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第五百四十話『二つの解法』

「……ヒロト、浮かない顔だな。何か嫌な事でも思い出したか?」


 宴会が終わり、ロアたちとも解散して俺たち四人は今宿を目指している。すっかり暗くなった街をゆっくりと歩いている中で、ミズネは唐突にそんなことを切り出した。


「いや、別に嫌なことってわけじゃない。……ただ少し、考え事をしちゃっててさ」


 今更隠し事をするのも無粋な気がするし、俺は素直にそう答える。その答えはかなり気がかりの様だったらしく、ミズネだけでなく他の二人からも視線が向けられた。


「あんたってほんとに色々と考えがちよね。それを悪い事とは言わないし、考えなくちゃいけない時だってたくさんあるんでしょうけど」


「ああ、そうだな。……少なくとも、今の俺にとっては考えなくちゃいけないことだ」


 どこか困ったような笑みを浮かべるネリンの目を見つめながら、俺は小さく頷く。あの宴会を――というかヴァルさんの話を聞いて、俺の中にはとある引っ掛かりが生まれてしまっていた。


「憧れとの折り合い……なあ」


 その考え方は、今の俺とロアのやっている事の対極に位置するようなものだ。自分にできる最善を選んで、その先で公開のないものを掴み取る。……それは確かに、俺たちの悩みに対する一つの結論の様で。


「……酒飲みが酔った勢いでした話なんて、話半分に聞いておくのが一番だと思うわよ? 確かにあのエピソードだけは特別なように聞こえたけど、だからと言ってそれに従わなきゃいけないなんてことはないし、教訓にしようだなんて必ずしも思わなくていいわけだし」


 無視しろともいえないけどね、とネリンは軽く肩をすくめてみせる。実家が宿って事もあるし、多分酔っぱらいの相手とかも俺たちよりしてきてるんだろうな……。


「まあ、含みのある話ではあったね。騎士団なんて存在のことは初めて聞いたし、ボクとしては興味深い話だったよ」


「そうだな。儀礼のための騎士団というのは、興味深い概念だった」


 アリシアの寸評に賛同するように、ミズネもこくりと頷く。……騎士団関連以外のところに何一つ触れていないのは、ミズネなりの優しさだと思っておこう。


「それでも、あの人の話をそんなに深く考えすぎなくてもいいと思うけどね。憧れと現実の間で妥協して終わらせられるような人は、きっと君みたいに物事を深く考えることも少ないと思うし」


「そうかもしれないわね。そういう半端な結果を求めないってのは、あんたのいいところでもあると思うし。……懇親会の時とか、そうだったでしょ?」


「……だったな。あの時は迷惑をかけた」


 二位という成績を残せたのに、俺の口からは悔しいって感情しかこぼれてなかったんだからな。周りがうまくフォローしてくれたから何とかなった感じはあれど、そうじゃなかったら大惨事だ。……あれも、自分の中で折り合いがつかなかった例としては確かに典型的かもしれない。


「……俺、何かに折り合いをつけて妥協するの苦手なのかなあ……?」


 俺自身そう思うことは少ないにせよ、揃いに揃った状況証拠がそれを認めさせてくるのだ。どうも俺は、自分が納得できる結果以外をダメなものだと見ているのではないか……ってな。


 ぜいたくな悩みだとは思う。二位だって十分凄い事だし、騎士団になれなくても冒険者として一定の成功を収めているヴァルさんはすごい人だ。だけど、「それでいいのか」という問いを止められない。理想を前に妥協することを許していいのかと、俺は俺に問いかけずにはいられない。


「ヒロトはなにぶん頑固だからね。一度ゴールを設定してしまったらそれを動かすことに納得できないというか、妥協が出来ないというか……。多分、それは生来のものなんだと思うよ」


 考え込む俺をよそに、アリシアは俺の事をそんな風に評する。そう言われると確かに聞こえはいい気がするが、それが今の俺を苦しめているのもまた事実だった。


「……俺、どうすればいいんだろうな……?」


 俺の中にある問題に対して、今日だけで二つの答え方が提示された形だ。そのどちらにも長所と短所があって、単純な価値比較は決してできない。……だからこそ、なおさらめんどくさいんだろうけどさ。


 夜の街を皆と歩きながら、俺は考えを巡らせ続ける。新しく提示されたヴァルさんからの解法は、俺の事を混乱させるには十分すぎた。

突然に提示されたもう一つの憧れとの向き合い方を、ヒロトは果たしてどう消化するのか、それとも理解できないものとして一度遠ざけるのか。その点も含めて王都編はまだまだ盛り上がっていきますので、どうぞお楽しみいただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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