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第六十一話『覆る前提』

「ヒロトと過去の英雄が、同郷……⁉それって、どういうこと⁉」


 俺のカミングアウトに真っ先に反応したネリンが、俺に向かって二歩三歩と詰め寄り顔をずいっと近づけてくる。その剣幕に俺はのけぞりながら、


「ちょ、近い近い!今まで隠し事をしてきたのは謝るから、とりあえずちょっと離れてくれ!」


「いーやあたしはしばらくこのまんまよ!だってアンタ、そんな、そんな……」


 必死に手をパタパタと振りながら後ずさりするも、それに合わせてネリンはぴったりついてくる。そりゃそうか、今まで俺は隠し事どころかそれを誤魔化すために嘘までついていたわけだもんな。義理と人情を大事にするネリンが、そんなことを簡単に許すわけが――


「…………そんな面白そうなこと、なんで今の今まで黙ってたのよ‼」


「……って、え?」


――ない、なんて思ってたもんだから、ネリンの叫んだ言葉に俺は思わず耳を疑った。


「……ネリン、怒ってるんだよな?」


「ええ怒ってるわよ!そんな最高に面白い事、どうして隠し通そうとしてたのかってね!」


「お前からしたらこれは面白い事なのか⁉」


 俺からしたらばれたら面倒事必至の爆弾だと思っていたのだが、どうもネリンの認識は違うらしかった。俺が戸惑いながらそう言うと、ネリンは俺の目をしっかり見て、


「だってアンタ、かつての英雄と同郷なんて人気者間違いなしよ⁉それにアンタもその英雄と同じような知識を備えてるわけだし、それを使えば大儲けも夢じゃないわよ!」


「それが俺からするとめんどくさいんだけどな⁉」


 いつだったか友人に半ば無理やり読まされたラノベの中には日本の知識だけで一財産築いている主人公もいたが、俺はああする気にはなれない。お金は稼ぎすぎると面倒事の種になるし。そう考えてしまうあたり、俺にはチート無双も異世界知識無双も肌に合っていないのかもしれない。この図鑑にも、地球のことは何も書かれてないしな。それでいいし、それがいいと思ってる。


「でも……!」


「ネリン、少し落ち着け。……ヒロト、お前はできるだけ自分自身の出自や境遇を広めたくないと思っている。それで間違いないな?」


「……まあ、そうだな」


 まだ何か言いたげなネリンを遮って、ミズネは俺にそう問いかける。それに俺がうなずくと、ミズネは案外素直に「そうか」とうなずき返して、


「なら、ヒロトの事情は今のところ私たちだけの秘密だ。これから信頼できる人物が増えても、それを打ち明けるタイミングは考えるとしよう。遺跡攻略は……まあ、たぐいまれな幸運とでも言って押し切ればいいさ」


 実際それで間違っているわけでもないしな、とミズネは笑う。示してくれた方針は、俺にとっても非常にありがたいものだった。


「ああ、俺としてはそういう方向で行きたい。俺の出自のせいで面倒事に巻き込まれるのは御免だしな。……あとは、ネリンが納得してくれるかだけど」


 ふと視線を向ければ、なおも少し不満そうにうなり声をあげているネリンがいる。その姿勢のままネリンはしばらく黙り込んでいたが、やがて俺の方を上目遣いで見ると、


「……あたしたちには、アンタの知識のこと教えなさいよね」


「……ちゃんと秘密にできるならな」


「そこはちゃんと守るわよ……。……いいわ、それで手打ちにしてあげる。この世界のほとんどの人が知らないことを知れるだけで大分得だし」


 ぼそっと提示された条件に俺が苦笑しながら返すと、ネリンが渋々ながら受け入れてくれる。それをもって、俺たちの方針は決定した。


「……てっきり、『仲間に隠し事なんて何事だ』ってどやされるもんだと思ってたんだけどな」


「隠し事なんて誰にだってあるもんでしょ?あたしにだってできれば言いたくないことはあるし、それを無理してまで引きずり出されるのは嫌だしね。……きっと、例の英雄にも隠し事はあったでしょうし」


 頭を掻きながらそう言った俺に、ネリンはあっけらかんとそう返す。それに俺が目を丸くしていると、隣でミズネがうんうんとうなずいた。


「そうだろうな。英雄が隠し事をしていないなら、この遺跡の謎ももっと早く解かれていたはずだ」


 意外にも、重大な隠し事をしていた俺への対応は寛大だ。それを考えるとここまで言い渋っていた俺がなんだか恥ずかしくなってくるが、それは二人が特別優しかったと認識しておこう。俺が異世界人であることはやっぱり重大だし、伝える人を選ばなきゃいけない。


「……二人とも、ありがとうな」


――そう考えると、カレスに来て初めての仲間がこいつらで本当によかったな……


「……さあ、話を本題に戻そう。この遺跡のメインの設計者はヒロトと同郷であることが判明した。……つまり、私たちが今までこの遺跡の謎を解けなかった理由の候補の一つをつぶせるということだ」


「……そもそも、私たちが根本的に『知らないこと』がヒントになってるとか……?」


 含みを持たせたミズネの言葉に、ネリンが何かを察したようにそうつぶやく。それを聞いて、俺にもようやくミズネの言いたいことが分かった。


「図鑑って存在をみんなが知らないのと同じパターンか……‼」


「いくら私たちが血眼になって探しても、もうこの世界に存在しえない知識を用いられていてはどうしようもない。ある意味最強のセキュリティなわけだが、ヒロトはそれに対する最強の対抗策だ」


 異世界知識チートがなぜチートなのかと言えば、それに関する知識が広まっていないからだ。その前提が崩れることはあまりなく、それでこそ異世界の知識は重宝され続けるわけだが……


「だけど、俺がいることでかつての英雄が立てた前提は崩れる、と」


「そうだ。ちょうどあつらえたように、今まで誰も解読できなかった記号があるという証言もあるしな」


 そういえば、昼探索していた人たちがそんなことをミズネに言っていた気がする。いつか世界史の授業で見た古代文字がただの絵にしか見えなかったように、もしかしたらカレスの人たちにとっては――


「……何百年も前から存在し、様々な存在も認知されているのに一切解読が不可能な文字……それは、ヒロトの故郷だけで使われていた文字なんじゃないか?」


俺の目を見据えて、にやりと笑いながらミズネがそう推論を締めくくる。――どうやら今回は、図鑑だけではなく俺自身も攻略のトリガーらしかった。

遺跡の謎は深まっていきますが、それと同時に核心へもどんどんと近づいていきます!いつかエイスと過去の英雄を主軸にしたスピンオフなんかも書いてみたいですね……。どのキャラも個性あるのでいつかもっともっと掘り下げていけたらなと思っています、お楽しみに!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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