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第五百四十一話『堂々巡りにゴールは無くて』

「……ふう」


 宿のベッドに寝転んで、俺は大きく息をつく。帰り道に必死に押し殺してきた疲れが、ベッドに寝転んだ瞬間に一気にあふれ出してくるような気がした。体中があり得ないくらいに重くて、思考もやたらと鈍い。今までに感じたことがないようなねっとりとした疲労感が、俺を包み込んでいた。


 それが何によって引き起こされているものなのか、その答えは割と明白だ。今日一日で、俺は新しい見方を、視点を、考え方を取り込み過ぎてしまったのだ。……頭の中が、情報で洪水を起こしているんじゃないだろうか。


「何も分からないよりは、ありがたいことだとは思うんだけどさ……」


 ロアがいてくれなければ、今も俺はきっとここでうずくまったままだったのだろう。それでもネリンたちは俺を宴会に連れ出してくれただろうけど、結果としてそれは俺の悩みをよりややこしくするだけだったし。結局のところ、何一つ解決なんかしていない。俺はまだ、自分の行くべき道を知らない。


「……妥協は、出来る気がしねえんだよな……」


 アリシアに言われた通り、俺という人間は大分頑固な方だと思う。一度できてしまったこだわりは簡単に曲げられないし、ゴールを書き換えるというのも難しい。俺の中にあるこのもやもやとした感情は、俺が俺自身の力量に納得がいかない限り永遠に残り続けるものなのだろう。


 今のままじゃ、あの時俺に厳しい声をかけた人たちも、何より俺も納得が出来ないままだ。……それは、なんとなく嫌だった。


 見返してやりたいとか、ぎゃふんと言わせたいとか、そういうことじゃないんだろうけどな。俺がギルドの人たちの言葉をいつまでも気にしてしまっているのは、それが的を射ているからに他ならないわけで。


「……力不足、かあ」


 カレスに来てから、大体二か月ぐらいが過ぎただろうか。その間いろいろな人と出会って、少しずつ何もかも違うこの世界になじんでいって。……だけどまだ、俺はカレス生まれの人達と同じように離れていないのだろう。


 郷に入っては郷に従えなんていうけど、身体能力までもがそれについてきてくれるはずもないしな……ミズネたちがいなきゃ、王都ってのは俺にとってまだまだ分不相応なところなのは分かり切った話だ。


 十分な実力があったヴァルさんでさえ、妥協して冒険者の道を進むことを選んでいる。憧れと折り合いをつけて、自分の行ける道を全力で進んで。それで得た結果は、きっと途轍もなく尊いものだ。それが望んだゴールと違っていたって、それがヴァルさんを貶す理由になんてなりはしない。……だけど、その背中を追いかけられるかと言ったら答えはノーだ。


「……ダメだな、俺……」


 腕で軽く目を覆いながら、俺は口元でそうこぼす。何度思考を繰り返しても、同じところを巡りばかりでちっとも先の段階に進んでいってはくれなかった。


 帰り道から今に至るまで、俺の中の議題はずっと変わらないままだ。ヴァルさんが提示した解法を否定することもできず、かといってそれを受け入れることもできず。……ロアが示してくれた道筋と全く逆を行く歩み方に、どういうリアクションをしていいのかが分からない。


 ……もう今日は寝てしまおうか。一度熟睡してすっきりしてしまえば、八方ふさがりになったこの状況に何か新しい視点を持ち込めるかもしれない。……まあ、こんな状況で熟睡できるかどうかがそもそも分かった物じゃないのだけれど――


「……ん?」


 そんなことを思いながら目を閉じようとしたとき、微かに響いたノックの音が俺の耳に届く。……ルームサービスはいらないって、チェックインの時に言ったはずだけどな……?


 そうは言っても、来客がいるからには無視するわけにはいかない。俺はベッドから降りて、少し離れた位置にあるドアに向けて歩き出した。


「はいはーい、今開けますよー……」


 疲れた体にムチを打ちながら、俺はゆっくりとドアノブを下に押す。そのまま体重をドアに預けて、やっとのことで俺はドアを押し開けて――


「……ヒロト、今時間ある?」


「……え?」


――その来客がネリンであったことに、俺は思わず呆けた声を上げるしかなかった。

突然ヒロトの部屋を訪れたネリン、その要件はいったい何なのか。王都編でもここいらが一二を争うシリアスな部分になると思いますので、是非お付き合いいただければ幸いでございます!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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