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第五百七十話『強くなる方法』

「……どうやら、悪ふざけとかで僕にそう問いかけてるってわけじゃなさそうだね。君には君なりの決意があって、真剣に僕へと質問を投げかけている。……だからこそ、困惑しないわけにはいかないんだけどさ」


 俺の方を見つめながら、ゼラはこめかみを伝っていた水滴をぬぐう。それが湯なのか汗なのかは分からないが、困惑がさらに深まっているということだけははっきりと分かった。


「僕がなんて呼ばれてるか、この街でどんな風に扱われてるか。それを知らない人は王都の冒険者にはいないくらいだって自負してるよ? ……そんな僕に強さの秘訣を聞くのは、おかしなことじゃないかい?」


「俺からしたらそうじゃねえな。確かにお前が他の冒険者からちょっと遠ざけられてるのも分かるし、その戦い方が天才としか思えないような凄みを纏ってるのもこの目で見たから知ってる。……だけど、それを才能の賜物って決めつけてるのは他の冒険者たちだ。あくまでも、俺じゃねえ」


 戸惑っているゼラの視線を、俺の視線が捕まえる。熱い湯の感覚はいつしか感じられなくなっていて、今俺に必要な情報だけが感じ取れているかのようだった。


 実際何も言われなければ、俺もゼラの力を才能だと断じざるを得なかった――と言うか、実際そうだと思ってた。ロアとの話を聞いて、それはほとんど確信に変わりかけていたくらいだからな。


 だけど、そうじゃなかったなら話は大きく変わる。最終的に背中を押してくれたのは店主さんの言葉だが、それを信じたのは俺だ。……だって、そうであってくれた方が俺的には嬉しいから。ゼラが途轍もない努力の末に天才と呼ばれる力を身に着けていたのだとしたら、それを教われるかもしれないからだ。


 俺にとってのゴールは、アイツらの背中に追いつくことだ。肩を並べても誇れるように、自分が納得できるだけの何かを、俺は見つけ出さなくてはいけない。そのための手掛かりがゼラから聞けるのであれば、これほどうれしい話もないというものだった。


「……本気で、僕から強くなるための方法を学ぼうとしてるんだね。……学べるって、思えてるんだね」


「簡単にはいかねえと思ってるけどな。……だけど、俺の想像が正しいなら不可能ってわけじゃないはずだ。お前のやり方から学べることは、きっと俺にだってある」


 その成果が王都に居る間に出るわけがないってのは分かってるし、ギルドに居る冒険者たちの評価を一瞬で覆すことなんてできないのは間違いない。……だから、もっと遠くを見るのだ。できないことを思っている暇があるなら、今できることに向けて舵を切り直せばいいだけなんだから。


「最終的な目標にたどり着くためには、一つでも多くの手掛かりが欲しい。やり方が欲しい。……だから頼む、俺に力を貸してくれないか?」


 もう一度両手を合わせて、俺はゼラに向かって頭を下げる。たとえどれだけ的外れな推測の上に成り立つものだとしても、それが正しい事を俺は信じるしかない。……やれることをやるというのは、きっとそう言うことなのだ。


 そう自分に言い聞かせながら、俺はゼラに向かって深々と頭を下げ続ける。……しばらくの間、浴室に沈黙が落ちた。


 その沈黙は苦しいが、俺にはこれ以上の交渉材料を持たない。これでもまだゼラの心を動かすのに足りないのなら、俺はまた新しいヒントを探さなければいけないのだが――


「……大事な存在を、しっかり心の中に定めることだ」


「……え?」


 やけに低いゼラの声が俺たちの沈黙を破ったことに、俺は思わず顔を上げる。そこに居たのは、いつも通りの柔らかい表情をしたゼラ・アルフィウム――では、なかった。


「どうしても、何をかけても守りたいもの、尊重し続けたいものを心に決めて、決してあきらめない。……それ以外のすべてを犠牲にしてでも」


 その顔からは表情が消え、まるで能面のようだ。何一つ、そこからはフレンドリーさが読み取れない。俺が知っていたゼラは、どこにもいない。


「……死んでも大事なものの傍に居るんだって思えば、それ以外の全ての代償は無視できる。――どうだい、簡単だろ?」


……俺はもしかしたら、とんでもない危険地帯へと足を踏み入れてしまったのかもしれなかった。

色々と不穏な雰囲気を纏って来たゼラですが、ようやくそのベールを取ることが出来そうです。彼がヒロトに一体何を語るのか、楽しみにしていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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