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第五百八十一話『復活早々』

「……お帰り。今日の仕事も順調だったか?」


――ゼラとの作戦会議が終わってから二時間ほど。俺はネリンたちを見送った門の前に立って、無事に帰って来た三人のことを出迎えていた。満面の笑みが浮かんでいるあたり、今日も上手く行ったとみてよさそうだな。


「ああ、ただいま。……まさか出迎えてくれるとはな。お前も中々粋な事をするじゃないか」


「雰囲気も普段通りって感じだしね。……もしかして、何かいい事でもあったのかい?」


 まだ部屋に引きこもっていると思われていたらしく、俺の事を三人は驚いたような目で見つめている。

興味津々と言った様子で放たれたアリシアの問いに、俺は堂々と胸を張って頷いて見せた。


「ああ、ちょっとな。……俺は俺なりにやってくしかないって、当たり前のことを今更思い出させられたよ」


「へえ、良い事じゃない。最初からアンタはアンタでしかないんだし、他の誰かみたいになろうだなんて思わなくていいのよ」


 俺の出した結論に、ネリンから賞賛の言葉が飛んでくる。その言い回しがどこかクレンさんと似たものを感じて、幼いころからの縁を感じずにはいられなかった。


 この言葉を俺にくれたのがクレンさんだって知ったら、ネリンはどんな表情をするんだろうな……。顔をしかめるのか、それとも素直に評価するのか。……少しほとぼりが冷めたらカミングアウトしてみるか。


 結果が気になるところではあるが、そんな事ばかりを考えてばかりではいられない。こうやって三人を迎え入れたのは、ただ俺の復活を証明するためだけじゃないんだから。


「……ところで皆、これからの予定って決まってるか? お前たちには心配かけちまったし、どこかのレストランで飯でも奢ろうと思うんだけどさ」


「そこまでしなくても構わないぞ? 誰だって悩むときはあるが、それを支え合うのがパーティというものなのだからな」


「そうだね。罪悪感なんて抱く必要はないし、これから先ヒロトが元気でいてくれることが何よりのお返しだよ」


「感謝は金額じゃなくこれからの態度で示せってことね。あたしもそっちの方が嬉しいわ」


 俺の提案に対して、三人から口々に辞退の言葉が返って来る。確かにそれらは正論だし、俺もこの提案が優しく拒まれるのはなんとなくわかっていた。……だから、これはあくまで導入だ。


「勿論、元気になった姿はこれからたくさん見せてくつもりだよ。……だけど、それとはまた別口でお前たちに協力を頼みたいことがあってさ。レストランの話をしたのは、そいつをもうそこで待たせてるからなんだ」


 三人の言葉を受け止めつつ、俺は新しい情報を開示する。それに対して、三人の目が興味ありげにふっと動いた。


 そう、どちらかと言えばこっちが本命……いや、出迎えしたいってのも本音ではあるんだけどな。レストランの提案をしたのは、間違いなくこっちが目的だ。ゼラのためにも、俺はこいつらのことをレストランに連れて行かなくてはならないんだから。


 俺があの時ゼラに提案したのは、『俺の仲間たちの力を借りる』というものだった。アリシアもネリンもミズネも対人経験に関しては俺よりもはるかに多く経験しているし、三人の知見があればいいやり方も見つかるんじゃないかと思いついたのがきっかけだ。


 最初はゼラも渋っていたが、『ロアが一番大切なんだろ?』って言葉が決め手となって俺の提案を受け入れてくれた。ロアをちらつかせれば意外と話が通る当たり、いつか悪い奴に騙されないかが心配になるくらいだ。


 ま、そういう時はロアに止めてもらえばいいか。……そういう関係を二人に築いてもらうのが、俺のやりたいことなんだからな。


「……へえ、また少し話が変わって来たね。君が助けたいっていうくらいなんだし、良い人なのは間違いないんだろうけど」


「冒険者的な仕事ってなるとちょっと余裕ないわよね……。ただでさえお仕事が相当入ってるっていうのに」


「ああ、そう言うところじゃないから大丈夫だ。対人関係の問題と言うか、ちょっとした恋愛相談というか。……正直なとこ、俺はそう言うの苦手だからさ」


「今までの感じを見る限りそうでしょうね。なんでその相談者もアンタを指名したのか、正直謎でしかないわ」


 俺の問いかけに即頷いて、ネリンは小さく息をつく。かなり辛辣な意見ではあったが、それが何故か少し心地よくもあった。


 昨日まであったちょっとの配慮がなくなったのが分かるからだろうか。決して俺がM気質なわけじゃない……と、信じたいところだな。


「とにかく、俺だけじゃそいつの悩みを解消してやれないんだ。……だからさ、お前たちの力を貸してくれないか?」


 そんな考えを一度横に置きつつ、俺は三人に頭を下げる。復活早々頭を下げられるとはこいつらも想像していなかっただろうが、俺が考えつく限りで一番頼りになるのは間違いなくこいつらなのだ。だから、なんとしてでもこの頼みだけは――


「……顔を上げてくれ、ヒロト。頭など下げなくても、お前の頼みならむげにする気はないさ」


「そうね。周りを頼れるのも才能って言葉、ちゃんとわかってくれたみたいだし?」


「レストランで話し合うってことらしいしね。……そのレストラン、美味しいんだろう?」


 それぞれの調子で、三人は俺の頼みをあっさりと快諾する。その速度には一切の迷いが無くて、最初から協力することを決めていたかのようで。……顔を挙げた先には、笑みを浮かべる俺の仲間たちが居た。


「……ああ、助かる! 道は覚えてるから、皆ついてきてくれ!」

 

 目頭が熱くなるのをこらえつつ、俺は冒険を終えた三人を先導する。久々に俺が先頭を行くその構図が、なぜだかとても感慨深かった。

 ということで、ここからが王都編の本番です! 壁を越えたヒロトとゼラ、そしてその周りに集う仲間達。彼らの知恵を結集して、果たしてゼラはロアと正しく絆を結び直せるのか!そして充魔期の顛末や如何に! 壮大な前振りを終えた王都編の展開、楽しみにしていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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