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第五百八十二話『パーティと言う在り方』

「……つまり、ロアとの関係をまっすぐなものにするための方法を考えてほしいってことね。……それにしてもアンタ、相当雰囲気違うわね……?」


「こっちの方が自然体、何だろうけど……。正直、混乱せざるを得ないな」


 ゼラと話し合ったレストランまで戻り、大方の事情説明が終わったところ。自分を隠さなくなったゼラの姿を見て、ネリンとアリシアは戸惑ったような表情を浮かべていた。

 

 ま、無理はないよな……。明るくてにぎやかだったはずのゼラが、今となっては物静かで感情の動きもなかなか表に出てこないような感じになってしまってるんだから。俺はそれが変化していく様子を少しずつ見ていたからなんとなく受け入れることが出来ていたが、その過程をすっ飛ばして見たら二重人格かなんかを疑われたっておかしくはないところだ。


「ごめんね。……アリシアが思っている通り、僕の本当の姿はこっちだ。……猫を被っていた、と表現すればいいのかな?」


「その表現にしては変化の幅が大きすぎる気もするがな……。しかし、本当の姿をさらそうと決断したことは好ましい事だ。……ヒロトが、その手助けをしたんだろう?」


「手助けなんて綺麗なもんじゃねえよ。俺は相当なワガママを言ったし、ワガママじゃないところは誰かの受け売りだ。……いいカッコつけては見たけど、後から振り返るとこっ恥ずかしくてさ」


 あの時ゼラに語り掛けた言葉も思いも全部嘘ではないが、だからこそ振り返ると恥ずかしいのだ。ゼラへのワガママと言う形で、俺の底にあるエゴが全部引きずり出されたみたいで。自分の考えってこんなだったのかと思うと、改めて少し恥ずかしくなってしまうのだ。


 俺と関わった人すべてが幸せでいてほしいだなんて、実に自己中心的で、絵空事で、実現するのはとても難しい事だ。……だけど、そうして欲しいと、そう成るための努力を惜しむことはしないと心に決めてしまっている自分がいる。……だから、いくら気恥ずかしくても考えることだけはやめない。


「……ゼラの前で啖呵を切った手前、俺は出来る限りの事をしてゼラの手助けをしてやりたい。……んで、お前たちに白羽の矢が立ったってわけだ」


「うん、大体そんな感じだね。……僕の個人的な問題のために呼びつけてしまって、申し訳ないとは思っているよ」


 この埋め合わせはいずれ必ず、とゼラは三人の方を見つめてそう宣言する。……しかし、つかつかとゼラに歩み寄ったネリンがその頬を両手で軽く挟んだ。


「……貸しとか借りとか埋め合わせとか、そう言うのにこだわる必要はないのよ。あたし達、報酬が欲しくてここに来たわけじゃないし」


「……へ……?」


 突然の行動に、ゼラは戸惑ったように声を上げる。その姿を見て、ネリンはかすかな笑みを浮かべた。


「なるほどね……こりゃ確かにヒロトとそっくりだわ。それも悪いところばかり」


 その笑顔は晴れやかなもので、ネリンの中で何かが確信に変わったのだとすぐに分かる。……ゼラを見つめるネリンの視線は、いつになく温かいものに思えた。


「いい? この世界の人間関係は貸し借りとか利害関係とかだけでできてるわけじゃないの。あたし達はアンタに埋め合わせを要求するつもりもないし、何か特別なお返しが欲しいわけじゃない。アンタの望みは叶ってほしいと思うから、あたしたちは力を貸すのよ」


「……すごく、個人的な願いだと思うのだけど。……それを、君たちは叶ってほしいと願ってくれるのかい?」


「当然でしょ。二人のやり取りを見てて、その仲がこじれたままである事を望めるほどあたしも薄情じゃないわ」


「ロアがゼラにとって特別な存在であることは、私たちもなんとなく勘付いていたからな。……お前が隣に居たいと表明したのなら、それを実現するための助力は惜しまないさ」


 肩を竦めるネリンの言葉を補足するように、ミズネは笑ってそんな風に言ってのける。……それがあまりに意外だったのか、ゼラは大きく目を瞬かせた。


「……ねえ、ヒロト」


「おう、どうした?」


「……君たちの仲間は、なぜか君にそっくりだね。底なしにお人好しで、代価を求めるっていう当たり前のことをしなくて。……あの場所じゃ、多分真っ先に利用されちゃうタイプだけど」


「だけど、そうなってしまう世界はお前が自分の力で抜け出してきた。なら、そのご褒美として誰かの力を借りたっていいんじゃないか?」


 スラムがどんな場所かは想像もできないが、少なくともこの場所は誰もが手を取り合える場所だ。取りたいと思った手を取れる環境が、この街にはちゃんとある。


「それと、似てるって思うんなら俺がアイツらに似て来たんだよ。……アイツらは、俺の自慢の仲間達だからさ」


 きっといつまでも、俺の憧れはアイツら三人なのだろう。たとえ追いついたとしても、いつか遠い先で追い抜けたんだとしても。……異世界で初めてできた仲間たちの姿は、いつまで経ってもキラキラと輝いたままだ。


「……そっか。出会いに恵まれてたんだね。……君も、多分僕も」


「ああ、だろうな。……折角の縁なんだから、頼れるところはとことん頼ってやろうぜ?」


 隣に座るゼラの肩に手を回しながら、俺は向かいの仲間たちを順々に見やる。その眼はどれもキラキラと輝いていて、目を合わせるたびに小さな頷きを返してくれた。


 この問題は、俺とゼラだけじゃ解決まで持っていけない問題だ。だから、仲間たちの力を借りる。それは敗北でも無力の証明でもなく、ただ力の貸しあいの一端なのだ。いつか俺も、三人たちに力を貸せる日が来たら貸すことに一切の躊躇はないし――


「……そう、だね。ロアと一緒に居るために、出来ることはなんだってやりたいからさ」


 ――そうできる集団のことを、きっと世間は『パーティ』と呼ぶんだろうからな。

 ずっと前から、ヒロトたちはパーティだったってことですね。ちょっとした出来事からひびが入ってしまったことに、紆余曲折ありながら気づけただけで。……この先も本当のパーティになっていく彼らの姿、是非ご覧いただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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