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第五百七十八話『ゼロから踏み出すために』

「……うん、美味しい。普段はあの温泉にしか行かないけど、こういうところでご飯を食べるの悪くないね」


「お前のルーティーンは固まりすぎだからな……。もう少し柔軟に動いてもいいと思うぞ?」


 新鮮味のあるリアクションを見せるゼラに、俺は小さな笑みを浮かべる。温泉以外に趣味がないというのはどうやらガチだったようで、目の前に出された料理に目を輝かせているのが少し子供っぽくて好印象だ。


ーーあの温泉での問答から数十分。(俺たちの間では)劇的な変化が起きたわけだが、実際に何かが変わったわけでは一切ないわけで。


 俺は相変わらず三人に釣り合わないまんまだし、ゼラとロアの間には変なすれ違いが生まれてしまっている。それをどうやって解決するかってのは、また別の問題ってことだ。


 そんなわけで、俺たちが訪れているのは温泉から程近いところにあるレストランだ。今後の方針を決めるべく、俺たちは料理に舌鼓を打ちながら向かい合っていた。


 これはあくまで余談だが、このレストランの代金は完全に俺が持っている。元はと言えば俺がゼラに突撃した形だし、ある意味で俺はゼラの先輩だからな。


「……それじゃ、改めてこれからのことを考えていくか。と言っても、お前がどうしたいのかをちゃんと聞いてからじゃないとなんとも言えないんだけどさ」


「どうしたいか、か。……それに関しては、多分もう僕の中で決まってるよ」


 俺の問いかけに対して、ゼラは薄く表情を綻ばせながらそう答える。無理に爽やかであることをやめたゼラの姿は、物静かながら芯のある等身大の少年そのものだった。


 なんつーか、ほんとにそのまんまなんだよな。何事に対しても気負いしてないというか、ある程度の余裕を持って接してるというか。悟りを開いた……とまでいうと、少し飛躍しすぎな気もするけどさ。


「おお、それじゃあ早速聞かせてもらおうじゃないか。お前はこれから、ロアとどういうふうに関わっていきたいんだ?」


 穏やかな表情のゼラに、俺は単刀直入に切り込んでいく。……すると、やはりというべきかその穏やかさが急激に引っ込んでいった。


「……身の丈に合わない願いだってわかってるけど、僕はロアの一番そばにいたい。何かあっても守れる位置で、一番に駆けつけられるところで。……その役割を他の誰かが果たすのは、絶対に嫌だな」


「ああ、いい心意気じゃねえか。誰かにその椅子を譲り渡すよりも、『それだけは絶対に譲らない』ってする方がよっぽど応援できる」


 顔を赤らめながらもしっかりと拳を握り締めるゼラに、俺は心からの賞賛を贈る。その言葉を引き出せたなら、俺も意を決して突っ込んだ甲斐があるってものだ。


 俺だってネリンやミズネ、アリシアたちの隣を譲る気はないし、アイツらから拒まれない限りはそばにいるつもりだ。アイツらは優しいから、拒むなんてことしないんだろうけどな。

  

 お互い大切なものはもう定まってて、そのためにどうするかもわかってる。ただ蹲るしかなかったところからすれば大きく一歩前進できたわけだが、それでようやくスタートラインだ。そこからどうするかは、また別問題として考えなくてはいけない。

  

 それはきっととても難しいことで、どう踏み出すか丁寧に考えなくてはいけないことだ。だからこそ二人で、似たもの同士手を貸し合いながら進めればそれが一番いいと思っていたのだがーー


「……マルク、僕に一つ考えがあるんだけど。……協力、してくれるよね?」


「当然だろ。……俺がお前を引き摺り出したんだ、最後まで付き合うに決まってる」


 そんな俺の内心を読んだかのように、ゼラは俺にそう投げかける。……もうすでに動き出そうとしているその姿が嬉しくて、俺は笑顔でその要請に応えた。

新たに変わった(戻った、かもしれませんが)ゼラが果たして何をもたらすのか、そしてその先に何が待ち受けているのか、まだまだそれは分かりません!王都編はもう少し……いやかなり続きますので、楽しみにしていただければ幸いです!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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