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第六百十七話『夢が並ぶ場所』

「……それで、今日はここからスタートか」


「ええ、ここも私の行きつけの店ですから。……あなたたちの事ですし、今日もまたお腹を空かせてここに来たのでしょう?」


 広場に所狭しとならぶ屋台の数々を見つめながら、ロアは得意げな笑みを浮かべる。王都の片隅に寄り集まるようにしてできていたその地帯は、ニュースとかで時々見たことがあったB級グルメの選手権のような様相を呈していた。


 あちこちからいろんな聞きなれない料理の名前が聞こえて来て、俺たちのほかにもいろんなお客さんがあちこちの広場に足を運んでいる。その賑わいは、今が充魔期であることをひとときだけ忘れさせてくれるほどだった。


 色々と図鑑で調べてから食べてみたいという気持ちが頭をよぎるが、流石にそれはナンセンスだろうと俺は首を左右に振る。こういう知らない料理を互いに知らないままで食べるの、きっと楽しいだろうからな。


「一定の店舗を持たない屋台たちの集まり、か。……もしかして、ここも王都で店を持つための登竜門的な立ち位置を担っていたりするのかい?」


「ええ、勘がいいですね。王都で経営はしてみたいけど、自分の商品が売れるのかが不安な人だったり、店舗を持つほどの資金力を最初から有していない人たちがここに集まって商売をするんです。『王都で成功したい』という、大きな野心を抱いて」


 もっとも、充魔期のせいで帰るに帰れなくて困ってる屋台もないではないらしいですが――と、真剣な表情を崩さないままでロアはそんな事を付け加える。仕入れなども滞っている今の状況で屋台を経営するというのは、確かにかなり心もとない事のように思えた。


「まあ、宿などに関してはバルトライ家が負担して保証はしているのですがね。これでも普段の七割ほどしか営業していないのですが、それでもかなりの賑わいでしょう?」


「ああ、夢に満ち溢れたモノたちの心意気が心地いいな。……それにしても、バルトライ家がそう言ったところにも手を回していたとは驚きだが」


 ロアの言葉を肯定しながら、ミズネは興味深そうな声を上げる。バルトライ家はあくまでギルド絡みの事を多く管轄しているという認識だし、確かにこの屋台たちのことをサポートしているのは少々意外なところだった。


「ええ、この人たちが王都に滞在しているのは充魔期の影響ですから。こういった魔物に依る状況の悪化などはバルトライ家が受け持つというのが、王都の管理者たちとの取り決めのようでして」


 詳しい事は私にもよく分からないのですが、と苦笑しつつも、ロアはよどみない調子でミズネの疑問に対して答えを返す。充魔期と言う誰のせいでもない問題を誰が受け持つのかと言うのは、確かに難しい問題ではあった。


「『夢を持つ者の補佐に金を惜しまない』と言うのは、当代のバルトライ家――おじいさまの大きな信条の一つでもありますから、充魔期でなくとも一定の支援はしていると思いますけどね。……私も、それはとても暖かい方針だと思います」


「ええ、あたしも同感ね。……これから先も、ずっと続いて行ってほしい考え方だわ」


 おじいさんの考えを推し量るロアの言葉に、ネリンが目を細めて屋台の光景を改めて見つめる。そこに居る誰もが声を張り上げていて、自分の夢を掴むための一歩を踏み出そうと手を伸ばすことをやめない。……もしかしたら、集合市場よりもこの場所には野心が満ち溢れているかもしれなかった。


 ここにあるのはたくさんの夢と、それを追い求め続けようとする人の意志だ。それはバルトライ家の胸を打ち、ある程度の援助が入りさえしても鈍ることがないまばゆい光だ。……それを見つめて、ロアはいったい何を思うのだろうか――?


「……さ、そろそろ踏み込んでいくとしましょうか。あちこちから呼び込みの声が聞こえてやかましいとは思いますが、それを浴びられる場所に行かなければこの場所を堪能したとは言い難いですからね」


 ロアの内心を思うよりも先に、ロア自身が俺たちに先を促す。もう待ちきれないと言った軽い足取りは、あの屋台の集団に踏み込んでいくことをむしろ喜んでいるかのようだった。


「ああ、そうだな。じっくりしっかり、この場所の魅力を味わうとしようか」


 その本心を読み切れないのは不安だが、だからと言ってここでまごまごし続けているわけにもいかない。ロアに続いた俺の一歩に少し遅れて他の三人も歩き出して、俺たちの王都観光二日目は幕を開けた。

 王都に並ぶ屋台は、野心や夢、希望が詰まった場所でもあります。その密度が一番濃い場所で、ヒロトたちはいったい何を思うのか、どうぞお楽しみにしていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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