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第五百七十三話『ズレた視線』

「……やっぱり、お前の特別はロアなんだな」


「当然でしょ。あの子は僕にとっての希望で、あの子がいるから今の僕がいる。……変わりたいと思ったのだって、あの子がいてくれたからだ」


 答えの分かりきった質問に、熱のこもった声が返ってくる。今更すぎることではあるが、ロアのことについて問われた時のあの威圧感は幻覚でもなんでもなかったと言うわけだ。


 大切なものをはっきり定めると、ゼラはそう言っていた。つまり、その大切を傷つけるものに対しての容赦は一切しないと言う意志がそこにはある。あの場で解答の仕方を間違えていれば、その容赦ない実力が自分に向けられていた可能性は十分にあり得るわけで。


「……愛だな……」


 口にすればチャチな言葉になってしまうが、それ以上の言葉でしっくりくるものもなかなか見つからない。ゼラがロアに対して負けている感情は、好意なんて次元を遥かに飛び越えていた。


「愛……か。うん、愛してるんだろうね、僕は。あの子の隣に永遠に立とうだなんて、僕如きが思うにはあまりにもおこがましすぎるけどさ」


 自分の胸に手を当てながら、穏やかな表情でゼラは俺の言葉を肯定する。……それなのに、自嘲気味に放たれた言葉はなぜか泣いているようにも思えた。


「……お前は、それでいいのか?」


「それでいいも何もないよ。僕は確かにロアのことが好きだ。愛してる。あの子のためなら変わりたいって思えて、今の僕はここにいる。……だけど、そこまでしても僕があの子の隣に立つ権利は泡沫のものだ。あの子が気高くあろうとすればするほど、野良犬の僕は邪魔になるだけでしょ」


 右肩にできた大きな傷跡に触れながら、ゼラははっきりとそう断言する。自分のことをロアにとって邪魔な人間なのだと、そう断言する。……まるで頭を殴られたかのような気持ち悪さが、急に俺に襲いかかった。


 その考えは間違っている。ずれている。……それがゼラの自己認識なんだとしても、アイツはそんなことを思っちゃいない。むしろ尊敬すらしているはずだ。今この時も、ゼラの背中を追いかけているはずだ。なのになんで、他ならぬお前がーー


『……私は、私が誇れるような自分になりたいだけです』


 ぐるぐると空転する思考の中で、ロアが俺に語ってみせた理想が何度もリフレインする。その姿がどう考えても今のゼラにはなくて、どうしたって間違えていて。……そのあり方に、物申してやりたくて仕方がない。


 だけど、その行動は無責任だ。ずっと言わずにいた感情を俺の口から伝えさせるなんてそんなこと、絶対にあっちゃいけない。……そんなナンセンスなこと、してたまるか。


 だが、伝えなければゼラはいつまでもズレたままだ。今の自分の評価を改めないまま、自分で自分のことを一生認められないまま、期限付きの日々をロアと過ごすことになる。……それが、本当に二人にとっての正解なのか。


「……んなこと、あるわけねえだろ」


 二人共の話を聞いて、クレンさんに背中をぶっ叩かれた今だからわかる。……そんな関係性が正しいはずがないのだと、俺の心が疼いている。 


「……どうしたのヒロト、急に思い詰めたような顔をして」


 いつのまにか黙りこくっていた俺のことを、ゼラの体温のない目が覗き込む。それはずっと威圧感たっぷりに映っていて、どうしても怯えるしかできなかった目だ。


 だが、それが不思議と今はない。怖くないと言ったら嘘だが、だけど何も言えないわけじゃない。どれだけ身勝手でもこれだけは言わなければならないと確信できる。その思いのままに、俺は口を開いてーー


「……俺の知り合いの話を、お前にしたくてさ。……どうしても、今のお前を見てると思い出しちまうんだよ」


 話をしたくて仕方がない俺が選んだのは、どうしようもなく古典的な誤魔化し方だった。

ということで、ヒロトの言葉は次回へと続きます! 果たしてその言葉はゼラへと届くのか、是非ご注目ください!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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