦いの場であることと同じように、俺にだって一番輝ける場所はあるのだ。ただ、それが線上にはないってだけの話で――


「……さあ、始めようか。ゼラと同じような不安を抱えてる奴、少なからずいそうだしさ」


 大きく深呼吸をしながら、俺は二人にそう宣言する。……そして、その直後に時計は予定時刻を指して――


「……皆さん、今日はよくぞお集まりいただきました!」


 一歩前に進み出ながら、俺はこの場にいる全員に向かって声を張り上げる。……作戦は今、確かに始まりに向けて動き出した。

 さて、エルダーフェンリルとの衝突まであと少しです! 果たしてヒロトはどれだけ冒険者たちの士気を上げられるか、ぜひご注目いただければと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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