表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

622/714

第六百二十一話『小さく胸を張れること』

「ねえロア、これはどんな効果がこもってるの?」


「……ああ、それは確か軽微な治癒魔術の効果が付与されているタイプの物だったと思います。と一転も、擦り傷が回復する速度がちょっと早くなる程度で、大ケガを癒してくれるようなものではないのですが」


 ネリンから受け取ったチャームを手の上で軽くもてあそびながら、よどみなくロアは説明を付け加える。どんなチャームでも一目見るだけでなんとなくの性能を把握して見せるその知識の深さに、俺たちはただひたすら唸りを上げるしかなかった。


 俺たちが今いるのは、王都の中でも多くの鍛冶屋が立ち並んでいる一角だ。最近になってチャームショップも剣や防具といったものと同じレベルの装備品であるということの認知が進んで来たらしく、真っ先に進出してきたのがこの店なのだとか。


 そういう背景もあって、ざっと見るだけで三ケタ――いや四ケタは確実にあるだろうというくらいのチャームが俺たちの目の前には並んでいる。そのどれもが絶妙に違う細工を施されたりしているようで、今までのロアの話を聞いている限りそう言うところでも発生する効果には違いが出てくるらしい。


「これ、カガネの人たちが見たら驚きそうだな……。お土産にいくつか買って帰るか」


「あ、いい発想だと思いますよ。チャームは基本的に持っていて損をする者でもありませんし、他の装備に比べてデザイン性も高いですからね。お土産やプレゼントとしては十分です」


 俺の些細な思い付きに、ロアは笑顔で頷きながら棚からいくつかのチャームをつまんでくる。星をかたどった物や宝石のような形をしたものから、剣や槍などの武器をかたどったものまで、そのデザインは本当に幅広い。仮にチャームとしての機能がなかったとしても、アクセサリーとしての価値も十分にあるんじゃないだろうか。


「……刻印術式とも、少し違う仕組みなのだな……。今まではなんとなく見てきたが、かなり興味深い技術が込められているらしい」


「ええ、その通りです。……と言っても、刻印術式を下敷きに少しアレンジしたものがこのチャームづくりには大きく寄与しているようですが」


 まじまじと見つめながら呟くミズネにも、ロアは即座に詳細な知識を披露して見せる。ロアの中ではあまり大したことのないと釘だと考えていたようだが、その知識量は傍目から見ても豊富というどころの話ではなかった。


 こんなにすごい知識を内に秘めてた当たり、深く突っ込んでいけばこれよりすごい特技がいくつか見えてきてもおかしくはないな……。それに希望を抱くのも見当違いな話だし、自身が伴っていないんでは結局ロアを変える大きなきっかけにはなってくれないんだろうけどさ。


「ちなみに、今アリシアさんが持っているそれはチャーム技術の中でも最先端の物でして。『身軽のチャーム』なんて呼ばれてて、付けるだけで少しだけ身のこなしが軽くなるってもっぱらの噂ですよ」


「へえ、そりゃ凄いじゃないか。……ひょっとして、これを付ければつけるほど身軽になったりするのかい?」


 指でつまむようにして持っているクローバー型のチャームを揺らしながら、アリシアはロアにそう質問を付け加える。それが仮に実現するならチートアイテムもいいところだが、ロアはゆるゆると首を横に振った。


「いえ、そんな都合のいい事はありませんでした。二つ付けておくことで片方が外れても大丈夫なようにはなりますし、それを理由に二つ買いする冒険者の方々はいないでもないらしいですが」


 効果重複の話は聞いたことがありませんね――と、アリシアは申し訳なさそうに笑う。重ねがけが効かないのは確かに残念ではあるが、そもそもつけるだけでその持ち主に恩恵を与えるというのが凄いのだからこれ以上注文するのは野暮ってやつだろう。そんなものが量産出来たらチート能力顔負けだしな。


「……しっかし、ホントに専門家レベルの知識だな……。チャームって文化、まだ発生したばかりなんだろ?」


「ええ、だから極めることが出来たとも言えますね。チャームに関する疑問なら、人並み以上に答えられる自信はあります」


 俺の賞賛にロアは小さく胸を張り、控えめではありながら知識への自信をのぞかせる。普段は遠い背に向かって焦っているところが目立つばかりだから、そうやって胸を張れることが少しでもあるのは少しだけ安心した。本当に小さなものではあるだろうけど、ロアの中でそれは確かな自信になってくれてるだろうからな。


「……おっと、あまり話し込んでばかりでもいけませんね。後の予定をしっかり消化するためにも、そろそろ本題に入らないと」


 そんな風に思っていると、ロアが俺たちの方を改めて向き直る。そして、その背後に並ぶ無数のチャームたちに一瞬だけ視線を送った。


「……普段はあまり活かされない知識ですが、全力で皆さんのお力になりましょう。……さあ、どんな効能がお望みですか?」

特技に対する自己評価と他者からの評価って時として分かれがちですよね……。ロアもこの一件を通じて自信をより深めてくれればいいのですが、果たしてどうなる事やら。まだまだ先が見えないロア引っ張り上げ作戦がどこに行きつくか、是非見守っていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ