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第六百二十七話『成し遂げることの意味』

「一番難しいとは、これまた大きく出たものだね。確かに、ボクたちなら不可能な事じゃないとは思うけど……」


「それを言いだした理由が分からない限りは、素直に首を縦に振ることは難しいな。一番難しいともなれば、私も最初の一撃だけを叩きこんで後は傍観しているという訳にもいかない。……お前たちの身の安全は、保証できないぞ」


 俺の頼みを聞いて、アリシアとミズネは少し戸惑ったような様子を見せる。今まで楽しい時間を過ごすことを主軸に置いてた俺がいきなり高難度のクエストを目指すとか言い出したんだから、そういう反応になるのもまあ納得できる話だ。……そういうことを俺から言い出すの、これが初めてだからな。


 だが、俺が考える限りこれがロアを引っ張り上げるための一番の方策だ。ロアを変えるには、まず今の自分が目指している方向が見当違いだと思わせなければいけない。――誰かの力を借りられることだって立派な才能なのだと、結果を伴って伝えなければいけないんだ。


「勿論、危険度が上がることは分かってる。今は充魔期だし、多分俺たちだけでやろうとしたら相当苦戦すると思うんだよ。……だから、俺たちを主導としていろんな人に協力してもらうつもりだ」


 今までギルドで言葉を交わしてきた冒険者たち、クレンさんやヴァルさん、ムルジさんたちの力。……そして、王都最強と名高いゼラの力までもを借りて、俺は高難易度クエストを目指したいのだ。


「勿論そのための交渉とかはするし、ギルドからのバックアップも全力で使わせてもらうつもりだ。……あくまで、俺たちが中心になってその動きを作ったってことが大事なんだから」


「……つまり、私たちの手で王都の冒険者の力を束ねたいってことね。それをロアに見てもらうことが、アンタの思惑ってことかしら?」


「ああ、そんなとこだ。……俺みたいに非力な奴だって、皆の力を借りれば王都最大のクエストだってクリアまで導くことが出来る。そう分かれば、ロアも考えを改めてくれるかもしれないだろ?」


 たった一人の実力ですべてを解決できてしまうのなら、確かにそれは素晴らしい事だ。数々のチート主人公がそうしてきたように、たった一人でロアに手を差し伸べて救えてしまうならそれ以上のことはない。……だが、俺の手の中にあるのは一冊の図鑑だけだ。


 その決断を後悔するつもりはないけれど、あの時神が滅茶苦茶焦ってたのも今なら何となく理解できる。どれだけ生きた知識を持っていたとしても、それだけじゃ人は救えないのだ。……その知識を生かすことが出来なければ、どれだけの知識があっても生きていくことは難しい。


 だから、俺がネリンたちと早々に出会えたのは本当に幸運な事だった。俺の知識をもとに、正しく力を振るってくれる皆が居たから、俺はここまで来ることが出来た。……俺が本当に誇るべきなのは、俺の助力を最大限の結果として引き出してくれる人たちがそばにいてくれたことなのだ。


「……ロアのことを助けたいって思ってる人は、この王都にたくさんいる。それは今までめぐってきた中でもなんとなくわかる事だし、その力を借りることが悪い事だなんてあるはずがない。そのことを、俺たちの姿を通じて示したいんだよ」


 一息で言いきって、俺は三人の目をぐるりと見まわす。緊張していたからか早口になってしまっていたかもしれないが、それでも言いたいことは言いきれた。後は、その作戦を実行に移すために必要な最初の三人の力が借りられるかどうかなのだが――


「……本当に優しい人だね、君は」


 ……しばらくの沈黙を破って、最初にそう呟いたのはアリシアだった。普段は好奇心に輝いている瞳が、今は優しい光を伴って俺を見つめている。……その姿は、普段より何倍も大人びて見えて。


「何も最難関にまで行かなくてもいいのに、君はそれを目指すんだろう? 自分の危険も顧みず、ただロアの考えを改めさせるために」


「まあ、そうなるな。……今言ってくれたみたいな綺麗事だけで、この作戦を考え付いたわけじゃないんだけどさ」


 正直なところ、これが本当にロアのためになるかは微妙なところだ。どこまで行っても俺の自己満足で終わる可能性だって捨てきれない。……それでも、やってみないまま終わるのはどうしても我慢できなかっただけで。


「俺のことを助けてくれた人が悲しい思いをしたままなんて絶対に嫌だ。俺と関わった以上、出来る限り笑っててほしいよ。……そんなワガママに巻き込もうとしてるんだから、お前たちが嫌だっていうなら無理にはできないな」


 アリシアの目をまっすぐ見つめ返して、俺は正直にそう告げる。俺が言っているのは間違いなく綺麗事だし、身勝手だって責められたって何も文句は言えない。そう思っていたのだが、アリシアはさらに笑みを深めるばかりで――


「うん、分かってるよ。……そんな風に言う君だから、ボクたちは君に協力しようと思えるんだ」


 二人もそうだろう? ――と。


 ネリンとミズネに話題を向けたその言葉に、俺は思わず首をかしげる。……それに二人もノータイムで頷くものだから、俺はさらに首を深く傾げるしかなかった。

 ヒロトのことが仲間からどう見えているか、それを確認するエピソードもどこかで語れたらいいですね……。などと思いつつ、作戦は少しずつ実行へと近づいていきます。果たしてヒロトの思いは結実するのか、どうぞ見守っていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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