第五百七十九話『歩み寄る手段』
「……うん、協力してくれるって信じてたよ。ありがとうね、ヒロト」
「お前もノアも幸せになるには、お前たち二人が一緒にいてくれなきゃいけないからな。……深く関わった奴らには、出来る限り幸せでいてほしいだろ?」
その気持ちが両人を縛る枷になってしまうのなら自重すべきなのだろうが、ロアだってゼラのことを拒んでいたいわけじゃないと思うのだ。天才がここまでなれなれしいことに慣れなくて、自分はそう成れないことに思い悩んで。……それゆえに、少し距離感を測りかねているだけのことに過ぎないはずなのだ。
ほんとはもっと仲良くしたいと思ってるはずの二人がすれ違ってるなら、その状況が動くきっかけを作るのが俺のやるべきことだ。……この世界のどこを探しても、俺にしかできないことだ。
「……本当にありがとう。ヒロトが居なければ、僕はこんなことを考えようとも思えなかったはずだ」
「だろうな。今までの話聞いてる限り、お前って相当強情に思えるから」
一度決めたことは曲げず、たとえそれが自分に対して損になる事であろうと途中で方針を変えることが得意じゃない。……多分、下した評価も中々覆らないんだろうと思う。
よく言えば芯があって強い人間なのだが、硬いよりも柔らかい方が結果的に強度が高くなることがあるなんてのは日本じゃよくあったことだ。ゼラに関しても、同じことは言えるような気がした。
「もっと柔軟でいいし、ワガママでいたって良い。自分の願いを外に押し出すことは決して悪い事じゃないからな。……いざロアに『迷惑だ』って言われたら、その後にこれからのことは考えようぜ」
「したくもない想像だね。……ロアに迷惑だなんて言われたら、僕はしばらく冒険に出られる自信がないよ」
少し考えてしまっただけでダメージが来たのか、表情を大きく曇らせながらゼラはそうコメントする。ロアのことが絡んだ瞬間急にリアクションが豊かになることで、その思いの大きさはよりわかりやすく俺に伝わってきていた。
ま、『大切なもの以外を割り切って考える』っていうゼラの新年までも変わったわけじゃないからな。今でもゼラはロアのことを最優先で守るだろうし、ロアを傷つけるやつがいたら多分細切れにしているだろう。自分の中で一番大事にしたい根っこの部分は、どんな自分でいるかに関わらずちゃんと残るものなのだろう。
何なら今の方がその傾向は強いのかもしれない……なんて方向に思考がそれそうになって、俺は首を横に振る。ゼラの強さは冒険者じゃなくとも一目で分かる鮮烈さを持ち合わせているが、今話すべきはそこじゃなかった。
「そうならないためにも、まずはゼラへの誤解をどう解くかだよな。かなり根が深いものだとは思うし、簡単に行くことじゃないんだろうけど」
「僕から口頭で伝えたところでって感じはするしね。もっとロアが納得する形で、それも自然に見せられないと話にならない」
条件を出せば出すほどそれが何題になっていくような気がして、俺は思わず首をかしげる。長い付き合いの相手に対して今更認識を改めさせるというのも難しい話ではあるのだろうが、その第一関門をくぐらなければロアとゼラが今以上に歩み寄ることは難しそうだった。
ただでさえロアの方はゼラに対して近寄りがたさを感じてるわけだしな……。それをどう解消するか、そこが論点なんだが」
「……まあ、そこで僕の提案に話は返って来るんだけどね。僕だって順序は心得てるし、いきなりロアが僕のことを受け入れてくれるとも思えないからさ」
「今でもかなり受け止められてはいると思うけどな……」
対等かどうかって言われると答えに悩むところではあれ、ゼラに対してはロアも結構おおらかそうに思える。まあ、それがどこまで本心によるものかってのは疑問が残るところだけど。
それをはじめいろんな問題がありはするが、ゼラ自身が作戦を考えたというのが大事だ。だからこそそれをできるだけ反映してやりたいのだが、まあそこは案の中身次第だな。
「それじゃあ、お前の作戦を聞くとしようか。……お前は、どんな風にロアと歩み寄ってみたい?」
「そうだね。……本当の僕はやはり言葉が足りないから、その背中で語るのが一番手っ取り早いと思うのだけど……どうだい?」
小さく首をかしげながら、ゼラは自分で考えだした歩み寄りの方法を提案する。それを聞いて、俺は――
「……それ、歩み寄りとしてどうなんだ…………?」
ゼラの数倍ほど首を大きく傾げて、唸りながらそう返すしかなかった。
ゼラもまたゼラで人づきあいが下手というか、それだからこうなったというか。どこか似た者同士の二人が行く歩み寄りへの道、わらって見守っていただければ幸いです!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!