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第六百十四話『揺らぐ』

「……あれだけいろいろなところを回ったのは、初めてかもしれません」


 いつもよりゆっくりと家路につきながら、私はそんな風に呟く。誰かと一緒にいて羽を伸ばせたと思うのは、私の中ではあまりにも珍しい感覚だった。


 私にとっての誰かは、いつも私を試すかのように見つめていたから。私にとっての誰かの視線は、いつだって私自身の価値を測るものでしかなかったから。……バルトライ家に生まれた以上、それは避けられないというものだ。


 バルトライ家に生まれたことを不幸だとは思わないし、むしろ私は恵まれている方なのだと思う。兄様と姉様は優しいし、二人のように上手に出来ない私に対して横柄な態度を取ることもない。父様と母様が仲睦まじいのは王都の冒険者たちが安泰でいられている事の証だし、おじいさまはずっとこの街の冒険者たちを見守って来た私にとっての誇りだ。私は、ロア・バルトライでいられることを誇りに思う。


 だからこそ、今のままの私ではいけない。他の誰が今のままの私を肯定してくれても、私だけは『ロア・バルトライ』としての理想を追いかけなくてはいけない。兄様と姉様が、父様と母様が、そしておじいさまが胸を張って自慢できるような、そんな存在に成らなくてはいけない。


 そうなるまでは他者の評価なんて気にしないし、気にする価値なんてないと思っていた。それを聞き入れてしまえば、私の決意は鈍ってしまいそうで。……今のままの私が受け入れられることを認めてしまえば、私はずっとその温かい空間に甘え続けてしまいそうで。それは、私の目指す『ロア・バルトライ』の姿ではない。


 そう考えてもう長いし、もう簡単な事では揺るがなくなってきたという自信だってあった。いつかたどり着くその時まで、私は私の理想だけを追いかけ続けられるのだと思っていた。――ヒロトさんの姿を、この目で見るまでは。


「……どうしてあなたは、立ち直ってもなお私のことを揺らがせて来るのですか」


 最初は、私と似た者同士だと思った。今の自分のことが認められなくて、どれだけ他の人から許されても自分だけは今の自分を許せなくて。……そんな人だったから、私は共同戦線を提案した。……まあ、途中で突き放すような態度も取ってしまったのだけど。


 だけど、あの人は立ち直った。何か憑き物が落ちたような顔をして、あの人は仲間たちの隣に立っていた。その時の表情はとても自然なもので、無理をしてるような感じなんて全くしなかった。あの三人と一緒にいる時のヒロトさんが一番輝いているのだと、私は否が応でも思い知らされた。


 だから、そこで終わりだと思った。前に進んだヒロトさんと、まだ理想に届かない私。その袂は分かれたし、もう踏み込んでこないとも思っていた。当然だ、私の都合であの人を振り回したのに、その翌日には冷たく突き放したのだから。……結局私は一人で理想を追うしかないのだと、そう思っていたのに。


「……どうして、踏み込んでくるんですか」


 ヒロトさんはあくまで私の隣に立とうとした。共同戦線なんて一線を引いたものじゃなく、もっと深く、近いところへ。……それはまるで、ヒロトさんにとって一番大切であろう仲間たちに対してそうしているように。


 もっと驚いたのは、ヒロトさんの仲間たちも同じように接してきたことだ。別に嫌ではなかったけれど、戸惑いは隠しきれなかった。なんでそんなにも優しくしてくれるのだろうと、そんな疑問ばかりが頭をかすめていた。


「私は一人でいいのに。……理想にたどり着くまでは、一人でいいのに」


 一人でいた方が、より自分を追い込める。厳しく、妥協なく自分を高めていくことが出来る。それを続けていけば、私もいつか誰にも恥じない『私』になれる。そう思って、そう信じて今まで走り続けて来たのに。


「……どうして、それをあなたが否定してこようとしてくるんですか……」


 面と向かっては発せなかった問いが、私の口からとめどなくあふれてくる。今日というこの時間を楽しく過ごせたことが、私の在り方を根底から揺るがしてきていた。


 あの人たちと一緒に過ごしていれば、私も今のやり方以外の道を見つけられるのだろうか。あの人たちの優しさにもたれかかって、今までの歩みを変えてしまってもいいものなのか。……当然、答えなんてない。その答えを出すのは私でしかなくて、今までを守るも変えるも私の一存でしかないのだ。分かっている。分かっているのに。


「……あなたたちは、私にどうしろと言うのですか……?」


 あの優しさに触れて何も変わらないことも、今までの理想も捨てることも、私にとっての間違いであるような気がしてならない。そう思えてしまうから、どうするべきかなんて全く分からなくて。……だけど、あの四人が再び訪ねてきてくれることを楽しみにしてくれている私も確かにいて。


――それに浮かぶ半分の月が、中途半端な私をあざ笑っているかのようだった。

 ヒロトたちの奮闘もあり、ロアも少しずつですが変わりつつあります。この変化をより良いものとするのか、それとも一過性の物で終わってしまうか……それは、今後のヒロトたちの作戦次第と言ったところですね。この先の関係に何が起こっていくのか、楽しみにしていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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