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第五百八十八話『努力のスタート地点』

「……ロアのための作戦、思いついたのか?」


「ええ。……と言っても、すぐさま一瞬で自信を取り戻してもらえるようないいものではないんだけどね」


 少し言葉を濁しつつも、しかし自身に満ち溢れた表情でネリンは首を縦に振る。自分がいいと思ったものに対して疑いを持たずに進められるのは、ネリンの中で何かのスイッチが入っていることの証拠だった。


 懇親会の時もそうだったもんな……最初はチームリーダーと折り合いがつかないとか悩んでたくせに、いつの間にか自分の中で折り合いをつけることが出来てて。壁にぶつかっても折れることなく考えられる強さが、ネリンのことをそうさせているのだろう。少しだけ、羨ましい。


「一足飛びに大目標に行くのは難しいからね。段階を踏むという意味では、ネリンの作戦を実行するのも悪くないんじゃないかい?」


 その自信満々な姿に、アリシアも目を細めながら賛同を示す。その隣では、ミズネも静かに、ただしっかりと頷いて意見を表明していた。


 ネリンがどんなところを根拠にしてその作戦を考え付いたかは分からないが、このままでいい作戦が思いつくかって言われたら微妙だしな……。一度間違えたら致命的になりかねない以上少し怖くはあるが、だからと言ってここでうじうじしてても何にもならないか。


「……そうだな。それじゃあネリン、作戦の事を聞かせてもらってもいいか?」


「ええ、任せて頂戴。……まず、ロアはギルドマスターの家の子なんでしょ? だけど力不足が続いてて、その事を気にしてるって。……多分その時点で、目標は今のギルドマスターだと思うのよ」


「そうだろうな。高い目標ではあると思うが、ロアのことを思うに妥協した目標を定めるとはどうにも思えない」


「俺からしてもそこは同意だな。……アイツは、本当に高い目標をずっと見上げ続けてるんだと思う」


 その姿にゼラは憧れ、俺は立ち上がる強さを貰った。ロアのその姿は美徳そのものであり、見る人に勇気を与えるものだ。……だが、それと同時に自分を追い込み続ける悪徳でもある。


 ロアとゼラは、少しベクトルが違うだけで自分を認められないという点では共通しているのだ。ゼラは自分の出自を嘆き、ロアは自らの力不足を嘆く。……それでも進み続けるその姿をロアは自分で誇ってはいるものの、だからと言って自分を認められるわけじゃない。


「もっと、もっと高く、もっとうまく――って、アイツは今でも努力し続けてるんだと思う。……だけど、ロアが目指す場所はめちゃくちゃ遠いところだ。……だから、自分を誇ることはできても、許したり認めたりすることは凄く難しいと思う」


 ゼラが努力であの境地に至ったと知れば、その傾向はさらに悪化するだろう。ゼラの領域がロアにとってのゴールになり、自分を認めるまでの道のりはさらに遠くなる。……そうなったら、ゼラとロアが向き合えるのはいったいいつのことになるのやら。


「そうよね、そこまでの考えがあってて良かったわ。……だけど、そもそものスタート地点って『ベールシルト家の一員として誇らしくありたい』ってことでしょ?」


 俺の言葉を取りまとめつつ、ネリンは小さく首をかしげる。……ネリンの言う通り、確かにロアにとっての原点はそこだった。


 誇らしき家の一員として、誇らしい在り方を。それに相応しいだけの力を付けるのが、今ロアが目指している自分の姿であるわけで――


「……なら、それを果たしてあげればいいのよ。今ロアは、このギルドで大事な仕事を請け負っているでしょ?」


「……っ」


 俺の無言を肯定と受け取ったのか、ネリンは話を前に進めていく。……そうして出された結論に、俺は思わず息を呑んだ。


「私たちのサポートと、試験監督としての役割。私たちが頑張ってこの王都で成果を残すことが、ロアにとっても自分の原点を見つめ直すきっかけになるんじゃないかしら?」

 またしても新たな指針が一つ打ち出され、王都編はさらに大きく展開していくことになります。充魔期も拡大していく中、果たしてヒロトは臨んだハッピーエンドを迎えられるのか! ズレ合った二人の死線を重ね合わせるために奔走する四人の姿、是非ご期待ください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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