第六百三十一話『空白の多い設計図』
「……それで、ここから君はどうするつもりなんだい?」
レストランから出るなり、ゼラは俺にそう問いかけてくる。その目はまっすぐ俺をとらえていて、隠し事ができそうにない事を一瞬にして悟った。
「……正直なところ、頑張って人を集める以外にできることはねえな。この街にはロアのことを応援したい奴がいっぱいいて、だけど機会に恵まれないまま悶々としてるはずだ。……だから、そういう人たちに声をかけていければいいと思ったんだけど」
「それを見分けることは難しいから、片っ端から声をかけていくしかないと。……スケールがでかい割には、ずいぶんと空白が多い設計図じゃないかい?」
無策を告白した俺に対して、ゼラは厳しい視線を送ることをためらわない。俺の頼みを受けてくれた後だからよかったが、順序を間違えてたら事後報告すらうまくいかなかったかもしれないな……。
「仕方ないだろ、唐突に思いついた作戦なんだから……。考えていくうちにスケールがどんどんどんどんでっかくなって、いつの間にか壮大になってただけなんだよ」
逆に言えば、ロアに正しくメッセージを伝えるにはそれだけの下準備がいるってことなのかもしれないけどな。不完全だとしても思いついてしまった可能性を無視することはできないし、ベストを尽くさずにその思い付きを否定したくもない。……だから、見切り発車だったとしてもごまかしながらどうにか走りきるしかないのだ。
「ゼラとミズネの協力があれば、戦力面に関してはみんな信頼してくれるはずだしな。これはロアのための一手だけど、決して茶番じゃない。本気で最難関のクエストをクリアするから、俺たちのメッセージは重みを増していくと思うんだよ」
「うん、そうだね。……ヒロトの中にあるその熱さは、この作戦に加わる人すべてが抱かなきゃいけないものだと思う」
中途半端な真似はできないね、とゼラは肩をすくめる。それは自戒のようでもあり、俺に向けた念押しのようにも聞こえた。……一切の妥協も許されないと、そうくぎを刺されているかのようだ。
「ギルドの人たちへの勧誘は、ミズネたちに任せようと思う。……だから俺は、アイツらが拾いきれないような奴らを取り込めればいいと思ってるんだけど――」
「拾いきれないような人たちがどこにいるのかもまあ見当がつかない、ってわけか。……確かに、今日僕を探すのにもずいぶん苦戦したって話だったしね」
少しからかうように、俺の悩みに対してゼラが笑み交じりに返す。それに反論してやりたい気持ちはあるが、決して的外れな意見じゃないのが苦しいところだ。
だが、時間をかけて交渉することには慣れっこだ。ミズネたちが出す成果の何分の一になったとしても、俺でしか見つけ出せないような人たちを俺が見つけなければ――
「……やみくもに探すだけだから、君はいつも迷ってしまうんじゃないかな?」
「……え?」
俺が意思を固めようとしているところに、ゼラはそんなことを言ってくる。その意味を図りかねて十とゼラの顔を見つめていると、ゼラは小さく笑って付け加えた。
「……今日僕を探すのに手間取ったのは、僕があの温泉にいなかったからだろう? 逆に言えば、そういう目印になるような場所があれば同じ目的を持つ人のことは見つけやすい。……どうにかしてそれを作ることが、ひそかにロアのことを思っている人を見つけ出すための手段としてはいいんじゃないかな」
「……なる、ほど?」
ゼラの熱弁を受けて、俺の中でぼんやりとしていた仲間集めの方法が一つの像を結んでくる。それがうまくいけば、ともすればミズネたちにも負けないくらいの成果が見込めるかもしれなかった。
「というか、いつまでもギルド中心に声掛けしてたらギルド側にも迷惑が掛かりかねないからね。……早いところ、僕たちの仮集会所みたいなところを見つけ出すのが大事だと思うよ」
おまけと言わんばかりにそう付け加えて、ゼラはもう一度俺の方をまっすぐに見つめる。……その言葉を聞き届けて、俺は大きくうなずいた。
ここからはしばらく街を歩き回るつもりだったが、予定変更だ。ゼラが与えてくれた作戦は、俺の中で一つの場所を明確に想像させた。……もしかしたら、ロアには申し訳ない事をするかもしれないけれど――
「……ありがとうな、ゼラ。おかげで目的地が定まった」
「うん、それはいいことだね。……ちなみにどこのことを指してるか、教えてもらっても?」
ついていく気満々で、ゼラは俺の決断にそんな問いを投げかける。当然、俺はそれに対して首を縦に振った。
王都は人が多いせいで、集会場として使えるような空間はそう多くない。だが、俺は知っているのだ。この王都で一番落ち着く空間を作り上げた、ロアを思う人物を――
「――王都で一番の隠れ家カフェ。……そこが、俺の思う集会所候補だよ」
ここからは点と点が線になっていくフェイズになるかと思います!マルクがどこに向かうのか、ぜひ見守っていただければ嬉しいです!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!