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第五十九話『前時代の謎』

――石造りの床を俺たちが歩く足音だけが、狭い天井に反響して遺跡に響いている。足を踏み入れた遺跡の中は、いつだか図鑑で見たようなピラミッドの内部によく似ていた。


「……なんだか不思議な雰囲気のところね……」


 石造りのせいなのか、外よりも空気がひんやりとしているような気がする。軽く身震いしながらのネリンのつぶやきに、ミズネは足を止めないまま頷いた。


「ああ。バロメルの遺跡群は今の時代に直結する文明の遺跡といったが、それでも謎が多いんだ。失われた魔術文化もあるし、今の私たちの技術では量産が難しいものがたくさん発見されたりもする。一番私たちに身近な時代の遺跡だが、それでも十分に謎だらけの場所なんだ」


「へえ……そんなに謎だらけなのか」


「だからこそ、たまにこうやって私たち冒険者に臨時で依頼が来るわけだしな。大体暴走した魔術システムの強制停止とか、そこらへんが主な仕事だ」


 私も何度か貢献したことがある、とミズネは少し懐かしむように付け加える。カレスの歴史は、俺が思っていた以上に謎に包まれているようだった。


「じゃあ、今回もそう言う系なのかしらね……力づくが解決手段の依頼なら、あたしたちにとって割と不都合ではあるんだけど」


 軽くため息をつきながら、ミズネが不安げにそう言う。俺たちの戦力は実質ミズネの個人技のみのようなものだし、べラムさんに持たされた魔道具がどれだけのものかも今のところ未知数だ。バランスの取れたパーティ(に見える)の俺たちにとっては、唯一と言っていいほどにはっきりとした問題点だった。


「まあそう不安に思わなくてもいいさ。迷いの森と同じで、二人の安全に関しては私が責任を取るし――」


 俺たちを安心させるかのように、ミズネは優しい声で語りかけてくれる。しかし、その途中で唐突に言葉を切ると、


「――ここにいるのがどんな物かというのも、それなりに覚えがあるから、な!」


 ……そう断言しながら、俺たちの背後から迫っていた敵を振り向きざまの氷の弾丸で打ち抜いていた。あと数秒気づくのが遅れていれば奇襲されていたとそう確信できるくらいの気配のなさに、ミズネに遅れてぎこちなく振り向いた俺たちは愕然とする。


「……こ、これ、ゴーレムの類?」


 俺たちの足元に転がっていたのは、岩のような素材で形作られた犬のようなフォルムをした人形だ。ごつごつしているかと思えば突然滑らかになったりしているその輪郭は、自らが人工物だと名乗っているかのようだった。


「まあ、大まかに分類するとそうなるらしいな。専門家に言わせてみれば、『これは俺たちの慣れ親しんでるゴーレムじゃない』……らしいが」


 絶妙に分かりやすい声真似をしながら、ミズネは俺たちにそう伝えてくれる。慣れ親しんだゴーレムじゃない……か。そうなると、カガネの街で見た演習人形ともきっと違う作りなのだろう。


「そんな専門的なことはいったん置いておくとしても、こいつらは足音がほとんどない。魔力で感知することもできなくはないが、あれはあれで修業が必要なことだからな」


 未熟な冒険者が夜入れない理由の一つだ、とミズネは苦い顔をして呟く。なるほど……不注意な冒険者が奇襲を食らって重大な被害になることを恐れての措置だったってことか。確かにそれはギルドとしても昼夜に厳しくなるわけだな……


「……夜にしか出てこないなんて、まるでこの遺跡を守ってるみたいじゃない。もう滅んでからとんでもない時間が経ってるってのに大した忠誠心ねえ」


「それに関しては私も同感だ。……それに、ここに出る敵にはいくつか不気味な点があってな」


「不気味な、点?」


「そうだ。不可解な点……というほうが、もっと正確なのかもしれないが」


 俺のオウム返しに、ミズネは神妙な面持ちで頷いてみせた。


「ここには何度も調査できているし、これと同じタイプの敵も何度も倒してきた。……だが、不思議とその数は尽きないんだ。これがどういうことか、分かるか?」


 唐突に投げかけられた問いに、俺たちは一瞬黙り込む。倒しても倒しても絶滅しない敵の謎、それに感づいたのはネリンだった。


「……まさか、今でもこいつは数を増やしてるっての?」


「……ああ。九割方それで間違いないだろう、というのが私含めたこの街の見解だ。……この遺跡に潜んでいる何らかのシステムはまだ生きている、ということだな」


「それじゃその根っこから叩けばいいじゃねえか。この遺跡も探索自体は終わってるだろうし、ゴーレムが発生してる場所もきっと……」


「見つけている。そう思うだろう?」


 俺の指摘をミズネは遮って、その後大きなため息を一つ。その顔には、どこか悔しそうな表情が見え隠れしているようにも思えた。……なんでだろう、凄くろくでもない事実が明かされようとしている気がする。例えば、俺たちの考えている前提が崩れるような、そんな情報がまだ隠れているような……


「……この遺跡を作り上げた文明は、すでに滅びた。……だけど、それはあくまで文明の話だ」


 ミズネは神妙な顔をして、そう前置く。そして、大きく息を吸い込んで――


「文明が死んだが、この遺跡自体はまだ生きている。……なにせ、誰もゴーレムが生まれる場所を見つけられてないんだからな」


「生まれるところを、見たことがないって……」


「……つまり、この遺跡はまだ踏破されてないってことか⁉」


「……そうだ。言ってしまえば、まだ私たちは勝利していないということだな」


 驚きを隠せない俺たちに、ミズネはゆっくりとうなずいて見せる。しかし、一転悪戯っぽい笑みをその顔に浮かべると、


「……長年誰も勝利できなかった過去の文明を、生まれて一日もないパーティが打ち破る……成り行きではあるが、そんな箔をつけてカガネに凱旋するのも乙なんじゃないか?」


――迷いの森を破った私たちなら、決して不可能じゃないさ。


 そう言って、俺たちにそう提案してきたのだった。

遺跡を巡る謎も徐々に明かされつつ、遺跡の探索はまだまだ続きます!果たしてヒロトたちは謎を解けるのか、そしてその先に何が待っているのか、楽しみにお待ちください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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