表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

545/714

第五百四十四話『心の支柱』

「そういや、アンタはあたしとアリシアの話ってどこまで知ってるんだっけ。あたしがいろんなゲーム持ってきてはアイツに挑んでた、ってとこまでは知ってる?」


「ああ、知ってるよ。それで毎回返り討ちにされてたことまで含めてアリシアから聞いてる」


 俺の返答に、ネリンは少しばかり苦い表情を浮かべる。だが、それも一瞬のことだ。すぐに普段の表情に戻ると、ネリンは軽く手を合わせた。


「そう、なら話が早いわ。私がしようと思ってたのは、どんなメンタルでその挑み続ける期間を過ごしてたかって話だから。……ま、そう思ってた期間がかなり長いから話が長くなるって寸法なんだけど」


「お前って負けず嫌いだもんな……。だからこそアリシアの目にもとまったのかもしれないけど」


 孤独だったアリシアには毎日挑みかかってきてくれること自体が嬉しかったのだと、そう目を細めていた

アリシアの表情を俺は思い出す。ネリンにとってもアリシアにとっても、お互いの存在が幼少期の二人を語るうえで大きな転換期になっているのは言うまでもないことだ。


 そういう関係性を、俺は羨ましいなあと思ってしまう。ライバルというか、戦友というか。お互いがお互いにとって外しては語れない存在なのが、すごくいいなと思ったんだ。


「負けず嫌いだから、あたしはアリシアに毎日挑みに行った。……まあ、それも間違ってはいないのよね。あたしの負けず嫌いは生まれつきのものだし、治る気もしないし」


 治す気もないしね、とネリンは強気に笑って見せる。しかし、俺が引っ掛かったのはその少し前の言葉だった。


「……まるで負けず嫌い以外の理由があるみたいな言い方だな?」


「そうよ、それ以外の理由があったの。単に負けず嫌いってだけじゃ、いくらなんでも毎回毎回負け続けるのに耐えられないでしょ?」


「……まあ、それは確かに」


 負けるのが嫌いで悔しいなら、確かにアリシアへの連戦連敗は心に来るものがあるかもしれない。それを支えるのには、負けず嫌いだけじゃない何かが必要なのかもしれなかった。


「と言っても、そんなに大それた理由じゃないんだけどね。子供って言われれば子供な感情だと思うけど、今もそれはあたしの中で大事なものだし」


「大事なもの、か。……それ、俺が聞いていいやつか?」


 聞かせるつもりがあるから来てくれているのだろうが、そういう話を聞くのはやっぱり緊張するものだ。そんな俺の様子がおかしかったのか、ネリンは軽く体を揺らして笑っていた。


「大丈夫よ、いまさらアンタに隠すことでもないし。……というか、分かりやすい理由なのよね」


「……それじゃあ、聞かせてもらおうか。多分、それを話してからが本番なんだろうしさ」


 夜は長いと言えど、話せる量には限りがあるだろうしな。せっかくネリンがここに来てくれたんだし、それに報いられるだけのものが見つけられればいいと思った。まあ、何はともあれネリンにとっても楽しい時間になるのが一番ではあるのだけれど――


「そうね、そこからが本番よ。……あたしが毎日毎日アリシアに挑みに行けたのは、『パパとママの子供』っていう誇りがあったからなの」


「パパとママの――確かに、立派なご両親だもんな」


「そうよ。一代で街一番の旅館を作り上げたママと、カガネの中でもトップクラスの実力者であるパパ。その一人娘のあたしなら、何でもできるって思ってたの。今はダメでも、いつかはきっと、アリシアでさえも超えられる、なんてね」


 結局超えられてるかって言われたら微妙だけど、とネリンは小さく笑って見せる。だが、その言葉は俺の中に響いていた。


「……それは、良い誇りだな。二人が聞いたらきっと喜ぶんじゃないか?」


「流石にそれを言うのは照れくさいわよ。勝手にパパとママの名前を借りて、自分まで大きくなった気でいたんだから」


 頬をポリポリとかきながら、ネリンはそう続ける。その姿を見るだけで、離れてもなおネリンが両親のことを強く思っているのが伝わって来た。


 反抗期とかの年ごろでもおかしくないのに、そんな感じも一切しないしな……というか、親子喧嘩とかしたことないんじゃないだろうか。


「今思えばしょうもないプライドだと思うけど、あの時のあたしにはそれが一番大事だったの。その誇りがあれば、何回転んでも私は無敵だって思ってたわ」


「……それは、確かに挑み続ける理由にもなるな」


 言ってしまえば、決して揺らぎようのない最強の精神的支柱だろう。それが幼いころのネリンを支えていたのなら、アリシアが驚くほどに挑戦を続けられたことも納得だった。


「ま、それを正直に言うのは恥ずかしいからアリシアには秘密なんだけどね。……でも、今のアンタに必要なのはそういう支えなんじゃない?」


 そうまとめて、ネリンは俺の方を見つめる。……小さなころのネリンを支えた心強い支柱は、確かに今の俺にも必要だと言えるものな気がした。

ネリンは今でも両親のことが大好きなんですよね……ネリンが冒険者になろうと一人で頑張ってた頃の話とか、ヒロトと出会う直前の話とか、そういうのにもいずれ触れていけたらいいなあとは思っております。まあ、ネリンがそこを話したがらないのが一番の問題ではあるのですが……

 明日は今年最後の更新! 年の瀬までよろしくお願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ