表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

654/714

第六百五十三話『つぎはぎを導く役目』

「――そんな感じの経緯で、フィクサさんもこの計画のサポートに回ってもらうことになりました。もちろん最前線に出るとかじゃなくて、情報面とか指揮系統面のサポートということにはなりますが」


 会談が終わった少し後、昼前で少し閑散としているレストランで俺はそんな風に報告する。――それと同時、ごふっとむせたような席が対面に座るクレンさんの方から聞こえてきた。


 そのまましばらくせき込んで、クレンさんは近くにあったお冷を一気に飲み干す。そのまま少し咳をし続けて、クレンさんは驚きを隠せないといった様子で俺の方を見つめた。


「……それは、ヒロト様がいうところの『マジ』というやつですか?」


「もちろん。あ、ギルドマスターとしてではないですよ? もちろん必要ならその権限も使うとは言ってくれましたが、ギルド単位で動いてくれるわけじゃなくて、あくまでフィクサさん単体の裁量の範囲で支援してくれるそうです」


「……いや、それでも願ってもない援助なことに何も変わりはありませんが――いったいどんな交渉をしてきたんです?」


 半ば呆れたような気配を伴って、クレンさんは俺にそう問いかけてくる。もう少し詳しく事情を説明するべきかと俺は少し悩んで、俺はゆるゆると首を横に振った。


「それに関してはフィクサさんの名誉にかかわることなんでシークレットで。あんまりむやみやたらに喧伝するものではないですからね。……だけど、フィクサさんが優しいからこの交渉が成立したってことだけは間違いありません」


「……そう、ですか……。いや、助力自体はありがたいんですがね?」


「そうなんですよ。ギルドにしか充魔期に関する記述って残されてないので、それに触れられるかもしれないと思うとかなりありがたい話ですよね。……もしかしたらそれが、計画を成功させる突破口になるかも」


 クレンさんの言葉にうなずいて、俺はそう続ける。図鑑があくまで世の中に流布されている情報しか網羅してくれていない以上、それぞれの組織なんかで厳重に管理されている情報には実際に接触するしか知る手段がないのだ。充魔期攻略においてそれだけが懸念点ではあったから、そこが解消するのはありがたいことこの上ない話だろう。


「……ああ、だけどもちろん秘密裏に、ですよ? フィクサさんが大っぴらに旗を振っちゃうと、俺の存在感が呑み込まれかねないんで」


 当人にそんな意図がなかろうと、あのカリスマはいるだけで人を引き付ける類のものだ。そんなフィクサさんが正体を隠さずに動けば、その活躍はフィクサさんのものとなってしまうだろう。それでは本末転倒だ。


 だから、そのことについてもしっかり許可はとっている。この活躍は表向きには俺の活躍、ギルドマスターからしても驚きの戦果だったということになるだろう。……そっちの方がロアのためにもいいってことは、フィクサさんもすぐに理解してくれたからな。


「……本当に、図々しくなられましたな。もちろんいい意味で、ですが」


 そんな風に説明する俺を見つめて、クレンさんはしみじみとこぼす。その声色とか言い方的に誉め言葉なのだろうが、なんだか少し含みがあるように聞こえてならなかった。


「……なんて言うか、図々しいって言われると否定できないのが辛いですね。俺のやってること、皆の得意分野においてちょっとずつ力を借りて繋ぎ合わせてるみたいなもんですし」

 

 ゼラとミズネを筆頭に冒険者には戦闘力を、商人の面々には盛り上げるための力を。クレンさんやフィクサさんにはその立場だからこそできることを受け持ってもらいながら、我が物顔で計画の旗を振っているのがこの俺だ。正直少し気恥ずかしいような気もするが、今更下りられるような神輿でもない。それを担ぐための人手は、もうあまりにも増えすぎてしまっているから。


「それができることこそ、リーダーの資質というものですよ。一人でできないことを自覚しているから、自分にできないことをやってほしいと素直に頼む。……もちろん、自覚していることと開き直っていることはまた違いますが」


「そりゃもちろん。……いつかは、皆みたいに一人で動けるようになってやりますとも」


 ただ、それはまだ遠い未来の話だ。今の俺じゃそれはできないから、皆の力を借りてちょっとだけ……いや派手に背伸びをさせてもらう。それが誰かのためになるのなら、他力本願でも何でもどんとこいだ。自力本願できるほど、俺の手のひらは大きくないし。


「……クエストの調整、うまくいってるかな……。場合によっては新しい依頼を作成してもらうところから始めなきゃいけないかもって報告受けてるんですよね」


「ああ、それは不安ですな。……ですが、ミズネ様達なら大丈夫だと私は思いますよ?」


 思わず零した不安の言葉に、クレンさんは片目を瞑ってそう返す。その表情を見つめていると『貴方もそう思ったのから御三方に任せたのでしょう?』……なんて、言外にそう念を押されているような気がして。


「そうですね。……まあ、いい知らせを信じて待ちますよ」


 ストローからジュースを吸い上げて、俺はクレンさんの瞳にそう答える。……その瞬間、クレンさんの表情が明らかにほころんだ気がした。

 新たに大きな存在も加わりつつ、ヒロトが打ち出した計画はさらに大きな流れへと変わっていきます! それは果たして臨んだ結末へと流れゆくのか、それとも違う方向へと動いていくのか、様々な人の多様な思いが絡み合う様をご覧いただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ