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第六百三十七話『誰かのターニングポイント』

「……それ、ロアに取っておくべき言葉だったんじゃないのか?」


「いいや、君も同類だね。似た者同士……というか、根っこで流れてるものが同じだ。君は何らかの助けがあって一足先に進んでいたのかもしれないけど、それでも似ていることに変わりはない。……あんまり素直に認めたくないけど、ロアもそれを本能的にわかってたからいろいろと打ち明けられたのかもね」


 大通りの端で足を止めて、ゼラはそんな風に言葉を紡ぐ。あきれているような、だけどどこか羨ましがっているようなその声色の真意をどう受け止めればいいのか、俺はまだ決めあぐねていた。


「君もロアも、決して才能がないわけじゃない。その才能を見ないふりしてるか、あるいは本当に見えてないだけだ。君はどっちかっていえば前者、ロアは後者。だけど源流は同じだし、かけるべき言葉が似ていることは理解できるんだけどさ」


 俺の方をじっと見返しながら、ゼラはそこで言葉を一度切る。そして、何かを思い出すかのように視線を上の方へとさまよわせて――


「……誰かに夢を見せられるってのは、とてつもない才能だよ。いつか僕がロアのようになりたいって思ったみたいに、ヒロトが僕のあきらめたくないって気持ちを呼び起こしたみたいに。……誰かに夢を見せられるってのは、それだけでとてつもなくすごい事なんだ」


 感慨深げに目を瞑り、ゼラはまるで独白のようにそう語る。今をかみしめるようなその言葉に、俺は思わず息を詰めた。


「……ロアがいなかったら、僕は今もずっとスラムで腐ってた。ヒロトがいなかったら、僕は自分の本音を押し殺していつか傍を去ることを正しいだと思い込み続けてた。……僕の分岐点は、君たち二人がいてくれたことなんだよ」


 目を見開いて、その瞳が俺の姿を映し出す。そのまっすぐな視線は、今までの感情の起伏が見えないゼラとも、ロアの傍にいたころのゼラとも違う――その中間をとっているような、だけどとても柔らかい表情だった。


「誰かのターニングポイントになれることは、誰もができることじゃない。僕はロアにとってのターニングポイントになれてないからね。……だけど、そこに君が現れた。そして、今君はロアにとってのターニングポイントになろうとしている。……きっとこの作戦が成功すれば、君はロアの考えをまっすぐに正せるんだろうな」


 俺の目を見据えたまま、ゼラは言葉を紡ぎ続ける。うらやむような、称えるような、自分の力不足を悔いるかのような。……今までの感情の薄さが嘘のように、その目にはいろんな感情がないまぜになっていた。


「僕は君がうらやましい。いろんな人の分岐点になれる君が、僕の憧れた人と同じ才覚を持っている君が、きっとロアの隣に立てる君が羨ましい。……本当は、君の立ち位置には僕がいたかったんだけどね」


「大丈夫だ、お前の恋路を邪魔するつもりはねえよ。……だから、最後はしっかりかっこよく締めてくれ」


 ゼラからの言葉に応えて、俺はそこだけはしっかりと意思表明する。俺が中心になって進める計画ではあるが、それでも一番いいところを持っていくのはゼラだ。……そこだけは、最初から決めていたことだ。


「ありがとなゼラ、俺のことを機にかけてくれたんだろ? ……大丈夫だ、もう何でもかんでもしょい込むような真似はしないからさ」


「うん、それがいいよ。それと、自分の分の手柄はしっかり誇ることを忘れないようにね」


「……ああ、忘れない。手柄はちゃんと主張してくから、活躍全部取られないように気張ってけよ?」


 くぎを刺すゼラに俺も軽口で応じて、足を止めていた俺たちは再び大通りを歩きだす。……ロアのターニングポイントにみんなでなるための計画は、徐々に形になろうとしていた。

 ヒロトとゼラとロア、この三人の変化が王都編の大きな題材の一つだったりします。果たして決着がつく頃にはどんな変化を遂げているのか、ぜひ楽しみにしていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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