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第五十三話『過去と最も近い街』

「……ほれ、着いたぞ。バロメルだ」

 

……昨日も体験した白い光の中で、おじいさんのしわがれた声が聞こえてきた。それに従って目を開けると、一面レンガのようなものでできた赤茶色の壁が目に飛び込んでくる。それを見るだけで、ここがエルフの里でないことは一目瞭然だった。


「ということは、ここがバロメル……」


「そうだ。……随分と、懐かしく感じるな」


「この素材……カガネでは見ないわね。ここら辺の特産なのかしら」


 俺たちはきょろきょろしながら見慣れない風景を観察する。建物の中へのテレポートではあったが、それでも見慣れない景色に俺のテンションは上がっていた。


「……それじゃ、俺の仕事はここまでだ。……まあ、せいぜい幸せに暮らせよ」


 無事に目的地に着いたことを確認すると、俺たちを送り届けてくれたテレポート師のおじいさんは姿を消してしまった。その不愛想っぷりに俺たちが困惑していると、ミズネがふと苦笑する。


「……昔からあの人はそうでな。まあ、言ってしまえば口下手なんだ」


 気のいい奴ではあるんだけどな、とミズネはそう付け加える。さすがはエルフのコミュニティーというべきか、ぱっと見年代が離れていても、その間にはやはり何らかの関係性が存在しているようだった。


「……とまあ、その話はまたの機会に。……ここはバロメル、誰が言い出したか『過去と最も近い街』だ」


「過去に……」


「一番近い、街……?」


 いきなり放たれた意味ありげなワードに思わず俺がそうつぶやくと、ネリンがその後を引き継ぐようにしてオウム返しを完成させる。ミズネは俺たちに対して頷くと、


「ここは周辺に遺跡が点在していてな。冒険者稼業も活発なら、ここを訪れる研究者に向けた宿泊産業、おまけに観光産業までもが遺跡やそれに似通った街並みによって成り立っているんだ。そもそもこの街自体が大きな遺跡を復元してできたものという噂もあるくらいだからな」


 さすがに嘘だとは思うが、と締めくくり、ミズネは俺たちへの説明を終えた。


 遺跡を復元したとされる街……か。地球の基準で考えるならマチュピチュやらを復元してもう一度住めるように改良を施した、ということなのだろうか。もうちょっと突飛に考えると、アトランティスを見つけ出したうえで街に改良したと、そう表現することもできるだろう。なんにせよ、並大抵の苦労でできることでないだろうことははっきりと理解できた。


「ということは、このレンガも……?」


「ああ、きっとヒロトが想像したとおりだ。このレンガ技術に関しては、いまだに数々の逸話が残っているそうでな。なんでも一人の男が持ち込んだ革新的な技術らしいんだ」


 ずいぶんあいまいな聞き方になってしまったが、察しのいいミズネは俺の聞きたいことをくみ取ってそう返してくれる。その察しの良さをどうかいつも発揮してくれるように願うばかりだが、今はそれよりもミズネが付け加えた最後の豆知識が問題だった。


 一人の男がレンガ技術を持ち込んだ……それならば、そいつはほぼ間違いなく元地球人だ。エイスさんの知る人と同じかは分からないが、地球の文化は思った以上にこの世界に深く根付いているものと考えた方がいいのかもしれない。それにしては、図鑑やら辞書がない事は違和感ありありなのだが……


「へえ……レンガっていうのね、これ。カガネでは全く使われない技術だからびっくりしちゃった。……ヒロト、よく知ってたわね」


「確かにそうだな。ヒロトが博識なのは十分知っているが、まさかレンガのことまで網羅しているとは思わなかった」


 そんなことを考えていると、二人が俺に向かって感心したような視線を向けていることに気が付いた。……どうやらこの世界のレンガはドマイナーらしい。二人の称賛に、俺はほおを掻きながら、


「……まあ、図鑑でちょっと、な」


 そう、はぐらかすように答えるにとどめておいた。


 異世界物のお約束――と言っても九割が友人からの受け売りだが――としては、俺が異世界人であるとばれたらほぼ確実に騒ぎになる。それはそれでいろいろなものに出会うきっかけにはなるのだろうが、騒がしくなるのは御免だからな。


「ズカンにはそんなことまで書いてあるのね……それ、かなり万能なんじゃない?」


「どういう原理か失伝したはずの迷いの森の地図まであるわけだからな。……すごいものを持ったな、ヒロト」


 俺のそんな思惑には幸い気づかれることなく、二人の興味は図鑑の方へと向かっていく。図鑑スゲー、となる分には俺は大歓迎だ。この世界でも図鑑が一般的になるかもしれないからな。神が暮れた図鑑は確かにすごいのだが、図鑑ごとの記述の違いを楽しむのも図鑑の魅力だし。それを味わうためには、この世界での図鑑普及が不可欠なのだ。


――まあ、強引に図鑑を流行らせようとする気は今のところないのだけれど。


「俺の出身が大分孤立した集落でな……境遇としてはミズネと似てるかもしれねえ。外に行くときのお守りとして、俺の一族が今まで編纂してきた図鑑を貰い受けたんだ」


 かと言ってただただ謎の図鑑にしておくのも面倒ごとの予感がするので、俺は一まずそう説明を付けておく。お守りってところはあながち間違いでもないしな。


「そういうことだったのね……。道理でやたら分厚いわけよ」


「……いずれ、お礼を言わねばな。ヒロトの一族のおかげで、私はキリを救えたのだから」


 俺の説明に納得してくれたのか、二人がそう言って図鑑の話題は終わりを告げる。おもむろにミズネはくるっと反転し、出口の方へと視線を向けた。


「さあ、行こう。まずは借り家の解約だ。これはそんなにかからないから、出来るなら午前中に――」


 そう言いながら、ミズネが出口に向かって歩き出そうとした、その時だった。


「…………あれ?ミズネさん!ミズネさんじゃないですか!いつの間に帰ってきてたんですかー⁉」


……正面から歩いて来た小柄な女の人が、ミズネの腰に抱き着くようにして顔をうずめたのは。……そして、よく見ればその人は見慣れた制服を着ているような気がして――


「あなたの帰りを私たちはずーーっと待ってました!さあさあ、ギルドに来ていただけますね⁉」


――バロメルでもどうやら一山あるらしいと、俺たちが察するまでに五秒もかからなかった。

ということで、今回からバロメル編開幕です!編とくくってはいますが、ゆるゆるとした雰囲気は崩さないスタンスで行きますのでどうかご安心を!新しい環境の中で三人がどんな活躍を見せてくれるのか、更新を楽しみに待っていただければと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!



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