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第六百五話『ここから更にもう一歩』

「……ふう、いいお店を知れたわね……」


「だな。流行ってないとか言ってたけど、いつ流行ってもおかしくないようないいところだった」


 満足そうな表情を浮かべながら呟くネリンに、俺も思わず声を重ねる。だが、そう思う反面あんまり流行りすぎてほしくないと思ってしまうのも何となく理解できた。


 あの独特だけど落ち着いた雰囲気は、マスターとお客さんの間に信頼関係あってこその者だからな。どうしても一見さんが増えたり、そもそもの客の量が一気に増加するようになるとあそこまではどうしても手が回らなくなってしまうだろう。……そうなった時、果たしてあの雰囲気は保たれるのだろうか。


 そういう気持ちになったことがないからあっているかは分からないが、これが「応援していた存在が大きくなるとなんだか寂しくなる」みたいな感情なのだろうか。お客さんが増えていって、今日みたいにしっかり言葉を交わす機会も減って。……そうなるのはなんとなく嫌だなと、今日来たばかりの俺がそう感じてしまっている。だから、ロアが他人にこの店を紹介したがらないのも何となく理解できるのだ。


「私はあの空間が好きなので、出来ればいつまでもあの程度の人の入りでいてほしいんですがね。……マスターの腕の事を考えると、いつまで噂にならずにいられることやら」


「いや、そこに関しては大丈夫だと思うぞ。少なくとも私はこの店のことを言い触らしたくないと思っているからな」


「ボクも同感だね。あのお店にはどうかいつまでも隠れた名店でいてほしいものだ」


 そうしたら何度でも通えるからね、とアリシアは小さく舌を出す。ここに訪れた全員が、大体俺と同じような考え方に至っているようだった。


 ま、大繁盛を目指すマスターからしたら気の毒でしかない話なんだけどな……自分が納得できるカフェづくりにこだわった結果通好みの隠れた名店になってしまうというのは何とも言えない感じだ。……ま、俺たち客としてはそっちの方が好ましいって思ってるわけだけどさ。


 そんなマスターが放った言葉だったからこそ、ロアの中にも強く印象に残ったのだろう。背負うだけが優しさじゃないというのは、ロアのことを深く知っていなければ出てこないと思えるくらいには的を射た指摘だった。


 ロアが他者からの評価を諦めているからと言って、ロアのことを見てくれる他者が居なくなったわけじゃない。それだけは忘れちゃいけないことで、しかしロアが今忘れかけている事だ。……マスターが作ってくれたきっかけを元にして、俺たちはもう一歩ロアの心の中に踏み込んでいかなくちゃならない。


「……なあロア、次はどこに行く? 今日はお前がガイドさんだからさ、心置きなくおすすめのところを紹介してくれよ」


 マスターとカフェの話題が一段落ついたのを見て、俺はロアに問いかける。俺たちが道の端っこでそんなやり取りを交わしている間にも、いろんな装いの人たちがせわしなく道を右往左往していた。


「そうですね……色々と候補はあるのですが、かなり張り切って食べ過ぎてしまいましたしね。……うん、多分あの場所がいいでしょう」


 ガイドという仕事にはやはり慣れていないのか、しばらく考え込んでからロアは小さく頷く。その間ぼんやりと街並みを眺めていた俺の視線をまっすぐ見つめると、次いで他の三人とも順繰りに目を合わせた。


「たくさん食べられるのは良い事ですが、そればかりにかまけて運動を怠っては冒険者としての自覚に欠けるというものです。もちろん冒険などで動き回るから大丈夫だとは思いますが、念のため腹ごなしはしっかりとしておきましょう」


「……ええ、そうね……。それが出来る場所が、次の目的地ってこと?」


 突然の持論展開に少しだけ驚きつつも、ネリンはそんな風に問いかける。それに対して、「よくぞ聞いてくれました」と言わんばかりの笑みをロアは浮かべると――


「その通り。今から私が案内するのは、王都最大の商店なのですよ」


 堂々と、次の目的地を俺たちに向かって宣言した。

 ロアによる王都ツアー、まだまだ続きます! ロアのおすすめスポットを巡る四人が何を思うのか、そしてロアの心を開くための鍵は見つかるのか! 楽しみながらも奮闘する四人の姿をお楽しみいただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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