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第五百五十一話『心に刺さった棘』

「……それじゃ、あたしたちは仕事こなしてくるから。くれぐれも、アンタも無理はしないでよ?」


「ああ、分かってる。……ごめんな、皆」


 平原へと続く門の前に立って、俺はクエストへと向かう皆を見送る。そのシルエットはどれも大きくて、やけに遠いような気がした。


「やだなあ、ボクたちは謝ってほしくて動くわけじゃないんだよ? 今まで君が頑張ってきた分だけボクたちも頑張って来るから、ヒロトは思い切り羽を伸ばしてくれ」


 目を伏せる俺に向かって、アリシアがそんな風に頷く。その隣では、ミズネも同じように俺の事を見つめていた。


 その心遣いが嬉しくて、痛い。一夜が明けてもなお、俺の心で存在を主張している棘は抜けないままだった。その痛みは今も、俺の心をジクジクと蝕んでいる。


「……おう、ゆっくりしてくるよ。そっちこそ、無茶はしないでくれよ」


「ああ、大丈夫だ。必ず私たちはお前の下に戻って来る。今日の晩御飯も、お前と一緒に囲もうじゃないか」


「あ、それいいわね。今日はどっかのお店探してみる?」


 ミズネの提案に、ネリンは笑顔で食いついてくる。それを見つめるミズネの瞳は、まるで子を見つめる母親のように見えた。


「それじゃ、俺も動けるだけの気力を保っとかないとな。……ありがとう、皆」


「うん、ボクたちが聞きたかったのはそっちの方だ。それじゃあ、お互いに有意義な時間を過ごそうじゃないか」


「だな。……行ってらっしゃい、三人とも」


 右手を大きく振って、俺は三人を送り出す。少しずつ離れゆくその中に混ざりたい気持ちはあっても、心の中に残ったわだかまりがそれを許してくれなかった。中途半端なままで混ざってもやけどするだけだと、俺の中の一部が声高に主張していた。


「……さて」


 去っていく三人の姿に背を向けて、俺は王都の町並みに視線を戻す。……その中でも一際浮いた雰囲気を放つ少女が、少し離れたところにある店の傍に立っていた。


「……しっかり見送れましたか?」


 その少女――ロアの下に駆け寄ると、ロアは目じりを下げながらそう問いかけてくる。それに迷い無く頷いたあと、俺は頭を掻いた。


「ああ、ちゃんとできた。悪いな、ワガママにつき合わせちゃって」


「これくらいなら面倒にも当たりませんよ。ちゃんと自分のやりたいことを主張できるのは、ある意味いい兆候とも言えますし」


 俺の謝罪にゆるゆると首を横に振って、ロアは俺の事をそう評する。俺よりも年下のはずなのに、いろんなことを俯瞰してみることが出来るのは流石というしかなかった。


「それじゃあ、今日も色々と動きましょうか。……と言っても、今の私たちに必要なのはどこまで言っても基礎体力の類なのですが」


「そうだな。体力も瞬発力も、アイツらと並ぶための土台がまだ出来上がってねえ」


 それを一日二日で身に着けようなどと考えるのは、真面目にトレーニングを積んで来た奴らに対して喧嘩を売っているような気がしないでもない。だけど、追いつけると信じてやるしかないのだ。それが傍からみてどれだけの無茶であったって、やる以外の選択肢なんてもとからありはしないのだ。


「……どうした、ロア?」


 そんな当たり前のことを考える俺の顔を、ロアはじいっと見つめている。それが少し不思議で、俺はそうやって問いかけた。


「今は少しでも土台を築き上げる時だろ? ……それなら、一分一秒たりとも無駄にできねえんじゃねえか?」


「……そうですね。それじゃあ、行きましょうか」


 続けた俺の言葉に、ロアは軽く目を伏せる。そして、突然意を決したようにくるりと振り返って、王都の中心に向かって歩き出した。


 どこかロアらしくない態度のような気はするが、今考えるべきは強くなることだ。一分でも一秒でも早く、俺はあいつらに何かを返せるくらいにならないと。……そうじゃ、ないと。


 その固い決意とともに、俺はロアの背中を追いかける。その先に俺の中の棘を引き抜くための鍵があると、俺は強く信じていた。


「……これは、相当酷い状況ですね」


――だから、ロアが口元でそう呟いたことも俺は知らなかった。


色々な人たちからさんざん言われてるヒロトですが、実際かなり重症です。彼にとって光となるのはいったいどんなことなのか、光が差し込む時をお待ちいただければなーと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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