表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

647/714

第六百四十六話『演説の才能』

「……まったく、アンタも口がうまくなったわね……」


「うんうん、万雷の拍手を受けるに相応しいスピーチだったよ。ヒロト、やっぱりそういう才能あるんじゃないのかい?」


 決起集会からの帰り道、ネリンとアリシアが両サイドから俺のスピーチを称賛してくる。無我夢中で話していただけの俺からすると、その言葉たちはどこか大げさな気がしてならなくて。


「いやいや、あれは皆が優しかっただけだろ……。なあ、ミズネ?」


 俺の背後を歩くミズネに視線を向けつつ、俺は助けを求めるようにそう問いかける。……しかし、ミズネも笑みを浮かべながら首を横に振った。


「いいや、今まで聞いてきたスピーチの中でも一、二を争うほどの名演説だったぞ? 少なくとも、あの場にいた参加者たちの心に火をつけるには十分だった。アリシアの言う通り、お前には演説化の才能があるのかもしれないな」


「ミズネまでそんなことを言うのかよ⁉」


 今までいろんなスピーチを聞いてきただろうに、俺のことをそう評するミズネには一切の迷いがない。俺のスピーチがまだまだだと思っているのは、どうやら俺一人だけのようだった。


「……どもったし言葉も詰まったし、とてもじゃないけど百点満点のスピーチじゃない気がするんだけどな……」


「何言ってるのよ。それがいいんじゃない。どもっても詰まっても、それでも伝えたい思いがある。それがはっきり分かったから、あそこにいる人たちはアンタの背中を押そうって思えたんじゃないの?」


 思わずこぼれた独り言に、隣に立つネリンが敏感に反応して突っ込みを入れる。俺からしたらそこは改善点でしかなかったのだが、どうやら聞き手からすると違って聞こえたようだった。


「ああ、そこがヒロトのすごいところだったね。決して話が上手いわけでも、煽動家みたいにみんなの感情を煽るのが上手かったってわけでもない。……だけど、誰もがその言葉にこもった感情を嘘じゃないって思えた。それが、ヒロトの言葉が持つ才能だと思うよ」


「……そこまで言われると、なんだか持ち上げられすぎな気もするな……?」


 確かにあの言葉たちに嘘はなかったが、中にはそれを綺麗事だと笑い飛ばす人もいるだろう。事実、俺が言っているのは大層な理想論だ。そういうのを好まない人だって、この世界にはたくさんいる。


「私が見ている限り、お前がは成している途中で席を立ったものはいなかったがな。……あの場にいた者たちにお前の声が届いているなら、それは成功というものじゃないのか?」


「そうそう、素直に自分の成果を誇りなさい。『アイツには褒めすぎなくらいでちょうどいい』って、あのマスターにも念押しされてるしね」


 いたずらっぽく語目を瞑りながら、ネリンは俺の肩を叩く。その背後にマスターの笑みが見えるような気がして、俺は思わず脱力した。


――まあ、少なくとも集会は成功したわけだしな。それを喜ぶことぐらいは、許されてもいいのかもしれない。


「……これでやっと、スタートラインに立てるんだからな……」


 協力者も増え始めている。討伐が終わった後の祭りも着々と準備が進んでいる。もう少し難航するかと思っていたのだが、ふたを開けてみればびっくりするぐらいに順調だ。……それを俺の手腕のたまものだというのは、まだ少し恥ずかしいけど。


「君の描いた設計図は、少しずつ現実のものになりつつある。……懇親会でも思ったけど、この瞬間ってやっぱり感慨深いものなんだね」


「あ、それ分かるかも。喫茶店にたくさんの人がいるのを見た時、あたしすっごくワクワクしたの」


 アリシアのしみじみとした言葉に、ネリンが身を乗り出すようにして同意する。……ワクワクする感覚には、俺も確かに覚えがあった。


 初めて俺がこの計画を思いついたとき、それはまだ夢物語でしかなかった。だけど、今となってはそれはもう夢物語なんかじゃない。現実的な可能性として、俺の計画は実行に一歩ずつ近づいている。……それを楽しいと思っていないなんて言ったら、大嘘になってしまうだろう。


「理想は笑って語れるものじゃないといけない、か」


 改めて、マスターが俺にくれた言葉の数々を思い出す。今のところまでの貢献度で考えるのならば、この計画の影のMVPはマスターに贈らなくてはならないだろう。……それくらい、俺はマスターの言葉に助けられている。


「ここまでもなかなかに忙しかったが、明日からはさらに忙しくなるだろうな。……私たちも、気を抜いていられないぞ?」


 そんな俺たちの様子を見て、ミズネは楽しそうにそう口にする。……皆も、このちょっとしたお祭りのような雰囲気を楽しんでくれているだろうか。楽しんでくれていたらいいなと、そう思う。


「……ああ、そうだな。そのためにも、宿に帰ったらしっかり寝ないとだ」


「そうね。目の下にクマ作ってちゃ、必要なところで頭が回らないかもしれないし」


 頭の後ろで手を組んでそう呟く俺に、ネリンが頷きを返す。――そんな感じでゆっくりと宿への道を行く俺たちを、満ち始めた月が見守っていた。

 少しずつ変化しながら、しかし大事な部分はぶれないまま、ヒロトたちは一歩一歩進んでいきます。その姿が果たしてロアにはどう映るのか、その輝きにロアは何を見るのか。少しずつ近づく作戦決行の時を楽しみにしていただければ嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ