第六百二十二話『新時代の装備品』
「お二人の近接戦闘を見た限りだと……ああ、これとかいいかもしれませんね。薄くですが風の膜を張ってくれて、飛び散ってくる砂煙とかが視界を妨げないようにサポートしてくれるんです」
詳細な説明を付け加えながら、ロアはネリンとアリシアに向けてモノクルをかたどったようなチャームを差し出してくる。アクセサリーとしても結構なクオリティだと言っていいそれが、二人の目の前で小さく揺れた。
「へー、そういうタイプの効果もあるのね……確かに砂煙とか邪魔に感じる時があるし、これで対策しておくのも悪くはないかも」
「私が大きく場を荒らしてから突っ込んでもらう都合上、どうしても砂煙やらが舞い上がってしまう時もあるからな……。できる限り凍り付かせて地面に落としてはいるのだが、それでも完全にやるのは難しい」
ロアから提示された効果に唸りを上げるネリンの後ろで、ミズネがどこか申し訳なさそうにそう口にする。と言っても砂煙においてミズネに非はないし、なんならそれを軽減してたと聞いて驚くばかりなのだが、ミズネからしたらまだまだ納得のいく領域ではないらしい。……ミズネがどこまで成長するつもりなのか、俺にはまるで見当がつかなかった。
「そうやって気遣いをしてくれてるってだけでボクとしては嬉しいけど、万が一その砂煙が何か予想外の事故を生んだら嫌だしね。……うん、一応買っておこうかな」
「そうね、私もこれは買っておくことにするわ。……ねえねえロア、一般的な冒険者ってチャームどれくらいつけてるものなの?」
そんな俺をよそに、二人は迷うことなくチャームの購入を決意する。ピアスほどの大きさのそれを受け取りながらネリンが放ったその質問に、ロアは一瞬首を捻った。
「そうですね、冒険者がどのような装備をしているかというところにかなり左右はされてしまうのですが……。私が見たことある中で一番多かったのだと、五個とか六個つけている人はいたでしょうか」
それ以上は聞いたことすらありませんね、とロアは視線を上にやりながら告げる。ロア程チャームに親しんでいる人が見た上でのことだし、おそらく五個か六個が本当に限界なのだろう。いくら小さくて邪魔になりにくいとはいえ、塵も積もれば山となるって言葉もあるからな。つけすぎた結果動きが悪くなるんじゃ本末転倒もいいところだ。
「それじゃ、買えてあと二つってところかしら。身軽にしてくれるチャームは確定として、もう一つは悩みどころね……」
「そうだね、きっとそこまでは近接戦闘をするなら必須って感じだ。だから、その人らしさが出てくるのは最後の一つに何を選ぶかというところなんだろうけど――」
ロアの説明を受けて、二人はもう一度チャームが並んだ棚を見つめ直す。その隣に立つロアはどこかうずうずしたような様子で、棚一杯に並んだチャームたちをあれこれと眺めていた。
多分、ロアからしたら二人に合ってるチャームが何勝手のはもうわかってるんだろうな。だけど、あえてそれを言いださないで二人がどんなものを選ぶのか知ろうとしているように思える。充分な知識を持ち合わせながらもそれを押し付けすぎないのは、ロアの美点の一つだと胸を張って言えるだろう。
「……これは、私たちの番が回ってくるまでにもう少し時間がかかりそうだな」
「かもな。……というか、お前はチャームでどこを強化するつもりなんだ……?」
ネリンとアリシアの後ろでその様子を楽しそうに眺めていたミズネの呟きに、俺は思わずそんな問いを投げかけざるを得ない。チャームでの変化を誤差だと言いきれるくらいにミズネの実力は飛び抜けたもので、さしものロアもこいつに合うチャームをひねり出すのは難しいんじゃないかと思えるくらいだ。それほどまでに強くてもなお上を見続けるその向上心は、俺も見習わないといけないところではあるんだけどな。
そんな俺の質問にミズネは首をひねり、視線がいろんなところを行ったり来たりする。十秒くらいそのままでいたあたり、ミズネ本人にもその質問は難しいものであるようだった。
しかし、やがてミズネは俺の方へと視線を戻す。そして、少し照れたように頭を掻くと――
「……二人が選んだものと同じものを見繕ってもらうよ。そう言う楽しみ方が出来るのも、チャームってものの良さな気がするんだ」
「ああ、それはいいかもしれないな。……うん、ワンポイントとしてはぴったりだ」
遠慮がちにそう答えたミズネに、俺は笑顔で頷きを返す。本来のチャームの使い方とは違うかもしれないが、丁寧に作られたデザインだっていいところの一つなのは間違いない。よりお揃いにした時の結束感が強まるのも、チャームと言う新しい装備品が持つよさなのかもしれなかった。
お揃いのお守りとかってなんか感慨深くなりますよね。僕もそんなエピソードの一つや二つ持っていたかったものですが、まあそれはそれとして。チャーム選びも予想以上に長くなっておりますが、これもまたヒロトたちの大事な思い出として残るものになるでしょう。彼らの行く日々の風景を楽しんでいただけていれば幸いです!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!