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第六百三十六話『非才に非ず』

「人柄といいメニューの質といい、正直なんで流行らないのかわからないレベルだったね。……まぁ、落ち着いた雰囲気を求める人はあんだけ話しかけてくるマスターを煙たく思うのかもしれないけど」


 喫茶店を後にしたゼラが、大通りを歩きながらポツリと呟く。前に店を訪れた時の俺たちと同じような感想が零れたきたことに、俺は思わず笑みをこぼした。


「……ああ、全くだな。仮に自分の絡み方が原因だって知ったとしても、マスターは話しかけることをやめない気もするけど」


「それもまた真理、だね。理想は自分が笑って言えなきゃいけないって言ってる以上、マスターも自分の納得できないことはしない性質だろうし」


 俺の笑みを見て、ゼラも表情を綻ばせる。感情の起伏はあまり見えなくなってしまったが、それでも今のゼラが考えていることはなんとなく分かった。


「ほんと、最初に交渉しに行ったのがマスターでよかったよ。そのためのヒントをくれたお前にも感謝しかねえな」


「僕がしたのはあくまでヒントの提供だけだよ。それに基づいて結果を出したのは君で、それを実現したのは君が築いてきた繋がりだ。……その手柄を、誰かに譲る必要なんてない」


 俺の反応に、ゼラは小さく首を振りながら息を吐く。それは呆れたというよりは、しょうがない人を見たかのような反応だった。


「……前から思っていたことだけど、君は自分の手柄を他人に押し付ける癖があるよね。他人の責任ばかり自分で背負い込んで、それで出た結果は他の人にプレゼントする。……それは美徳な時もあるかもしれないけど、場合によっては悪徳にもなる。君の手柄は、君だけが手にするべきものだ」


 いつしか俺の方をまっすぐ見つめて、ゼラは俺に向かって語りかけてくる。……俺だけを見て、俺に投げかけてきている。それがなんだか気恥ずかしくて、俺は頭を掻いた。


「……俺、いつもそんなふうに見えてたのか?」


「流石にロアよりひねくれてはないけどね。……『自分が成果を挙げられたのは他人の存在があったからで、それを忘れて喜んではいけない』みたいな自戒が、君の中にあるような気がしてならないんだよ」


「……っ」


 その指摘を聞いて、俺は思わず息を詰める。それはあまりにも的を得ていて、一瞬なんと答えればいいのかが分からなかった。


 それを肯定するべきか、否定するべきか。……無言のまま少し悩んで、俺は首を縦に振った。


「そうだな。俺が大きなことができるのは、それについてきてくれる皆のおかげだ。俺が何もやってないなんて言うつもりもないけど、必要以上に胸を張るつもりもない。……俺は皆に、スタートラインを用意してるだけだ」


 きっとそれはこの作戦も同じで、ロアに新しいスタートラインを見つけさせるために奔走している。ロアぐらい真っ直ぐに進める人なら、そのスタートラインの先にきっといいゴールが待っててくれるだろうからな。


「そうだね。僕の本心も暴いて、気がつけばいろんなことに巻き込まれてた。……今僕がここに立ってるのは、全部君が動いたからだ。僕はロアの近くにいられるだけで満足するつもりだったのに、その満足を嘘っぱちだって見抜かれてね」


「……でも、それも最後はお前が決めたことだ。本当に一番近くで寄り添っていたいって気持ちは、お前の中にあったものだよ」


 小さく首を振って、俺はゼラに言い聞かせる。だが、ゼラはそれに首を振りかえした。そして、もっと鋭く、まっすぐ俺の方を見やってーー


「……誰かの本心を引っ張り出すのは簡単にできることじゃない。ロアに誰かを束ねる才能があるのは間違いないけど、君もまたよく似た才能を持ち合わせてるんだよ、ヒロト」


 そう言って、俺の非才を否定した。

 いつかの銭湯で、ヒロトはゼラの本心を暴き出しました。今度はゼラが返す番、ヒロトに隠れた才覚を暴き出す番です。次回以降も是非お楽しみに!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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