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第六十五話『遺跡の守護者』

「二人とも、下がっていろ!巻き添えまで気にしている余裕はないんだ!」


 ミズネが今までにないくらいに鋭い声をあげ、俺たちははじかれたように跳び退って巨大なゴーレムから距離を取る。目の前にいきなり表れたそれは、俺たちに恐怖心を抱かせるには十分だった。


「ミズネ、大丈夫なの⁉」


 俺たちをかばうようにして立つミズネに、ネリンが心配の声を張り上げる。それにミズネは一瞬だけ向き直ると、


「何、相手するのはこれが初めてじゃない!少しばかり、エルフの本気というものを見せてやろうじゃないか!」


 ふっと俺たちにそう笑って見せると、再びミズネは正面を向き直る。それを見て、どうやらネリンも心を決めたようだった。


「……魔道具の準備だけしときましょ。万が一……いいえ、億が一への備えとしてね」


「ああ。俺たち自身の魔術じゃあ、まだ力不足が過ぎるもんな」


 耳打ちのような声量での提案に、俺も小声でそう返す。ポーチにつめこんだ手のひら大サイズの魔道具を軽く握りしめ、俺たちは固唾を飲んでミズネの方に視線を向けた。


 警備ゴーレムと呼ばれたそれは遺跡の幅ぎりぎりの大きさに設計されているようで、手を振り上げれば天井にまで届いてしまいそうだ。当然リーチはミズネよりもあるし、その威力も俺たちの想像をはるかに超えるものだろう。まともに食らえば、いかにミズネと言ってもただでは済まないはずだ。


――だが、当のミズネに焦る様子は微塵もなかった。


「……二人の避難も済んだ。なら、お前くらいは恐れるに足らんよ」


 そう不敵に言ってのけるミズネの周囲には、白い靄が立ち上っている。パキパキと音を立てて発生しているところから考えると空気を凍らせているとか、そういう感じなのだろうか。ふと、迷いの森ですべてを凍り付かせて見せたミズネの姿が頭をよぎった。


「……さあ、行くぞ!」


 勇ましく叫んで、ミズネは低い姿勢でゴーレムへと一歩目を踏み出す。それに追随するかのように、氷でできた槍が二、三本その周囲に装填された。


「待たせてる仲間もいるのでな、最初から遠慮はなしだ!」


 ミズネはいつの間にやら作り出していた氷の剣を握り、大きく踏み込んでゴーレムの懐へと飛び込んでいく。当然それをゴーレムが見逃すはずもなく、大ぶりな一撃がミズネに向かって振り降ろされるが……


「相変わらず、単調だな!」


 突如として現れた分厚い氷の板に棍棒がぶち当たり、その反動でゴーレムはわずかによろめく。そのすきを見逃さず、ミズネの一撃がゴーレムの胴体へと突き刺さった。


「……すごい……」


 その鮮やかな戦いっぷりに、隣から感嘆の声が聞こえる。俺も、ミズネの動きに緊急事態であるというのに思わず見とれてしまっていた。氷が彩る無駄のない動きは、まるで一つの演舞を見ているかのようだ。


「……そら、まだまだ行くぞ!」


 しかし、ミズネの本領はまだここかららしい。ミズネが高らかに吠えると、周囲に浮いていた氷の槍が一斉にゴーレムへと発射された。


『…………ッ‼』


 ゴーレムは声こそ上げないが、それが効いていることはよろめいている姿勢からも明らかだ。それはミズネがきっと一番わかっているだろうし、だからこそその次の動きも早かった。


「今日は大盤振る舞いだ!急速冷凍と行こうじゃないか‼」


 氷の槍が次々と生成され、続々とゴーレムに突き立てられていく。その圧倒的物量にゴーレムの膝が折れ、いつしか氷の山へと埋もれていく。ゴーレムの周りにも、ミズネが放つ冷気が渦巻いていた。


「……これで終わりだあっ‼」


 ミズネがおもむろにそう叫ぶと、今まで別々のものだった氷の槍が一つに収束していく。グサグサと無造作に突き立っていた氷の槍、それが大きな冷気となってゴーレムの全身を包み込み――


「……眠れ!」


 ミズネがグッと拳を握りこんだ瞬間、ゴーレムの全身が氷漬けになった。巨大な氷の中に閉じ込められる形となったゴーレムは、まるで封印されているかのようだ。


「特別製の棺桶だ、これで終わってくれるといいんだが……」


 軽く肩を上下させるミズネ。戦闘中は圧巻だったが、やはり相当な集中力を必要とするものだったらしい。表情はいつも通りだが、その額には玉のような汗が浮いているのが見える。


「ミズネ、大丈夫⁉待ってて、今治癒の魔道具を……」


「……ネリン、ダメだ!」


 心配そうに駆け寄るネリンを、ミズネが手で制する。その行動に、俺たちは戸惑うばかりだったが……



『……敵勢力の力量を把握。第二形態への移行が必要だと判断します』



――その理由は、ゴーレムのその声を聴くだけで十分に理解できた。


「……できればこうなる前に仕留めたかったんだけどな……つくづく、こいつと出会ってしまったことが悔やまれるよ」


 ため息をつくミズネの眼前で、氷がピキピキとひび割れていく。よく見ると、ゴーレムの形状が大きく変化していた。


 やたらと大きかった図体は俺たちと同じくらいの背丈にまでコンパクトになり、それに伴って武装も双剣へと変化している。さっきまでのゴーレムをパワー型とするならば、これは明らかにスピード型と言った感じだ。


『……コードネーム『BOSS』、この地の守護者として、マスターの命を全うします』


『ビーオーエスエス』。このゴーレムはそう呼ばれていたらしい。改めて確認するようなことでもないが、英語に直せばそれが表すところは至極単純だ。


「……さて、もうひと踏ん張りしなければ、だな……」


 苦笑しながら、ミズネは変形したゴーレムと向き合う。俺たちは、その様子を魔道具を握りしめて見つめることしかできない。


――『ボスに第二形態は付き物だろ?』……なんて、顔も名前も声も知らない英雄がほくそ笑んでいる姿が、ありありと見える気がした。

武力的なチートは一切ないヒロトですが、ミズネの実力はチートまでとはいかずともかなりのものです。そう考えていくと、ヒロトたちのパーティはかなりバランスのいいものになっているのかなーなんて考えてみたり。ネリンも今のところは目立ったところはありませんが、パーティを支える縁の下の力持ちですしね。これからネリンにフォーカスしたエピソードも増えていきますので、そちらもお楽しみしていただければなと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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