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第六百五十一話『伝えたいことのために』

――本当にまっすぐな目をして、フィクサさんはそう問いかけてくる。俺がまだ子供であることも一冒険者に過ぎない事も全部気にしていないかのように、ただまっすぐに、一切の寄り道を許さずに問いを投げかけてくる。それはとても優しくて、しかしとても厳しいやり方のような気がした。


 だが、そこで日和るわけにもいかない。ここに来た意味をつかみ取るために、俺だっていろいろと考えてきたのだ。……だから、俺もまっすぐにフィクサさんの目を見つめ返した。


「……単刀直入に言うと、ロアのことです。俺は冒険者として一番つらかった時、アイツの心遣いに救われました。だから、俺もロアのことを助けたい。……きっとつらい思いをしているはずのアイツに、『もっと周りを頼っていいんだ』って、そう伝えたい」


 おこがましい考えだとか、きれいごとだとか、頭の中に浮かんでくる否定の言葉を蹴飛ばしながら俺はフィクサさんの質問に回答する。……それを聞いてから二秒ほどの後、フィクサさんはふっと笑みを浮かべた。


「……ああ、いい目だ。それほどまでに気概のある若者は久しぶりだ。儂も直感に従って時間を割いた甲斐があったというものだな」


 私の見る目もまだ捨てたものではない、とフィクサさんは体を揺らして笑う。その声色は本当に楽しそうで、俺は最初の関門を超えたことを実感していた。


「実際のところ、ロアに対するその認識は家族の中でも共通しているものだ。あの子はバルトライ家の誰よりも努力家だが、その分だけ誰よりも自分に厳しい。ほかの孫たちと同じように才能を秘めているはずが、その心意気が才能を殺している。……皮肉な話ではあるがな」


「そう、ですね……。一人で何でもできなきゃいけないって思い込みが、アイツの視野を狭くしているような気がしてならなくて。……ロアを助けたいって思ってる人は、このまちにもたくさんいるはずなのに」


「ああ、その通りだ。それがロアの美徳であり、ほかの誰にも劣らない才覚。……それに気づかせてやるのは、おそらく血族である儂らの役目なのだろうが――」


 そこで言葉を切って、フィクサさんは少しだけ目を伏せる。その目に宿っているのが罪悪感なのかそれとも申し訳なさなのかは、俺にははっきりとは分からない。……だけど、ロアのことを軽視していないということだけは確かだった。


「ロアの友人であるヒロトがそれを果たしてくれるならば、儂らがそれを止めるようなことはない。お前が見たロアの才覚はきっと間違っていないし、それはロアがまだ気づいていないことでもある。……だからこそ、お前はそれに気づかせようとしてくれているのだろうな」


「はい。……そのために、少しばかり壮大な計画を立てさせてもらいましたが」


 俺がそう答えると、フィクサさんは少し興味深そうに眼を見開く。おそらくではあるが、クレンさんは俺の考えを離さずにここに来ることの話を通したのだろう。……本当に、細かい心配りが上手い人だ。


「壮大な計画、か。そういうからには、期待をしてしまっていいのだろうな?」


「はい、それに添えるかは少し不安ですが。……だけど、冒険者ならば一度は考えることだと思います」


 フィクサさんから向けられる期待のまなざしに負けないように、俺は堂々と答える。そこで物おじしてはいけないし、何より俺が計画の大きさを疑ってはいけない。……そこを忘れると、俺の大事な根底が崩れてしまいそうで。


「……俺はいろんな人の力を結集して、今ギルドに張り出されている中でも一番の難関とされるクエストを攻略します。『みんなの力を束ねる』っていうことが間違いでも何でもないことを証明するために、ロアにそのメッセージを最も伝わりやすく発信するために」


 無意識のうちにこぶしをぐっと握りながら、俺は一息で言い切る。……自分で言っていても規模が大きすぎるメッセージ計画だが、それくらいしなければロアを引っ張り上げられないこともまた事実だ。……問題は、その考えが俺だけのものじゃないかというところだけなのだが――


「……それだけのために最難関を攻略する、か。……ああ、面白い」


「……!」


 フィクサさんがそう呟いた瞬間、俺は思わず息を呑む。それは、俺の考えと同じものをフィクサさんが共有してくれた瞬間のような気がして――


「……ここまで気概のある若者を目にしたのは久しぶりだ。……ぜひ、儂にもその背中を押させてくれ。……儂の孫を、よろしく頼む」


 満足そうな笑みを浮かべて、フィクサさんは俺に向かって頭を下げる。……最大限の敬意がこもったその姿に、俺も思わず頭を下げると――


「……必ず、成功させて見せます。俺のことを助けてくれた、友人のためにも」


――改めて、俺は誓いを立てたのだった。

 一番本題となる話は終わりましたが、ヒロトとフィクサの時間はもう少しだけ続きます! ゆっくりと大詰めに近づいていく王都編、ぜひお楽しみください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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